設計は設計に対する知識・経験、
デザイン性やセンスの良さ等は必要だと思う。
ただ、それ以上に建築主の話に耳を傾ける、
建築主の建物に対する思いを共有し、
それを実現させるという覚悟や精神力がとても大切な要素だと考える。
この建物の建築主は大工の棟梁だが、施工にはほぼ関わっていない。
その弟子にあたる大工が施工を担当した。
何故本人が工事をしないか当初疑問に思ったが、いろいろと話しているうちに
誰にも迷惑を掛けない自分の家でその弟子にあたる彼に大工技術を学んで欲しいとの思いで、
ほとんど本人は関わらないということを聞き、その思いに感銘を受けた。
建物のメインのLDKの棟部は通常、棟木に梁を掛けるが、
棟木なしで梁と梁とを手刻みで重ね合わせて接合している。
また、道路側の物置の柱梁は接合部は全て手刻みである。
今の木造はほとんどがプレカット工場で数日で刻み加工が終わるが、
今回は刻み加工だけで1、2か月かかった。
その他、和室は真壁和室であったり、屋根は瓦の一文字葺き、
軒天は希少なサワラ材仕上げ等、至る所に建築主の思い入れがある内容も多かったが、
こちらもその思いに応えるように図面作成、現場監理で必死に応対し、完成を迎えた。