新旧の住宅が建ち並ぶ住宅街の中にある、夫婦二人の家です。
主な要望は、「アルヴァ・アアルトの住宅のような」「ポテンス(ジャン・プルーヴェの照明)を設置したい」
「ワンボックスの外観」「木製の外部建具」というものでした。
隣にはご両親と愛猫の住む家(母屋)があり、その庭だったところを分筆して本計画の敷地となっています。
敷地には、みかんやはっさく、枝垂れ梅の木があり、それらを残すように計画した結果、前面道路から十分な引きをとる配置となりました。
また、前面道路から1メートルほど高くなっており、通行する人たちの視線などが気にならないほどの距離感が確保できています。
プランは、敷地奥(北東)側にプライベート性の高い、寝室(1階)とLDK(2階)、階段と吹き抜けを挟み、前面道路(南西)側に
バイク(自転車)ガレージを兼ねた広いエントランス(1階)と二つ目のリビングとなるインナーバルコニー(2階)を計画。
母屋側(北西)には、コミュニケーションのための縁側スペースを計画しています。
アルヴァ・アアルトの住宅建築に代表される北欧の住宅の特徴の一つは、寒く暗く、そして長い冬でも日の光を空間の奥まで採り込む開口部です。
本計画では、光を取り込むことをテーマとし、空間とその境界をデザインしました。
キッチン上部の大開口からは、日の昇る朝日をリビングに採り込み、インナーバルコニーの大開口からは、日の沈む夕日を採り込みます。
また、インナーバルコニーの大開口は、少し腰の高さを低くすることで、庭の垂れ梅やみかんの木を見下ろし、季節の移ろいを感じさせます。
他に、玄関横の開口は、自転車や物の出入りを目的とした、掃き出しの木製引き戸。 母屋側の開口は、母屋に住む両親の気配は感じ、
コミュニケーションをとるための木製の窓。寝室や水廻りには、日の採り込みと換気のための窓を必要なだけ計画しました。
内部の寝室の建具は換気のための欄間を設置。 夏場の熱気を排気するために、1階の床と2階の天井に点検口を兼ねた換気口を設置しています。
それぞれの空間に、目的と機能のある開口を計画しつつ、インテリアについては、白を基調としながら木質を取り入れ、その量と塗装の艶を調節することで、
光が反射するところと吸収するところを作り、空間に変化を与えています。
特にインナーバルコニーは、小屋組の構造を現しとして、トップライトを設置。 艶のあるラワン材(壁、手摺、見切り材)と
艶のない構造材(柱、梁、天井)が、日中は日の光の変化に、夜はポテンス(照明)の光に応えます。
また、唯一開口を計画しなかった部屋もあります。「離れ」となる3畳ほどのこの部屋は、一人で篭もって読書や勉強をする書斎のようなスペースです。
家の中にありながら、吹き抜けを介して入るこの部屋は、別棟の離れのように感じます。
開口部のまわりにたくさんの居場所が生まれ、これから長らく住む施主にとって、1日の時間の流れや天候の変化、季節の移ろい、家族との繋がりを楽しむ家となりました。
空間の奥まで光を取り込む大開口
第二リビングとなるインナーバルコニー
窓のそばに生まれるたくさんの居場所