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いまさら聞けない!家と暮らしのキーワード
記事作成・更新日: 2017年 1月27日

断熱性能のいい家って? 知っておきたい「断熱」のあれこれ

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寒〜い冬がやってくるたびに、“断熱”というキーワードが気になったりしていませんか? もしくは、真夏に強い日差しが気になる…ということも。でも断熱ってそもそも何なのか、よく分からない…という人も少なくなさそうです。今回は、住宅の断熱性能について解説します。

断熱性能のいい家=“高断熱住宅”って何?

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柱の外側からすっぽり全体を包んで断熱する外張り断熱工法の家。断熱材の切れ目がないため高断熱高気密を実現できる
A HOUSE(ローコスト・外張断熱)(磯村建築設計事務所)

断熱性能に優れる住宅は“高断熱住宅”、そして一般的に機密性の高さと合わせて“高断熱高気密住宅”と言われます。

この“高断熱高気密住宅”とは、壁、床、天井に断熱材をつかって高い断熱性・機密性を実現した住まいのこと。断熱と気密をそれぞれ見ていくと、「断熱」とは断熱材を壁の内側につかったり、外から覆ったりすることで家の外の熱を伝わりにくくすること、「気密」とは家の内部の隙き間をなくして、家の外の空気を中に通さないことを意味します。

冬は、寒さを遮って、室内にあたたかい空気が循環していることが理想で、夏は、暑さを遮って、室内に涼しい空気が循環していることが理想です。

住宅に断熱と気密の施工をすることで、冷暖房に頼らず、年間を通して快適な室温を保ちやすくなります。そのため冷暖房費を節約できるだけでなく、冬には室内の温度差が小さくなることで結露しにくくなり、住宅そのものも長持ちするのが“高断熱高気密住宅”なのです。

ちなみに、日本の多くの住宅は、壁の厚さが15cm程度なのですが、たとえばスウェーデンの住宅は、断熱材の厚さだけでも30cm以上、外壁や内壁の厚さを加えると壁の厚さは40〜50cmほど。ここまで壁の厚みが異なる理由には、日本は建築物に対する断熱性の義務基準がないことに加え、日本では断熱性など住宅の技術的知識に詳しい建築エンジニアという職種が確立していないことが挙げられます。

断熱材ってどんなもの?

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断熱材にグラスウールが使われている小屋
KIBAKO -THE B-(株式会社 天城カントリー工房)

それでは、具体的に断熱材とはどのようなものでしょうか。断熱材とは熱を伝えにくくする住宅建材のことですが、大きく分けると、グラスウールなど微細な繊維の間に空気を閉じ込める「繊維系」と、発砲スチロールなどの細かな独立した気泡の中に空気を閉じ込める「発泡系」の2種類があります。

もう少し細かく見ていくと、繊維系はさらに、ガラスや鉱物からなる「無機繊維系」と、パルプや古紙からなる「木質繊維系」がありますが、素材によって不燃性や耐久性、吸音性などがそれぞれ異なります。

木造住宅でもっとも多く採用されている断熱材は「グラスウール」で、比較的安価で手に入れることができます。また、グラスウールと比較するとやや高性能である分、価格は少し高めですが、「ロックウール」も代表的な断熱材です。ほかにも、施工しにくい場所も確実に断熱できる「セルロースファイバー」や、さまざまな形状に加工ができる「ビーズ法ポリスチレンフォーム」などがあります。

断熱材のグラスウールを敷き詰めているところ
photo by Yoshihide Nomura

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壁と屋根にセルロースファイバーの断熱材を入れた建築事例
壁と屋根にセルロースファイバーの断熱でポカポカ(株式会社 西尾建設 (CozySelect))

実際にはどう断熱するの?

木造や鉄骨造といった住宅工法によらず、断熱には大きく2つの方法があります。

ひとつ目は、外張り断熱といって、断熱材を柱や梁などの構造躯体の外側に貼る方法です。断熱材が取り付けやすく、施工ミスも少ないため長期間にわたって機密性が確保できると言われていますが、厚い断熱材は取り付けができません。

ふたつ目は、充填断熱といって、柱の間に断熱材を入れる方法です。外張り断熱と比べると厚い断熱材を入れることができるほか、繊維系の安価な断熱材で建築コストを抑えることもできますが、鉄骨造の場合は構造材が“鉄”のため、外の寒さを室内に伝えてしまい、熱が逃げるだけでなく、結露を誘発します。また筋交い部分は断熱の施工が難しいため、断熱性能を落とす原因となります。

また、上述のとおりそれぞれデメリットがあるため、外張り断熱と充填断熱を組み合わせるという方法をとることも。

いずれにしても、どの断熱材をつかうか、外断熱か充填断熱かといった断熱の方法は、家を建てる際に、建築家や工務店などへの相談が不可欠になりそうです。

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外張り断熱を施した鉄筋コンクリート造の家
市ヶ谷の家 ~都市部に建つ家/RC外断熱の家~(中川龍吾建築設計事務所)

省エネ基準が最も厳しい「パッシブハウス」

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鎌倉パッシブハウスの外観
「快適だから、人が自然と集まるんです」エネルギーをつくるのではなく、なるべく使わないエコな家「パッシブハウス」、蓮見太郎さんに聞くその住み心地

“高断熱高気密住宅”は、冷暖房の効率がいいなど、エネルギー効率が高いことが特徴です。この建物の省エネ基準が最も厳しいといわれているのが「パッシブハウス」と呼ばれるもので、以下で挙げる基準を規定しています。

1.冷暖房負荷が各15kWh/平方メートル以下
2.一次エネルギー消費量が120kWh/平方メートル以下
3.気密性能として50Paの加圧時の漏気(ろうき)回数0.6回以下

…と言われても、聞き慣れない指標ばかりですが、具体的に建築に採用される例で言い換えると、断熱材の厚さはスウェーデンの住宅と同等の30cm以上に相当すること、日本ではあまり採用されていない熱回収率の高い熱交換換気システムを標準装備すること、ガラス窓は3重、サッシにも断熱材を使用して外気の侵入を防ぐこと、熱を外部に逃がしてしまうバルコニーは設置しないこと…などが挙げられます。

「パッシブハウス」はスウェーデンの大学教授とドイツの住環境研究所の共同研究から端を発したもので、ドイツや寒さの厳しい北欧に建築事例が集中していますが、日本でも2009年にパッシブハウスが初めて建てられるなど、徐々に広まりつつあります。

リノベーションでできる断熱は?

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壁、床、天井にリノベーションで充填断熱をした事例
仕事場のある家~Aさんの家 renovation(しらいし設計室)

一方で、リノベーションで断熱をしたいという人も多いのではないでしょうか。断熱のためのリノベーションのなかでも特に多いのは、窓ガラスをペアガラス(二重サッシ)や内窓を設置するといった施工内容です。費用も数万円からと手軽なリノベーションですが、窓の断熱性を高くすることで、外の気温の影響を受けにくくなり、冷暖房の効率もよくなります。

ほかには、床下に断熱材を施工することで、床下からの冷気を防ぐリノベーションも。床を剥がして市販の断熱材を敷き詰め、元に戻すといったDIY作業も可能です。グラスウールなどの代表的な断熱材であれば、ホームセンターで購入することができます。

税金の軽減や控除ってあるの?

ところで、高断熱高気密住宅の建築や購入にあたっては、税金の軽減や控除といった優遇措置が設けられています。具体的には住宅ローン減税で、一般の住宅よりも所得税の控除を受けることができます。また、登録免許税、不動産取得税、固定資産税においても負担が軽減されます。(※)

この優遇制度は、新築時だけでなく、リフォーム時にも要件を満たせば適応される減税措置があります。さらに、省エネ住宅補助金制度も。税制は年度ごとに見直されるため、これから先ずっと優遇が受けられるかどうかは分かりませんが、せっかく高断熱高気密住宅を建てるなら、こうした制度を上手に利用したいですね。

いかがでしたでしょうか。

“断熱”にまつわる基本事項をまとめましたが、冬であれば冷たい空気をシャットアウトして、ぽかぽか快適な家で過ごしたいもの。窓に厚手のカーテンをつけるなど、すぐにできることから試してみては?



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※2017年1月現在

Text SuMiKa編集部

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