谷尻 誠
建築家・Suppose design office 代表
1974年広島生まれ。2000年建築設計事務所suppose design office 設立。2003年〜穴吹デザイン専門学校非常勤講師。2011年〜広島女学院大学客員教授。主な仕事に「designtide08,09会場構成」「ミラノサローネ東芝インスタレーション」これまで手がけた住宅は100件を超え、現在国内外で、インテリアから複合施設まで様々なプロジェクトが進行中。主な著書に『1000%の建築 – 僕は勘違いしながら生きてきた』(2012|エクスナレッジ)他。主な受賞に「THE INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARD(chicago)」他、受賞多数。
田中:いろんな仕事をする建築家はたくさんいるけど、その中でも谷尻さんは何が違うのかな、何が面白いのかなっていうことを、今日まで考えていました。
ひとつは本気で遊んでるよね。本気で遊んでるっていう意味は、人のことが好きだということとか、その人に貢献したいとか、そういうことにつながってる。そういう、人を好きだという気持ちで迎える谷尻さんのスタンスって、なんかきっかけがあったのかな。
谷尻:僕が片親だったこととか、ひとりっ子だったからですかね。はっきりは分からないですけどね。
田中:昔から人に対しての興味はあった。
谷尻:ありましたね。まぁ、自然と人がいるとこに行ってましたね。
田中:うんうんうんうん。自分から人を求める性質が身に付いてた。
谷尻:かもしれないですね。一番根本はそういうとこですかね。
田中:それって武器ですよね。だって、人のことを信頼するとか、好きな気持ちで迎え入れるって、みんなができてることじゃないなと。
谷尻:できない人ってみんな、人の反応を先に見るからじゃないですか。でも反応って自分の振る舞いで反応が起きるもので、こっちの問題のような気がするんですよね。
田中:そうだと思う。確かに、確かに。
谷尻:いっつも鏡だっていうふうに話してるんですよね。嫌なことが起きるときは自分の振る舞いが嫌だから、嫌な態度が返ってくるわけじゃないですか。逆に、こっちが親切にして、あだで返されるなんてないですよね。
本当に心底悪い人なんていないはずで。それに、本当に悪そうな人とは付き合わないじゃないですか、そもそも。だから悪い人でなかれば、こっちの言動や行動に対して、相手もちゃんと反応してもらえるものなんじゃないかと思ってます。
田中:そういう、人のことが好きなことと、建築が好きなことって。最初から結びついてたのかな。
谷尻:全然結びついてなかったんですよね。でも、世の中の建築の多くは、人のことを考えずにつくっているように見えてて。あっ、これは僕のほうが絶対、世の中の人の気持ちは分かるなって思っていました。
それまでは、やっぱりコンプレックスがあったんで。大学も行ってないし、アトリエ事務所も勤めたことないから、なんかやり方分かんないじゃないですか。でも、世の中、サラブレッドみたいな人たちが活躍してて。
でも、雑誌を見て、そういう人たちが何を書いてるか見てみたら、あぁ、これじゃ社会性のある仕事はできないよな、とか思ったり。もちろん専門誌だから、そう書いてるんだっていう理解もあるんですけど、そこでしか建築家が語ってないから。これじゃ建築家って頼りにされないし、建築家も世の中のことをあんまり分かるようにならないんじゃないかなって思ったんですよね。で、そこは僕のほうが絶対分かるなって思えたから、もうなんか少ない砂山を取り合うんじゃなく。
田中:砂山を大きくする!!(笑)
谷尻:そう、砂山大きくすることに目を向けておいたほうがいいなって、当初から思ってました。
田中:なるほどなるほど。それって、コンプレックスが武器になった瞬間ですよね。
谷尻:そう、武器になりましたね(笑)。
田中:けど、どうしてそれに気付いたんでしょうね。
谷尻:僕はバスケットをやっていたんですけど、背が小さいから不利なわけです。でも、背が小さくて不利な人でもできるプレーを発見できたんです。
例えばスリーポイントラインから、1メートル離れてシュートを打つ。スリーポイントラインで立ち止まると相手に狙うよって教えてしまうことになるけど、そこからさらに1メートル下がると、まさか狙うなんて思われない。だから、誰にも邪魔されないんですよ。
田中:なるほど。人にばれてないっていうところが武器のひとつだったんですね。
谷尻:はい。だから、確信犯的にコンプレックスを武器にしたわけですよね。一見不利になることが圧倒的優位性を手に入れることがあるってことを、まぁ高校時代に学んで。
次に自分で、いざ建築の仕事をやりはじめてみたら、また僕のほうが不利なわけですよ。でも、それってどういうことなんだろうって一歩離れてみると、既存の建築家って難しいことしか言ってないし、これじゃみんなに理解してもらえないから、お客さんたちは頼みづらいよな、とか思ったわけです。
田中:バスケットで言うと、背高い選手ばっかしだったわけですね。
谷尻:そうなんですよね。身体能力が高くて、背が高い選手しかいないように見えて。
田中:本当はごく普通の人の標準的な背の高さって、もっと低いはずなのにね。
谷尻さんは最初、バイト感覚のように独立したっておっしゃってたじゃないですか。だからこそ、そのコンプレックスを武器に変えるなんて、結構本気にならないとできないことだと思ってて。なんで本気になれたんだろうって。
谷尻:まぁ、なんとなくやっていけたんですよ。最初は普通に知り合いからお店頼まれたら、店をつくって。こうやったらレストランつくれるんだとか、こうやったら美容院つくれるんだとか、なんとなく覚えてったんですよね、つくり方を。
でも、別にそれを世の中に発表することはなくて。それでも普通に食べてけるようになってきて、まぁ面白いし、このままのらりくらりとやっていけばいいと思ってたんです。
けど、あるとき、えー…… 後輩の男の子がうちの家に来る途中で、事故で亡くなったんですよ。その子は週に3、4回うちに来て晩ご飯一緒に食べるような、僕にとっては弟みたいな存在で、彼はグラフィックの仕事をしてたんですけど、いつか一緒に何かやりたいねみたいなことも言ってた、本当に仲のいい後輩の男の子だったんです。年は5つ下で。その子がいなくなって、で僕は、ただでさえちゃらんぽらんにやってたんで、もういろんなことやるのが嫌になったんですね。
田中:うんうん。
谷尻:で、そうしていたときに、お世話になっていた工務店の社長の江角さんという方から、社長もその後輩のこと知ってたんですけど、後輩は死をもって、これ以上世の中につらいことはないんだってことをお前に教えたんだから、お前は頑張らんと駄目やろって言われたんです。
すごいなんかそれは…… こんなにも辛いことは、仕事で辛いことがあっても、嫌なことあっても、そんなに辛いことはないんで、確かにそうだなって腑に落ちたんですよね。で、そうこうしてるうちに、なんかよく分かんないですけど、どんどんいろんなこと頼まれはじめて。
つづきはawesome!紙面で!
※この記事は『awesome!』4号(2014年12月号)に掲載されたものの一部を転載しています。
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