テラスから室内まで続くコンクリートの土間と、大きな窓で外と内をつなぐ。芝屋根をリビングのように楽しみながら、自然や環境と寄り添って生きる。
text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura
mat house
群馬県太田市
〈設計〉KAZ建築研究室
川辺の土手のようにゆるやかに傾斜する屋根は芝生で覆われ、薪ストーブの煙突が突き出している。家族は気軽にそこへ登り、寛いだり、寝そべったりして自由に過ごす。住宅地にありながら、目前は畑というのどかな環境に建つこの家には、39歳の会社員である松本欣之さんと奥さまの陽子さん、9歳と1歳のお子さんの4人家族が暮らしている。
「石畳の土間が庭と一体になり、そのまま家の中まで続いている清家清さん設計の『私の家』を雑誌で見て、建築家というのはすごい! と考えが一変したんです。庭や外と室内のつながりを、自分の家でも考えてみたいと思いました」(欣之さん)
陽子さんのご両親が住んでいた古家を譲り受け、建て直して住むことは決まっていたが、ハウスメーカーや工務店にプランを相談しても、なかなかイメージに合わず、暗礁に乗り上げていた時期の出来事だった。
「建築家に依頼するのは、敷居が高いように感じていたけど、同じ群馬県内で活動する方、ローコストに理解がありそうな方を探して、とりあえず相談に行きました」(陽子さん)
訪ねた先はKAZ建築研究室の小磯一雄さん。予算が決着し、無事に打ち合せや設計がスタートすると、松本さんご一家はご近所付き合いや周辺環境に慣れるため、解体予定の古家に住み始めることにした。
「その古家に松本さんが手を加え始めたんです。畳をめくってベニヤを敷いて、照明や家具なども買い足して、どんどんいい感じの家になっていった。その様子を見ながら、松本さんの持ち味を理解し、次第にプランが熟していきました」(小磯さん)
延床90㎡ほどの木造平屋建ては、最小限の個室とオープンなワンルームという構成。「新居も住みながら手を加えていきたい」という松本さんご夫妻の希望から、壁も天井も仕上げず素地のままとした。テラス側の床は土間仕上げとし、大きな窓で外と住居内との連続性を持たせている。テラスの前に広がる庭との間には、屋根から続く登り梁が並び、住居の領域をつくりつつ、テラスをより内部へ引き寄せる役割も果たしている。
窓を開ければ道行く人は興味深げに中を覗いて行く。ご近所さんとはダイニングから挨拶を交わすことも。自然にも人にもオープンで、すべてをありのまま受け入れ、楽しんでしまう松本さん一家の生活が、そのまま形になったような家である。
〈物件名〉mat house 〈所在地〉群馬県太田市 〈居住者構成〉夫婦+子供2人 〈用途地域〉第一種住居地域 〈建物規模〉地上1階建て 〈主要構造〉木造 〈敷地面積〉312.30㎡ 〈建築面積〉117.00㎡ 〈床面積〉90.74㎡ 〈建蔽率〉37.46%(許容60%) 〈容積率〉29.05%(許容200%) 〈設計〉KAZ建築研究室 〈施工〉藤建設工房 〈設計期間〉36ヶ月 〈工事期間〉5ヶ月 〈竣工〉2011年 〈総工費〉2,300万円
Kazuo Koiso
小磯一雄 1959年 群馬県生まれ。81年 足利工業大学工学部建築学科卒業。梅沢建築研究室等を経て、89年 KAZ建築研究室設立。
KAZ建築研究室
群馬県館林市堀工町963・5
TEL 0276・75・1701
FAX 0276・72・1705
kaz.aa@nifty.com
kaz-archi.com
※この記事はLiVES2012年2月号に掲載されたものを転載しています。