クライアントはお母様と2人暮らし。古くからの住人が多く、ご近所とお互いの鍵を持ちあっていたという。
昭和10年代に建った四軒長屋の1住戸をフルリノベーションする計画だが、1階はキッチン、リビング、お母様の寝室、そして水廻り。2階は寝室と客間。基本的には元のプランを守った。
階段はあまりにも急だったので付け替えたのだが、上りはじめを反対にしたのは、トップライトからの光を、一番暗くなるところへ届けたかったからだ。
1階奥には裏庭があったが、ここはタイル貼りとし、防犯を維持したまま風を通すドアを取り付けた。ただの通路から、価値ある空間になったのではないかと思う。
その上部、2階奥には洗濯干場があったのだが、お母様は踏み台を置いて外にでていた。こういった上下移動の障害がリノベーションの動機になることは多い。人は重力には抗えないのだ。
クライアントは、まとまった休みにあちこちと海外へ出掛ける。特に北欧が好きで、中でも青に惹かれるという。青というのは奥行きの深い色だ。この計画が目指したのは「碧(あお)」。テーマカラーとなった濃い青が随所にちりばめられている。
外壁、エントランス、2階寝室とロフトがそうなのだが、洗面、サンルームには淡い青を使っている。また、タイルなどにも散りばめた。
建築家・白井晟一は「青は『希望』の色とはよく言ったものだ」と書き記している。
光が大気圏に入って来た時、最も波長の短い青い光線が拡散するため、空は青く見える。海も、同じ理由で青い。本当に奥深い色なのだ。
床を解体すると、下から火鉢がでてきた。掘り炬燵の下にあったものではという。お母様も越してくる前のことで知らなかったそうだ。
お父様は25年前に亡くなられている。しかし、その思い出はこの場所、この家に残っているはずだ。
人は思い出の中にも生きる。しかし、この計画がまっすぐに幸せへと向かっていたなら、天国のお父様も喜んで下さると思うのだ。
解体の途中、床下からでてきた火鉢。おそらく掘りごたつだろうと。昔の生活が垣間見れました。
100年に渡ってこの家を支えてきた梁。
色を塗るのではなく、汚れを丁寧に落としてそのまま使用しました。