階段状に広がる住宅地での計画である。敷地の半分は平らだが、半分は土羽と擁壁で法面となっていた。近くに15世紀に築造された小田原城がある。その後発展してきた城下町が眼下に拡がり、その先には相模湾を臨み、遠景には江の島が見える。この場所で生まれ育ったクライアントは、自身が親しんだ景色を眺めながら、移ろいゆく風景を楽しみながらゆったりと過ごせる家を望まれた。 我々は生活に必要な要素を全て2階に持ち上げる空中生活空間を想像し、部屋のどこからでも雄大な景観を楽しめる家とするためのアイデアを模索した。1階にはエントランスとゲストルーム、音楽室の3つの要素が必要であり、その要素のみで生活空間全てを持ち上げる方針を掲げた。 3つの要素は2つの箱の脚に納め、その脚を繋ぐ大きなスラブを道路側に流れるように落として1枚のスラブとし、その上に軽い木造の平屋を固定した。 道路斜線により斜めに降りてくる部分には子供室が納まり、その下がピアノ教室に通う生徒達のアプローチにもなる。 薄暗いエントランスを通り、その先の階段を登ると大開口からの雄大な景観が眼前に現れ、光に包まれた空間が出現する。緩やかに繋がる各室は、段差や天井の高さでゾーニングされ、移ろいゆく景色と光の形を享受できる状態とした。 屈強な箱の脚により持ち上げられたこの空中住宅は、自然の匂いを謳歌し、悠久の時間の流れる住まいである。
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