「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。
自分にフィットする「住まい」を、自由な発想で建てる――そんなムーブメントが今、世界に広がっているのを知っていますか?
自分たちの手で住まいをつくるための「セルフビルド・コミュニティ」、シンプルな生活を実現する「タイニーハウス」、不安は小さく、希望は大きな暮らしを叶える「トレーラー・ハウス」、理想の暮らしをともに育む「エコビレッジ」など手法はさまざまですが、すべてに共通するのは「住まい」を自分のチカラでつくること。
そんな暮らしのムーブメントのなか、自分のライフスタイルを軽やかにつくり上げた実践者4名が一堂に会したイベントが2016年11月2日、LOFT9 Shibuyaで開かれました。その名も「Freedom of Living 世界で広がる自由な住まい方」。各ゲストが紹介する暮らしの実践例を知ることで、参加者は自身の住まい方を改めて見直すことができる、そんな内容のトークショーです。
ゲストは「Ecomotive」のジャクソン・モールディングさん、「ツリーヘッズ」の竹内友一さん、「インテンショナル・コミュニティ協会」の鯉谷ヨシヒロさんほか、greenz.jpの編集長・鈴木菜央も登壇。モデレーターは「BeGood Cafe」代表のシキタ純さんが務めました。
来場者約100名という大盛況ぶりに、テーマへの関心の高さが伺えます。今回はイギリスから来日したジャクソン・モールディングさんのトークを中心に、当日の内容をレポートします!
手の届く価格でマイホームを!イギリスの「セルフビルド・コミュニティ」
「持続可能な環境」と「人々の生活の向上」を軸とした、人とコミュニティをつなげる活動を続ける。英国ブリストルでのセルフビルドプロジェクトで賞を受賞した「アシュリーベール アクショングループ」に2000年より所属。現在は、建築コミュニティ・ハブ「Ecomotive」のプロジェクトディレクターとして建築家、設計家とともに、人々に焦点を当てたハウジングプロジェクトで活躍。
「セルフビルド・コミュニティ」を紹介する「Ecomotive」のジャクソン・モールディングさんは、イギリス南西部の港町・ブリストルで<個人の家をみんなで建てる><コミュニティごとみんなでつくる>といったハウジングプロジェクトのディレクターをしています。
「セルフビルド・コミュニティ」とは、“自分で家を建てたい”と考えている人たちが協力しあいながら、お互いの家をボランティアでつくり合うための出会いの場です。
今イギリスでは、7人に1人がマイホームを持ちたいと考えています。しかし古い建物ほど資産価値がつく文化が仇となって、年々不動産価格が高騰している現象が大きな社会問題となっているそうです。
そのため若者は家を購入する選択肢を持つことができません。ところが、セルフビルドで家を建てることによってマイホームが手の届く存在になりました。
これまでジャクソンさんが手がけたハウジングプロジェクトは、コミュニティを主体としたもの。自分だけでなく、家族や友人、地域の住民など多くの人を巻きこんで、みんなで家を建てるその手法をコミュニティビルドとも呼びます。
自分たちで家を建てるメリットは、実はプロが建てた家を購入するよりもはるかに豊かなものなんです。建築のスキルを得られるし、環境への負担も少なくできる。プロジェクトを通じていろいろな人とも出会えます。そして自分好みの家を格段に安く建てられるんですよ。(ジャクソンさん)
プロジェクトの参加者には、自分の暮らしたい家を100分の1サイズの模型でつくるタスクをいちばんはじめに課します。この模型を完成させるまでは、本当の家を建てはじめてはいけないというルールなのだそうです。
地域コミュニティを「住まい」から自分たちの手でつくるプロジェクト
ジャクソンさんの話で特にユニークだったのが、コミュニティ・ランド・トラスト(共同体土地信託)を活用したプロジェクト。コミュニティ・ランド・トラストとは、地域マネジメントを目的とした非営利の共同体です。
この共同体は、地域住民による資産の共同所有と管理を通じて、ハウジングコストの軽減やコミュニティとしての信頼を育てる活動を行なっています。
一般的に、家を所有する場合は土地と住宅をセットで購入します。しかしコミュニティ・ランド・トラストは、共同体が地域一帯を購入して土地の所有権を持ち、個人には住宅のみを販売する仕組みをとっています。
この仕組みのユニークなポイントは、住宅の購入時に全額支払うお金がない場合でも、価格の50%を支払えば個人の住宅所有が可能なところ。その代わり、家を売る際には売却益の50%をコミュニティ・ランド・トラストに返還します。
ジャクソンさんは、このコミュニティ・ランド・トラストを取り入れた地域コミュニティそのものを、住みたい人たちが集まってみんなでつくるプロジェクトとして進めてきました。
今イギリスでコミュニティビルドのニーズはものすごく伸びています。事実、自分の家がほしいと望んでいる人のうち4分の1が、セルフビルドで建てたコミュニティに暮らしてみたいと考えているという調査結果があるんですよ。(ジャクソンさん)
そのニーズに応えるべくジャクソンさんたち「Ecomotive」は、誰もが気軽にセルフビルドにチャレンジできるスモールハウスのカスタムキット「SNUG homes」を開発、イギリス南西部のビジネスコンテストであるSouth West Business Edge Awards 2016でベストニューアイデア賞を受賞しました。
どうやら海の向こうのイギリスでは、フィットする「住まい」を自分で描き、仲間とともに家を建てることが人々の間で身近なチョイスになりつつあるようですね。
はじまりはアメリカの金融危機!?「タイニーハウス・ムーブメント」
タイニーハウス、ツリーハウスアーティスト。1974年生まれ、山梨県北杜市在住。ツリーハウスやタイニーハウスなど、全国各地を旅をしながら小屋を生み出している。セルフビルドの学校「Tiny House Workshop」主宰。アメリカ西海岸のタイニーハウスを巡るロードムービー「simplife」を製作中。来春に公開、全国上映ツアーの予定。
「タイニーハウス」を紹介する「ツリーヘッズ」の竹内友一さんは、3年ほど前から山梨でタイニーハウスづくりのワークショップを行なっています。現在はタイニーハウスで暮らす人たちを訪ねてアメリカを旅したドキュメンタリー映画「simplife」を製作中です。
タイニーハウスは直訳すると“ちいさな家”ですが、<ちいさな家を自分でつくり、大切なものだけを残してシンプルに暮らす>スタイルを意味します。
竹内さんは映画の撮影にあたり、タイニーハウスに住む人たちのライフストーリーをインタビューしました。さまざまな人と出会うなかで彼らに共通していたのは、その人らしさに満ちあふれた様子だったそう。
眩しいなって感じました。みんな自分への探求心がとても豊かなんです。「私って実はこういうことがしたいんじゃない?」って探りながら、自分がいちばんキラキラできる状態をつくろうとチャレンジしていました。その流れのなかでタイニーハウスの暮らしを選んでいるんですよね。(竹内さん)
今アメリカでは、大量消費社会のカウンターカルチャーとしてタイニーハウスムーブメントが盛り上がっています。“大きな家に住み、大きな車に乗る生活”をステータスの証だと思っていた人たちが、2008年のリーマン・ショック以降、身の丈に合った暮らしを見つけていく作業をはじめました。
自由という言葉は、一般的に束縛されないとか、解放されたという意味で使います。でも本当の自由は「自分に従う」ことだと僕は思うんです。自分らしい生き方ができるようになるのが自由じゃないかって。(竹内さん)
自分に従った先に選んだタイニーハウスの生活。竹内さんがアメリカで出会った人たちは、誰もが<自分のために仕立てた洋服のような>フィットした暮らしをしていたとか。
その様子は、2017年に公開予定の映画「simplife」で詳しくお伝えできるそうです。タイニーハウスムーブメントがアメリカ人の暮らしの価値観をどのように変えたのか、とても気になるところです。
暮らしは小さく、遊びは大きく。ほしい暮らしを叶えた「トレーラーハウス」
NPOグリーンズ代表/greenz.jp編集長 76年生まれ。 月刊ソトコトを経て06年「ほしい未来は、つくろう」をテーマにしたWebマガジン「greenz.jp」創刊。千葉県いすみ市に 家族4人で35平方メートルのタイニーハウス(車輪付き)に住む。 著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』。
「トレーラー・ハウス」を紹介するのは、greenz.jp編集長の菜央さんです。greenz.jpは「一人ひとりが人生の主役になれる社会を作りたい」との思いから生まれたウェブメディア。<ほしい未来は、つくろう>を合言葉に、さまざまな分野でほしい未来をつくる人たちを取材しています。
菜央さんは、2014年から千葉県いすみ市で家族とともにトレーラーハウスでの生活をスタートしました。きっかけは一緒に住んでいた2人の娘さんに言われた「パパまた遊びに来てね!」のひと言だったそう。
幸せになるために一生懸命働いていたら、家族との暮らしがないがしろになっていた菜央さん。自分の暮らしをイチから見直したところ、「暮らしや不安は小さく、遊びや希望は大きな暮らし」に行き着いたのだとか。
ちょうどその頃アメリカのタイニーハウスムーブメントを知り、縁あって35平方メートルのトレーラーハウスに家族で引っ越しました。今では住まいは4分の1に、家具は半分、そして洋服も3分の1の小さな暮らしを送っています。
大きな暮らしでいうと、書斎用の小屋やウッドデッキを増設するときに、プロをひとり呼んで仲間と一緒に学びながらつくりました。それがもう楽しくて。自分で暮らしをつくれる、友達のも手伝いにいける。困ったときに助け合える人がいるのは豊かですよね。(菜央さん)
その姿を見た近所の人たちがマネをして、「俺も建てる!」と仲間を巻き込みながら、最近あちこちで小屋を建てはじめたのだとか。その他にも菜央さんは、電気をオフグリッドにしたり、ミミズコンポストをつくったりと、興味のあることは参加者を募って遊びに変えながら生活を整えてきました。
コミュニティビルドに参加した人はみんなすごく笑顔になるんです。それは楽しい以上に生きることにつながっていて、安心感で満たされるかんじがあるからかな、と思います。すごくオススメです。(菜央さん)
日本ではまだ、タイニーハウスムーブメントの存在はそれほど一般的ではありませんが、菜央さんのように<不安は小さく、希望は大きく>暮らしたい人はきっとたくさんいるのではないでしょうか。
「インテンショナル・コミュニティ」が目指す、自分らしく生きる社会
インテンショナル・コミュニティ協会代表。「ソーシャルヒッピー」メキシコ在住11年。写真家、建築家。ホースキャラバン、中南米を馬30頭20人で旅しサバイブ、一カ所に定住しない「移動するコミュニティ」を作る。現在、次世代のエコビレッジである「インテンショナル・コミュニティ」プラットフォームを構築中。
「エコビレッジ」を紹介する「インテンショナル・コミュニティ協会」の鯉谷ヨシヒロさんは、異なるコミュニティを相互につなぐ「インテンショナルコミュニティ」のプラットフォームを準備中です。
インテンショナルコミュニティとは聞き慣れない英語かもしれません。たとえばエコビレッジのような、共通のビジョンを実現するために生活や仕事を共にする人たちのグループを総称する言葉として海外で使われているのだそう。
鯉谷さんは大学を卒業してから今までずっと、ほとんど定住せずに移動しつづけるライフスタイルを実践しています。社会のルールに縛られない自由なヒッピー文化に魅せられて、東南アジアやメキシコなど世界を旅しながらさまざまな価値観を持ったコミュニティの人たちと暮らしを共にしてきました。
目指す理想はそれぞれ違いますが、どのコミュニティでも個人の意思が尊重され、他者と経験やスキルを分かち合い調和して暮らしている点は共通して大切にされていたといいます。
今はインターネットやSNSが普及してリモートで働く人が増えました。ライフコストを下げるために地方に移住する人や、都会と田舎で二拠点生活をはじめる人もいますよね。そんなライフスタイルを送る人がこれからどんどん増えるのなら、僕が見てきた多様なコミュニティの持つ、自由で調和的なあり方をもっと多くの人に味わってもらいたいと思ったんです。(鯉谷さん)
鯉谷さんは現在、全国に散らばるインテンショナルコミュニティのネットワークをつなぎ、現地に宿泊してイベントやワークショップへ参加できる仕組みをインターネット上に構築しています。
インテンショナルコミュニティの存在を通じて、まずは自分が一番最高だと感じられる生活を実践しようよっていうメッセージを伝えたい。一人ひとりが生きているという実感を健やかに持てたら、社会はもっと調和的になれるはず。そんな社会のベースをつくりたいと思っています。(鯉谷さん)
オルタナティブなイメージもあるインテンショナルコミュニティですが、そのベースにあるのは一人ひとりが自分らしく生きる社会をつくること。それは誰もが共感できる普遍的な願いではないでしょうか。
(レポートここまで)
登壇したゲストの話はひとつひとつが新鮮で面白く、会場も終始真剣な様子で聞き入っていました。トーク後の質問タイムでは、自分にフィットする「住まい」の選択に迷いながら向き合う参加者の様子もうかがえました。また、イベント終了後にモデレーターのシキタさんからは、「ぜひ、来春に第2回を開催したい」と意欲的なコメントも。
当たり前に暮らしている世界の外に、まだまだ知らない自由な「住まい」の選択肢がありそうです。もしもあなたが「住まい」を自由につくるとしたら、どんなことを大切にしますか?
(Text: 村瀬 彩 / Photos: 星野耕史)
※この記事はgreenzに2017年2月20日に掲載されたものを転載しています。