●施主
施主は若い画家夫婦である。ふたりとも油彩で風景画を描きながら、服飾美容系専門学校の美術講師をしている。このアトリエで始めた絵画教室が忙しくなり、現在では講師の仕事を減らして、絵画教室に力を入れている。
●敷地
敷地は、埼玉県中部に位置する坂戸市にある。都市基盤整備公団の特定土地区画整理事業によって整備され、平成7年より入居が開始された新しい街区である。敷地の南の方角にある幹線道路沿いには郊外型大型店舗が並び、北側には前面道路を挟んで児童公園がある。この公園のある北側は眺めがよい。東西南方向には住宅しかないため、眺めのよさは期待できない。
敷地は間口10m、南北方向に17mの長方形である。面積は170?(約50坪)。この土地は公団の50年間の定期借地であり、保証金、月々の借地料も安いため、低予算で家を建てることができる。
●施主の要望
・どの用途の部屋も静かで落ち着く場所とする。特に居間は明るく広々とした空間にして欲しい。
・アトリエと住宅部分は明確に分けられ、アトリエ、住宅それぞれが独立して機能できるようにする。
・アトリエは絵画教室やギャラリーとしても利用したいので、入口は道路からわかりやすく、アクセスしやすくする。
・ここは車がないと不便な土地であり、現在車を2台所有しているので、駐車スペースは2台分が必要である。
・100号クラスの大きな油絵を掛けるための大きな壁が各室に欲しい。
●計画
アトリエはある意味寝室よりもプライバシーが必要な空間でありながら、街に開かれたギャラリーとしての機能も期待された。そのためアトリエは1階とし、道路からの距離によって公私のレベルが変化するように南北方向に長い平面とした。製作スペースは道路から十分離れた南側に配してプライバシーを考慮し、比較的落ち着いた空間となった。ギャラリーとして使われる空間は北側の道路に近い位置に配し、道路や公園から内部の様子がわかるように北面は全てフロートガラスの開口部として外部に開いた。又、アトリエの入口の開口部の色をシルバーにすることにより、黒い外壁から際立たせ、アトリエと住宅を視覚的に分節し、自然とアトリエのほうへ視線が行くようにした。
住宅部分は部屋の機能によって天井高を変えることにした。水廻り、寝室、和室は、天井高をそれほど必要とせず、むしろ低いほうが落ち着く。逆に居間は天井を高くしたほうが開放的な広々とした印象の空間になる。この住宅では東側に居間、西側に水廻り・寝室を配したため、屋根全体を西下がりの片流れにして天井の勾配を屋根に合わせ、立体的で一体感のある空間が生まれた。
住宅部分を静かな空間とするために、隣家の様子が気にならないよう東西の壁面には通風以外の窓を開けないようにした。結果として、東西の壁面には油絵を掛けることができるようにもなった。又、居間の南側にはデッキテラスを設け、高めの手摺で目隠しとし、窓を開け放しでも外から見られないようにした。引込み戸を開け放せば、デッキテラスは居間とつながり、外の居間となる。
階段の幅を広く取った。生活空間の大部分は2階になるため、荷物を持っている時や人とすれ違ったりした時などに、上り下りがしやすいよう幅を広めに取った。
●ローコスト化
アトリエは床を張らず、ベタ基礎をそのまま土間として使うように計画した。床レベルも低く抑えられるので、普通の木造住宅と同じ柱の長さで2.9mの天井高を確保できた。現場が始まると、ベタ基礎を竣工直前まで養生しておくのは手間が掛かるので、モルタル塗りにさせて欲しいとの要望が工事会社から出てきたので、実際は金ゴテできれいに仕上げていただいた。又、アトリエの天井は構造材全てを現しとし、仕上げることをやめた。アルミサッシは全て規格寸法品とし金額を下げ、工期の短縮にもつながった。
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