囲炉裏で燻された梁や柱、漆喰の壁など、
経年した意匠を残しながら空間を再生。
天井高を活かしたロフトで必要な空間も確保。
text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura
古家賃貸リノベ
古材と折り合いをつける長屋
宮城県白石市
〈設計・施工〉ワタナベケイタ
・住人データ
ケイタさん(35歳) 木工作家
妻(35歳) 会社員
昔は鉄道会社の事務所として使われていたという木造の建物。築年数は100年以上だが、天井が高くゆったりとした造りで、頑丈そうな梁や柱は、かつての囲炉裏の煙で燻され、重厚感を増している。この建物をセルフリノベーションして住んでいるのが、不動産会社で働きながら、木工作家として活動しているワタナベケイタさんだ。
「家業を手伝うために地元の白石に戻りましたが、以前は仙台で建具店に勤めていました。そのときも古いマンションをリノベーションして住んでいたんです。古いものが好きで、木造の建物にも興味があったので、この物件に出会ったとき、少しずつ自分で直していこうと決めたんです」(ワタナベさん)
その頃、現在の奥さまと出会い、手を借りながら2人でつくり続け、2年半ほどかけてようやく入居できる状態となった。工事の途中で震災が起こったが、リノベ前にプロに依頼して耐震補強をしていたため、被害はまったくなかったという。
「耐震工事を依頼した大工さんには、その後も要所要所で手伝ってもらいました。プロのサポートがあったからここまで出来たと思っています」(ワタナベさん)
トイレと浴室以外がすべてつながったワンルームのプランは、建物の天井や床を抜いてまっさらになった空間を見ながら考えていった。北側に水まわりを固めて、余白をリビングダイニングとして広く使っている。天井の高さを活かして階段も新設し、ロフトをつくって、寝室やワークスペースなども確保した。
「経年した意匠をできるだけ損なわないように工夫しました。既存の躯体の経緯をくみ取りながら、居住性を考慮して自分のアイデアを盛り込んでいます」(ワタナベさん)
柱や梁はできるだけ露出させ、一部の土壁も既存のまま活かしている。古い壁をガイドに、新しい壁もテクスチャーを合わせて漆喰で塗り、100年以上前の意匠を蘇らせた。また、近隣の古い被災家屋が解体されるときに廃材として譲り受けた窓を、キッチンとリビングの間仕切りとして採用。古いパーツをアクセントとして取り入れた。
現在、木工の作業場もセルフリノベ中だというワタナベさん。今後はものづくりとともに、故郷の古い建物を良い形で残すことにも、取り組んでいきたいと考えているそうだ。
〈物件名〉古材と折り合いをつける長屋〈所在地〉宮城県白石市〈居住者構成〉夫婦〈建物規模〉地上1階建て〈主要構造〉木造〈築年数〉約100年〈床面積〉1階59.23㎡ ロフト 28.08㎡、計87.31㎡〈設計〉ワタナベケイタ〈施工〉ワタナベケイタ(一部業者)〈設計+ 施工期間〉約2年半〈竣工〉2011年〈総工費〉約400万円
Keita Watanabe
ワタナベケイタ
2006年に「trip interior」を立ち上げ、家具製作やオリジナルのプロダクト製作を始動。
家業の仕事をするかたわら、前職の建具屋の技術などを活かし、現在は木工の作業場をセルフリノベーション中。
trip interior
宮城県白石市東町2・8・36
TEL 090・1155・8098
kpita@crux.ocn.ne.jp
tripinterior.blog73.fc2.com
※この記事はLiVES Vol.72に掲載されたものを転載しています。
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