京都市東山区。五条坂から1本入った細い路地には戦前に建てられた古い長屋がひしめいています。昭和の古き良き路地の面影を残しながらも、空き家問題、建物の老朽化、観光客によるプライバシーの侵害、民泊・ゲストハウス化など、現代的な問題にも直面しています。今回は長屋を所有する家主さまからのご依頼で、その一角を子育て世帯や高齢者向けの賃貸物件としてリノベーションすることになりました。
建物は数年間放置されていたため損傷が激しいものの、ビニルクロス、アルミサッシ、システムキッチンといった継ぎはぎリフォーム部分を撤去すると、京町屋ならではの繊細な構造と雅な意匠、屋外と屋内が一体となった気持ち良い空間が蘇りました。
1階は和室だった2部屋をつなげた居間を中心に、坪庭を囲む見世の間、建具を介して向かい合うキッチンとも一体的に利用できる間取りに変更。限られたスペースの中に浴室・洗面室・洗濯機・冷蔵庫の設置場所も確保しています。
床材は30mm厚の杉フローリングを用いてローコストながら断熱性を向上、壁は左官と合板にて補修、天井は劣化部分を剥がして2階床の荒板仕上げ。キッチンは業務用厨房機器を組み合わせたシンプルなつくりに。2階は間取りの変更は行わず劣化部分を修繕。天井は構面補強と断熱材を付加した上で船底天井に変更。
グリッドプランを生かして、家中の建具を必要に応じて配置換えして再利用し、新たに製作する枚数を極力減らしました。
施工:城南組
撮影:笹倉洋平