両親の住宅の設計をしました。
実家のある能代は秋田県の北西部、日本海から吹く風は強いところです。
夏は心地よい風が吹き、冬は雪こそ少ないのですが、鉛色の雲に覆われ体感気温の低い日々が続きます。
そのため能代では、開口部が小さく壁の断熱性能に重きをおいた住宅が多いのです。
当然、冬季期間は日射量が少ないため室内は暗くなりがちで、開放的で明るい住宅の実現は困難です。
住宅の性能を外壁一枚の断熱性能や設備機器に頼るのではなく、建物全体のプランニングにより解決したいと考えました。
なぜなら、それこそが建築の持っている力強い解答だからです。
そこで、プランの二重化によって内側と外側の境界によって夏と冬の気候をコントロールしたいと考えました。
計画は、日常生活のほとんどを2階で過ごせるようにして、1階には、駐車場のほかに使用頻度の少ない和室などを配置しました。
1階部分は防犯と雪の影響を考慮して開口部をなくし、2階は外周全体をガラスにして解放性の高い空間としました。
また、2階の外側の床をスノコ状にして上下階の風と光の通り道を確保して1階にいても2階と声をかけあえる様にしました。
夏には内側の境界を開放し外側の壁の領域まで広がりをもち、風ぬけのいい解放性の高い「夏の家」として使われます。
冬には内側の建具を閉じて柔らかい光に溢れたコンパクトで静かな「冬の家」として使われます。
コンパクトな生活は光熱費を抑え、クライアントの行動に負担をかけません。
浴室やトイレは住宅の中央に配置し、冬の寒さから解放された柔らかい境界による明るい浴室となります。
こうして、厳しい冬を快適に乗り越え季節を問わず明るい「夏の家、冬の家」ができました。
受賞歴 :
2006年 第1回JIA東北住宅大賞2006 優秀賞
2006年 第27回INAXデザインコンテスト 金賞
2006年 第20回秋田の住宅コンクール秋田県知事賞
2006年 インテリアプランニング賞 入選
掲載誌 :
『新しい住まいの設計 2007.03号』
『新建築住宅特集 2006.01号』
『CONFORT 2006.10 No.92』
『リプラン2007夏秋号』
『住まいの設備2008』
『THE NIKKEI MAGAZIN 2008 no60』
『住宅10年2000-2010』
①ドーナッツ状に入れ子になったプラン。
生活の中心になる二階は回廊で部屋を包み、空気層による断熱を実現し建具の開閉で季節の環境に対応できるようにしています。
②回廊の床は、スノコになっていて、四方の外周は全て開口部です。
家の隅々まで風が通り、窓のない一階でも二階から光が届きます。また一階と二階で離れていても会話ができます。
③一階には、ガラスの開口部がありません。
老夫婦の生活を考慮し、防犯と雪の対策として計画しました。
関東の住宅のように明るい家が欲しいという両親の要望を叶えるため、二階で生活ができるようにして家の四方を全てガラス張りにしました。
冬の寒さ対策として、回廊の空気層で部屋を守っています。
父親が、67歳のときに実家を建て替えたいとの話がありましたが、もう歳だからお金を使うのは勿体無いから二人で世界旅行にでもいって、建てるのはやめた方がいいと答えました。
ずっと押し問答して数年経っても建てたいとまだ諦めないで「計画しないのなら知り合いの建築家に頼む」と脅されて、これはいよいよ本気だと思い計画をしました。
家が竣工したとき父親は、74歳。
先日、父親は91歳の誕生日を迎えました。
10年住めたらいいなあと言ってたのに、もう17年になります。
両親も私も本当にあのときたてて良かったと思います。
思った時に行動しましょう。
時間は戻ってきません。
早く建てれば早く楽しい生活ができます。
そして早くローンが終わります。(笑)
この家はダウンジャケットのような断熱です。
ダウンジャケットは、羽毛に沢山の空気を抱えて断熱します。
この住宅も回廊という空気の断熱層で内側の生活を守ります。
一つ違うのは、常に断熱層を閉じているのではなく、建具の開閉によって冬だけではなく四季の気候に対応できることです。
両親ですが、明るくて風が通るし、街の様子も見れるし、家のどこからでも声をかけれるし、年寄りには最高の住宅だと言っています。こんな住宅がずっと欲しかったと言ってくれます。
相澤和孝(元スタッフ)
かい構造設計 寺門規男