富山県黒部市にある企業診療所です。
地球環境への貢献として、何もない工場跡地に苗木から育てた木を植樹し、地域の本来の自然の姿である森を復元する広大な緑地(一部はYKKセンターパークとして一般公開)の中にこの建物は建っています。建物の西側に芝生による広大なオープンスペースを設け、「森」との境界線となる北から東にL型に連なる壁面を施設の壁面とすることでランドスケープと一体化された建築となることを意図しました。外壁面は時間と共に雑草が生えて錆びていく(自然と同化する)事を意図したRCラス捨て型枠打放しによる荒々しい仕上げ面で構成し、一方屋根面は内部機能を反映した凸形状を持つ白くて薄い板として軽快に浮かばせ、両者の隙間から採光をとることで、軽快で印象的な内部空間を作り出しました。
このプロジェクトでは森の中に建築を建てるのではなく、建築のまわりが将来森となり、建物が森の中に埋没する。と言った数十年に及ぶ長い時間軸を想定してランドスケープを含めた建築デザインを考えていきました。この施設の機能である診療所という性格上から、芝生広場に対しては閉じ、一方、背後の森に対しては開いた表情となっています。一般に診療室はプライバシーの問題から外が見えない造りとなりますが、ここでは積極的に患者に自然を見せることによる心理的な効果「緑が望める病室では患者の治りが早い」(※Ulrichの調査)をテーマとして、診療室で医師の診断を受ける時に視界に樹々の緑が入るよう大開口としました。プライバシーへの配慮として、診察室の外部に森を杉を編んだ塀で仕切ることで安心して診察が受けられるようにしました。
「壊さない時代」を迎えていますが、我々建築家はとかく長寿命化のための技術的な側面に着目しがちです。建築が周辺の環境も含めた時間の中で年老いても環境に調和して生きながらえ、更に一番大切な事はそんな中でもある種の新鮮さを失わない事、は今後私たちが考えて行くべき課題であると考えています。
ここで試みた、光と影、自然建築の関係、などの普遍的なテーマは住宅にこそ発揮されるものと考えています。待合室や診療室はそのままリビングに置き換えることが可能です。
2008年度グッドデザイン賞、2010年日本建築学会作品選奨 、第8回環境・設備デザイン賞入賞作品
構造設計:SDG構造設計集団
設備設計:総合設備計画
施工;第一建設
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