敷地は京都紫野、船岡山の山裾に位置する。西側で7.5m接道し、奥行きが18mと東西に長く、敷地内に1.5mほどの高低差がある。北側と東側の隣地は高さ3mほどの擁壁の上にあり、南側隣地は2階建てアパートの共用廊下に面している。敷地の中心に立つと廻りを囲まれ窮屈さを感じたが、北東の方向に隣接する船岡山に生い茂った木々が見えた。隣家の存在や擁壁の圧迫感をなるべく感じることなく、船岡山の緑を楽しむことができるようなプランを検討した。
切妻屋根が架かる2つの躯体を雁行配置させ、船岡山に対峙する外壁面を増やすことで、この家の主な居場所にある開口部は庭やその先の船岡山へ向かって開くことができた。また敷地の高低差を活かし、高さ方向にも躯体をずらしてスキップフロアのプランとし、玄関から家の奥へ山に向かって進むような動線を考えた。
道路側の設えは道と玄関のあいだに半屋外の土間を配置し、玄関ポーチや自転車置場として、さらに生活の気配を街に開いていく場として使えることを考えた。腰高の板塀で囲まれ深い庇が掛かった姿は公園にある四阿のようだ。
この家は夫婦ふたりで住むこともあり、納戸や水廻り以外に間仕切りは不要だった。床高さの違いや欄間に嵌められた型ガラスによって、または蹴込板のない階段などでゆるやかに室はつながっている。ひとつの家のなかで、というよりこの船岡山の山裾という環境や地勢において、夫婦がそれぞれの居場所で互いの気配を感じながら庭や山と共に生きる建築を考えた。