敷地は新潟砂丘の頂、新潟市中央区二葉町。古くは170年程前から始まった砂防林整備地域、その後1960〜70年代、新潟大火の復興に際して文教施設や邸宅の建築により市街化が進んだ。そして現代、大きな邸宅跡地は小さく分割され現在の住宅地としての姿を現す。
この敷地はその歴史の中で生まれた7 軒の家に囲まれた旗竿地。
敷地(旗)は竿を介し砂防林として整備された松林に大きく開けている。またこのエリアは景観計画特別地域として住宅の緑化や生垣などのルールが整備されており、松林と各家の緑化が一体的に感じられる緑豊かな環境が守られている地域である。
そんな土地に夫婦と子供2人が暮らす住宅を計画。
設計に際して求められたことは、
7軒に囲まれていることによる閉塞感を感じないように、かつプライバシーをしっかりと確保すること。
風や陽が抜けること。
明るく開放的で前面の松林を見通せること。
ピアノの音響と防音に配慮すること。
子供達が遊びまわれる屋外空間を作ること。
主寝室、和室といった個室をコンパクトに1Fに配置し、それ以外を全て2Fに配置することで、地面に接する建築面積を出来うる限り小さくし、敷地に大きな余白を残した。建物は1Fより2F、2Fより屋根を大きくすることで、その余白には大きく屋根が架けられ、有用な屋外空間として子供達の遊びや家族の色々な活動を支えてくれている。
また、この土地において開放的な家族の拠り所を作るために、2階に配置されたLDKの外部には2Fまで届く背の高い樹木を沢山植え、その樹々に面してリビングの東西そして北面の3方に大きな窓を開けた。東西2面の大開口については、植えた樹々を包むように更にその外側に壁を回し、それにより作られる「屋外のような室内のような曖昧な領域/バッファスペース」が、雪や雨、夏の日射や冬の北西風、そしてプライバシーを調節し家を守ることで、高密な住宅地の中で、四季の変化に包まれた豊かな生活が獲得出来ている。また、その壁を防火壁とすることで、準防火地域であるこの敷地において木製サッシによる大開口を実現できている。
北面大開口では松林に向け大きな屋根と薄いスノコ床を伸ばし、窓の直ぐそばに屋根と床を貫く大きなカツラの木を植え、その奥向こうには松林が広がり、さらに遠くの空へと視界が抜ける。それらを一体的な風景として取り込むことで、豊かに生い茂る緑を囲い込む、風の抜ける開放的な生活を可能にしている。
LDK南側には開口を設けず、クライアント生家にて大切に残されていた格天井材を再利用した壁面収納を配置し厚い壁とした。それにより、敷地南側に近接し立ち並ぶ4軒の家に対しての、ピアノの防音を計画。厚さや材種の異なる収納壁は防音という性能を超えて、豊かな音色を作る音響壁としての性能を発揮出来ている。
7軒に囲まれたこの敷地において試行されたのは、プライバシーの確保や防火措置、防音措置といった近隣からの離れ感、そして遠くの松林や空を生活に囲い込む開放感。すなわちそれは「近くを離し、遠くを掴む」そんな「距離の反転」ともいえる設え。
この土地に建物が建つ以前よりも現在が、通りとの関係がより近親に、そしてより開放的に感じられるのもまた、この距離の反転による効果なのだと思う。
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