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記事作成・更新日: 2014年 6月26日

21世紀のバウハウス。僕らがやらなきゃならないのは、これだと思うんです。

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中村真広

株式会社ツクルバ代表取締役CCO
1984年、生まれ/2009年、東京工業大学大学院建築学専攻修了(塚本由晴研究室所属)/不動産ディベロッパー、展示デザイン業界を経て、2011年8月(株)ツクルバを共同創業


ここ数年、各地でにわかに出現しはじめた、新しいスタイルの働く場所「コワーキングスペース」。まだ日本ではそんな言葉も聞かなかった頃、中村真広さんはコワーキングスペースについてネットの記事を読み、発信元であるサンフランシスコへ飛んだ。そこで目の当たりにしたのは、「場」によって表れた新たなプレイヤー、新たなふるまいだった。中村さんは帰国後すぐに自分でコワーキングスペースをつくることを決心。2011年、仲間と共に「ツクルバ」という会社を創立し、現在、渋谷の「co-ba」をはじめ、企画から設計、運営を横断した総合的な「場」づくりを手がけている。新たな「場」を介した人々の新たな営みが、より良い社会へと還元される、そのサイクルをも視野に入れながら、中村さんは、建築を捨てたわけじゃない。建築が大好きだからこそ、建築の世界に欠けていたことを実践している。ガッツリと建築を学んだ中村さんだからこそ見える、今ドキの建築が抱えるヤバさとは、どこにあるのだろうか。(awesome! 編集長・田中元子)


建築を学んだことが今、生かされていると思うことは、結構あると思う。

田中:建築、やばくないですか。

中村:やばいと思うんですけどねえ。逆に僕も、建築の中にいたというか、別に今、外にいるつもりもないんですけど。建築学生だった頃、やたら建築の話題に触れまくるじゃないですか。だからなんか、建築業界すごく盛り上がってるなって思ってたんですけど、ちょっと不動産業界行ったりとか、ちょっと他の業界行ったりすると、意外と盛り上がっていないというか、外側に声がちゃんと届いていないなっていうのは、すごい感じるんですよね。

田中:それは学校(東京工業大学)出てからです?

中村:出てからですね。

田中:その頃は、建築家になろうと思ってました?

中村:それこそ大学院1年くらいまでは、格闘してましたね。塚本由晴さんの研究室でゴリゴリに建築やって、建築専門用語も駆使して(笑)。はい、いわゆる(笑)。

田中:そういう学歴をお持ちじゃないですか。

中村:そういうロールモデルの先輩を見て育ってきたんです。藤村龍至さんが僕が学部2年の時にティーチングアシスタントをやってくれていて、そのまま塚本由晴研究室に入って、ドクターの重鎮のひとり、みたいな。ドクターの人たちも、ドクターやりながら設計事務所やってるみたいな。吉村靖孝さんの弟の吉村英孝さんとか。だから周りにいた人たちは、まともに建築を論じて、まともに建築を設計している人がほとんどでした。その世界にどっぷりいると、作品をつくっても、建物というか、建築作品じゃないですか。それを『新建築』に載せて、住宅つくって、自分でロジック組み立てて、設計論とは何か、みたいなものを語っていくみたいなのが、それがひとつのロールモデルなんだなぁと。同じロジックを5年、10年言っていれば、それが正解になっていくかもしれないね、みたいな。正解になるように努力していく、というストーリーですよね。

田中:それはまあ、いわゆる建築家スゴロク的なロールモデルじゃないですか。そういう、学校でやったことが、今に偶然にでも、生きているって思うことは、ありますか?

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中村:結構あるなと思っていて。結局僕、大学院までしか設計のことはやっていないんですけど、塚本研でゴリゴリと仕事をふられるじゃないですか。その時、学生ながらやっていたことって、工程管理とか、プロジェクトマネジメントスキルって結局、建築の中にすごくあるだろうと。今もやっぱりプロジェクトのマネージャーをやる機会がいっぱいあるので。その時に思うのは、やっぱり内装設計とか、空間設計のタイムラインと、PRのタイムラインと、そういう種類が増えただけで、工程表管理みたいなことと脳みその使いどころはあまり変わっていないなと。そうやって、いろんな人を巻き込みながら、プロジェクトの落としどころをつくっていくというか。そのスキルは建築を通じて勉強させてもらった気がします。

田中:逆に、外から見て、建築勉強する中で、これはやらせてくれたらよかったのに、とか思うところ、ありますか?

中村:さっきの、あの、建築で生きていることのもうひとつは、自分で出したアウトプットを反芻する、ということですね。建築作品つくってみんなそれを再解釈して言語化するじゃないですか。そのプロセスはほんとに重要だなーと思っていて。特にベンチャーみたいに、ツクルバみたいにわーっとやっちゃえば、やりっぱなしにもできるんですけど、それじゃダメじゃないですか。なので小さなアウトプットでも、仮設の空間デザインとか展示会とか内装でも、僕らがつくったこの “co-ba(コーバ)”みたいな日々刻々と変わる場でも、常に言語化してフィードバックしておくっていうのは、建築的なのかもしれません。

田中:それはやっぱり、他の人と、たとえば”co-ba”が何物であるか、ということを共有するということですよね?

中村:そうです。ちゃんと流通する言葉にしておくというか。ただその時に、建築ど真ん中にいた頃と変わって気をつけているのは、方言にならないように喋ろうかなと。建築論理を語ってもしょうがないじゃないですか、”co-ba”を説明するときに。設計とはこうこうこうで、って言うときは言うんですけど、それよりも社会的な位置づけとか、どういう思いでやっていて、何を目指しているのかとか、もっと一般の人にわかる言葉で説明するように、気をつけています。

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田中:逆に、建築的方言と、一般的な標準語があるとしたら、標準語で話すトレーニングは、もっとしたほうがいいよね。結構、訛るからね(笑)。

中村:訛りきる! というのも、あっていいと思うんですよ。僕も学部の頃、自分の軸がなかったので、建築にどっぷり浸かって軸を一個つくるっていう経験はすごくよかったと思うんですけど、それが方言であることを自覚する必要はあると思うんですよね。合コン行って建築トークしても、誰も萌えないじゃないですか(笑)。

田中:建築関係の旦那と結婚した新婚さんもさー、新婚旅行行ったら建築見学旅行になっちゃって、奥さんが飽きる、帰ってきたら建築写真ばかり、みたいな話、よく聞くよね。

中村:今僕らがやってるソーシャルビジネスの分野も、まだまだ方言。方言の入れ子構造がいっぱいあるんですよね、どの分野にも。たとえばクラウドファンディングでこうこうこういうことやってて、コワーキングスペースっていうのやってるんだよって言っても、通じない。結局「うーん、スペースの管理人ですか?」みたいな(笑)。なんか全然、一般用語じゃないんだなーって思ったりもするし。

田中:デザインって一言で言っても、一般的な場で話すと、服のデザイナー? グラフィック? ってキョトンってなる。多分デザインっていう領域の理解度の低さもあるし、一般用語で分野の内側から伝えるトレーニングが不足しているのも、あるかもしれない。

中村:デザインって言葉も一人歩きしていて、表層の部分しか語られなかったりしているじゃないですか。今でこそ「サービスデザイン」とか「コミュニティデザイン」とか、エクスペリエンス的なところもデザインすることこそデザイン、ってきてますけど、けどそれって元をたどれば別に、デザインという語源からもわかるように、そこも全然、領域じゃんって思うんですけど。でも一般的には、そうは思われていないじゃないですか。そこが多分、誤解されていると思っています。そういう、デザインリテラシーのない人もたくさんいるはずで。特に日本ではデザインの初等教育なんて受ける機会がないし、しょうがないことですよね。僕だって大学に入って、デザインってそういうものか、って学び始めたくらいなので。だからなんか、プロとしてデザインやってる人って、おまえら分かんないから、おまえらには何も語らない!って閉じるんじゃなくて、自分からブレイクダウンした言葉づかいで、消費者教育というか、啓蒙は、したほうがいいと思うんですよね。

田中:そうだよね。そうすることで、消費者サイドに“建築とは何か”“デザインとは何か”っていうことを理解したり楽しんだりする人が増えることで、可能性が広がったりするよね。まぁ、確かに消費者というか、鑑賞者としての教育は、足りないなと。

中村:それは、もったいないと思いますよね。算数とか数学だって、そのロジックを鍛えるとか、楽しさを伝えるとか、それは私生活に生きてくるはずで。それと同じように、デザインの教育って、もっとあったほうがいいと思うんですよね。


つづきは awesome! 紙面で!

※この記事はawesome!創刊号(2014年6月)に掲載されたものの一部を転載しています。
※awesome!は、全国の大学や専門学校など、建築系教育機関約350箇所で配布されています。また、下記の書店で、1部100円で購入できます。
・NADiff contemporary(東京都現代美術館1F)
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