敷地は松本城・市内を眼下に、その向こうには美しい山々の稜線を臨む場所にある。松本特有の美しい景色を独り占めにする景観に恵まれたこの場所に、施主(設計者の家族でもある)は新たにこの地を獲得し、市内より転居する。設計者自身も幼少期を過ごした故郷・松本に想いを馳せながら設計した。
施主はその雄大な景色を何処からでも楽しめる住宅を望んだ。空の色、雲の流れ、山の表情。自然の移ろいは壁の切り抜き方に依って動画となり、いつまでも新鮮な発見に満ちて眺めることができると考えた。
東に開くこの住宅は、低い角度で1年中角度が変化する太陽光が入射する。勝手自由に開けているように見えるランダムな開口部は、ただ大きな開口にするのではなく、様々な大小、奥行、仕上、形状、高さで配置することにより、歩き、座る際に、多様なシークエンスを日々楽しめる住宅にしたいと熟考して編み出した窓群である。景色をより強く切り取るために設えたフジツボ窓は、外観を印象的なものとすると同時に、内部の陰影ボリュームをあげる装置として設えている。
敷地はくの字に曲がった平面をしており、建物はその形に素直に景観の良い側に広く配した。奥行は浅く長い形状となったが、家のどこからでも松本平を臨むことができる。道路側はプライバシー確保のため閉じた意匠としたが、反面、景観側は多くの開口を擁する完全片側採光の住宅である。それにより、光のコントラストが強調され、窓配置に加え、より陰翳の強い空間構成となった。
また、ピアニスト(施主)のための音楽堂も離れとして設えた。音楽堂と銘打つにふさわしい木構造現しのミニマルな室内は蕪束を採用し、松本らしい伝統的なデザインでありながら、屋根に様々な傾斜を加えることで、稀有な空間にしたいと考えた。
閉じた外観から想像できない、自由奔放かつ大胆な内部構成を持たせることができたと思う。
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