ニッチに飾られた花器やアートは、空間を美しく彩る。それは、小さく囲まれた場所で灯りに照らされる対象物が、それを観る者に主役としての安定感と存在感を示すからである。
ヌックに入ると、人は居心地の良さや精神的な安らぎを感じる。それは、自己が中心に据えられた身体スケールの空間に、建築の庇護性を感じるからである。
鑑賞する対象物を内包するニッチと、内側に身体を受容するヌック。一見すると真逆の性格を持つ空間のように思えるが、客体・主体の関係を横断して考えると、どちらも「空間を囲んで場所を作る」という最も原初的な建築行為によって成立していることが再認識できる。
本プロジェクトは約100年前に建てられた木造平屋住宅の改修計画である。採光条件が悪く物置部屋になっていた続き間を圧縮して納戸とし、その分玄関と和室を拡張している。
玄関では、廊下を910mm西側に付け替えることで、小さな溜まりスペースを生み出し、そこにニッチの飾り棚を設えている。元々壁があった場所に残る独立柱は株付きの磨き丸太とし、構造的な強度を担保しつつ主体が属する側の空間を象徴する意匠要素として昇華させた。
和室は、既存の畳を撤去し床暖房付きのフローリングに改修している。続き間の半分をヌックとして和室側に取り込んで8帖から12帖に部屋を拡げ、造作ソファでくつろげる空間を設えた。ペンダントライトやスタンドライトを用いて薄暗い空間にならないように配慮しつつ、既存の欄間をそのまま活かしたり、ヌック周りの壁を1トーン明度を落とした左官壁で仕上げることで、「囲まれ感」をより強く感じられるデザインとしている。さらに、少し遊び心のある空間操作として、ソファ正面の壁に飾り棚を設け、ヌックの中にニッチを作るという入れ子構造を作った。
人との出会いや旅立ちの起点となる玄関と、人が集まって団欒する和室。
古くからこの家に連綿と流れる時間を、そっと静かに囲む空間を設計した。
ウォールナットの幅広フローリング
北山杉の株付き丸太
カール・ハンセン&サンのラウンジチェア
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