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記事作成・更新日: 2014年12月12日

はじまりは失敗から。理系夫婦と建築家の三人四脚での家づくり

[SuMiKaの家づくり暮らしづくり Vol.02]

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家づくりの直前に転勤が決定

そのとき起きたことが未来にどんな影響を与えるかなんて簡単にはわからないものだ。だから、林さん一家がはじめての家づくりに取り組んだときも、当初は“失敗してしまった”としか思えなかった。

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リビングでくつろぐ林さん一家。ステップフロアになっていて奥に子ども部屋が見える

林さん一家は2011年、家を建てるために、埼玉県に土地を買った。共働きの林さん一家は、子育て環境を考えるなら母親の負担を軽くしたほうがよいという判断から、奥さまの職場に近い土地を選ぶことにした。土地を買って、ハウスメーカーと契約を結んで、基本プランも煮詰めて、4ヵ月かけて詳細設計も完成させた。そして、いよいよ着工という時期に、奥さまの東京への転勤が決まった。
家を建てるために膨大なエネルギーを注ぎ込んでいた林さん一家の建築計画はここで急ブレーキ。このまま埼玉県に家を建てるべきか、それとも新たに東京都に土地を探すべきか──。2ヵ月悩んで、出した答えは「東京に住まう土地を新しく探そう」というものだった。子育てのために、奥さまの職場から近いところに住まうことが、そもそも家を建てる理由だったからだ。それでも、2ヵ月もの間、悩んだ。

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その当時は、家のことが話題になると、けんかになってしまうことも多かったのだそう

一から、やり直し、いや、買ってしまった土地の買い手を見つけるところからの再スタート。幸い埼玉県の土地は売ることができたが、ご夫婦が再び土地探しをはじめるまでは約半年間の充電期間を必要とした。

探しまわった運命の土地とついに出逢えた!

はじめての家づくりにつまずいてしまったことで、ご夫婦の家についての思いはより深まることになった。時間がかかってもいいから、納得のできる家をつくりたい、そう思うようになったのだ。

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チャンフータという木材を使った玄関先。多目的室の下に自転車置き場があり、ちょっとしたDIYもここで楽しめる

「埼玉県での家づくりはうまくいかなかったかもしれません。でも、結果的によかったと思うこともたくさんあります。真剣に家を建てるところまで考えていたので、不動産屋の裏事情がわかるようになったり、土地の相場観にもくわしくなったりしていました」(ご主人)。

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ご主人が情報を集めてきて最後は奥さまが決める。このプロセスで、家についてのあれこれがきまっていったのだそう

林さんご夫婦は「情報を広く迅速に入手する方法を構築する」「気長に探し、即決断」「譲れない条件を整理し、土地毎に夫婦で話し合う」「予算を明確にし、予算以上の土地を買わない」という4つのルールのもと、再び、土地探しに取り組んだ。職場に通いやすい場所であることは大前提として、ほかに静かな土地柄、子どもが遊べる公園が近くにある、といった条件も加味しながら土地を探した。埼玉県に比べると東京都の土地は高い。ご主人がこれはと思う土地を見つけても、奥さまは首を縦に振らない。そんな日々が続くなかで、ついに奥さまも納得の土地が現れた。

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「直に見て、信じられないほどいい土地で驚きました。南ひな壇で日当たりがよくて、緑が多い閑静な住宅街で車通りもほとんどありません。また、最寄り駅まで徒歩8分で、近くに公園もありました。価格もびっくりするくらいお値打ちだったのです」(ご主人)。
階段の途中にある土地という難点はあったが、それをデメリットに感じさせないものがあった。林さん一家は土地購入を即決した。

建築家との三人四脚での家づくりがスタート

土地購入の後は建築依頼先を探したが、階段の途中という土地柄、ハウスメーカーに対応してもらうことは難しかった。なにより、家づくりに長く向き合ってきたので、そのぶん、こだわりも強くなっていた。そこで、建築家に家づくりを相談できるサービス・HOUSECO(SuMiKaの前身)を活用して、直接、建築家に相談してみることにした。

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スキップフロアの採用で、バリエーション豊かな空間に。プライバシーが守られた大きな窓がたくさんあるので部屋のなかは明るくて暖かい

「直接依頼して大丈夫なのかと懸念するところもありました。でも、ありきたりの家では満足ができなくなっていたので、チャレンジしてみようと思ったのです」(ご主人)。
ガレージハウスに憧れていたというご主人。しかし、階段の途中にある土地に駐車場をつくることは不可能だ。想いを断ち切るように、「駐車場のない家」というタイトルをつけて、HOUSECOで興味のある建築家のエントリーを募った。結果、37人の建築家がエントリー。そのなかから3人にファーストプランを考えてもらった。

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建物と建物の間に空間がつくってある。北側の居室に2面採光を確保するだけでなく、家全体に光を行き居かせるために建蔽率の問題から床面積に限界があるので、このような抜けのある空間使いにした

夫婦でじっくりとファーストプランを検討した結果、建築家の井上玄さんに家づくりを依頼することに。林さん一家も井上さんも、同世代。そして、子どもがいることも共通していた。話しやすい雰囲気があるなかで次第に信頼関係も生まれていった。そして、そこから林さん夫婦と、井上さんによる、二人三脚ならぬ、三人四脚の家づくりがスタートする。

みんなの意見を取り入れながらの家づくり

土地が難しいことはわかっていたから、井上さんへは、大まかな要望だけを伝えるようにした。たとえば、生活導線は効率のよい感じにしてほしい、全体的に開いた感じにしてほしい、温かく過ごせるようにしてほしい、そんな、あいまいなオーダーだ。
それに応えて井上さんがつくりあげてきた設計を広げて、一つひとつ丹念に確認しながら、みなが納得のいくものを仕上げていった。

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大きめの収納が多いのも林邸の特長。ステップフロアの段差を利用した床下収納があちらこちらにある

「家全体が上から見るとアルファベットのHの形になっていて、中はスキップフロアという家自体の間取りは最初から変わっていません。ただ、井上さんの作品は真っ白い家が多いんですね。それだとちょっと無機質すぎて自分たちの家という感じがしないので、いろいろと色を加えていただくよう相談しました」(奥さま)。

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飾り棚は黒く塗られていて、部屋のなかでのアクセントとなっている

たとえば外壁の一部にチャンフータという木材を入れてみたり、窓枠を黒くしてみたり。細かくリクエストを出すと、「窓枠を黒くするのではあれば、階段にも色を入れたほうがいいのではないか」と、井上さんからもどんどん提案がある。林さん夫婦は共に理系の仕事をしている。揃って理系の三人だからこそだろうか。直接話をしながら、あるいはメールを交換しながら、こだわり抜いた家はこのようにしてつくられていった。

暮らしの変化を受け入れる家

2012年11月、念願の家がついに完成した。建築中に、インテリアなどがどんどん変化していった林邸は、竣工後も変化を続けている。

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リビングの壁の色はポーターズペイントで着色。ムラのある色合いが、独特の味わいをかもしだしている

たとえば、竣工半年後に庭にシンボルツリーとして植えた桂の木は、いまでは家と変わらないほどの高さにまで成長した。また、壁面緑化のために植えたハゴロモジャスミンも約1年で屋上まで到達。さらに、リビングルームの壁をポーターズペイントで塗り直すなど、ささやかなリノベーションも行っている。ほかに、子ども用に二段ベッドを購入。それまでは家族みんなで寝室を共有していたが、夫婦の寝室と、子どもたちの寝室を分けた。子どもたちが大きくなったら、一人ひとりに子ども部屋もつくる予定になっている。

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リビングと一体的に使っている子ども部屋は、ストロークの長い移動式の仕切りで完全な個室に区切ることができる。将来子どもが大きくなったら、二つの個室ができる予定だ

「この家ができてから、ちょっとしたインテリアを買うのも気を遣うようになりました。これは“イケてるのか? イケてないのか?”って(笑)」(奥さま)、「僕も仕事を終えて、家に帰るのが楽しみになりました。仕事のやり方全体が変わりました」(ご主人)、「そういえば、生活のしくみを整えたくて、ライフオーガナイザーの資格を取りました。収納は、まだまだ発展途上ですが」(奥さま)、「持ち家ができると、男性は庭いじりにはまるなんていいますけど、僕もご多分にもれず、植物が好きになりました。部屋の中にもたくさんの緑を置くようになりまして」(ご主人)。

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夏はお風呂上りにデッキで涼むことも。この先には公園があり、公園の緑や桜が一望できる

じっくりと考え抜かれた林邸は、これからの暮らしの変化や家族の変化を受け止めるつくりになっていた。暮らしが住まいに影響を与えて、住まい方が家に変化をつけていく。思い描いた家を手にしたことで、新しい家族の暮らし方が描かれはじめているのだ。ゆったりとした時の流れのなかで、それはとてもとても、自然なことのように見える。

text: 井上晶夫 photo:伊原正浩


【家づくりのデータ】
所在地:東京都大田区
家族構成:夫婦+子どもふたり
設計:井上玄
施工:進栄興業株式会社
設計期間:2011年8月〜2012年4月
工事期間:2012年5月〜2012年11月
竣工:2012年11月

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井上玄/GEN INOUE

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