建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
記事作成・更新日: 2014年 6月24日

人にも自然にもオープンに暮らす。庭から続く芝屋根がある平屋

テラスから室内まで続くコンクリートの土間と、大きな窓で外と内をつなぐ。芝屋根をリビングのように楽しみながら、自然や環境と寄り添って生きる。

text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura

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屋根には左右の階段から昇り降りできる。登り梁には植物を這わせて、グリーンカーテンをつくり、庭から屋根まで緑をつなげる予定。

mat house

群馬県太田市
〈設計〉KAZ建築研究室


 川辺の土手のようにゆるやかに傾斜する屋根は芝生で覆われ、薪ストーブの煙突が突き出している。家族は気軽にそこへ登り、寛いだり、寝そべったりして自由に過ごす。住宅地にありながら、目前は畑というのどかな環境に建つこの家には、39歳の会社員である松本欣之さんと奥さまの陽子さん、9歳と1歳のお子さんの4人家族が暮らしている。

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芝屋根の上では、ピクニックと称してお弁当を食べたり、昼寝をして過ごすことが多い。子供たちには格好の遊び場となっている。

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左/庭には地面を這うように育つグランドカバーの植物、低木、草花などを植栽。
右/日に焼けて赤みが抜けてきたレッドシダーの外壁。木の表情に緑が映える。

「石畳の土間が庭と一体になり、そのまま家の中まで続いている清家清さん設計の『私の家』を雑誌で見て、建築家というのはすごい! と考えが一変したんです。庭や外と室内のつながりを、自分の家でも考えてみたいと思いました」(欣之さん)

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室内から大きな開口部を介して、コンクリートの土間床がフラットに続くテラス。内と外の連続性を演出し、区切りを曖昧にすることで、外を室内に取り込んでいる。

 陽子さんのご両親が住んでいた古家を譲り受け、建て直して住むことは決まっていたが、ハウスメーカーや工務店にプランを相談しても、なかなかイメージに合わず、暗礁に乗り上げていた時期の出来事だった。
「建築家に依頼するのは、敷居が高いように感じていたけど、同じ群馬県内で活動する方、ローコストに理解がありそうな方を探して、とりあえず相談に行きました」(陽子さん)
 訪ねた先はKAZ建築研究室の小磯一雄さん。予算が決着し、無事に打ち合せや設計がスタートすると、松本さんご一家はご近所付き合いや周辺環境に慣れるため、解体予定の古家に住み始めることにした。

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左/洗面シンクはシンプルで使いやすい、実験用タイプをセレクト。
右/クローゼットとつながった欣之さんの部屋。2室に分けられる造り。

「その古家に松本さんが手を加え始めたんです。畳をめくってベニヤを敷いて、照明や家具なども買い足して、どんどんいい感じの家になっていった。その様子を見ながら、松本さんの持ち味を理解し、次第にプランが熟していきました」(小磯さん)

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左/下部に収納をまとめたコの字型のキッチン。「すべてに手が届くので使いやすい」と陽子さん。
右/敷地の裏手にある学校の緑を眺めるように、リビング方向に天井が高くなった空間。

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左/個室はミニマムなサイズ。室内窓には建具がなく、上部も吹き抜けで家全体がつながる。
右/ワークスペースは、親子4人で使える仕様。個室の壁は欣之さんが黒板塗料を塗装。

 延床90㎡ほどの木造平屋建ては、最小限の個室とオープンなワンルームという構成。「新居も住みながら手を加えていきたい」という松本さんご夫妻の希望から、壁も天井も仕上げず素地のままとした。テラス側の床は土間仕上げとし、大きな窓で外と住居内との連続性を持たせている。テラスの前に広がる庭との間には、屋根から続く登り梁が並び、住居の領域をつくりつつ、テラスをより内部へ引き寄せる役割も果たしている。

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テラスと庭、その先に広がるブルーベリー畑まで見渡すダイニング。土間の床は屋外で過ごしているような開放感を与えてくれる。

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登梁が個人住宅としてのプライベートな領域をつくりつつ、縁側のように街に開放されたテラス。ご近所さんとは大きな窓を通してコミュニケーション。

 窓を開ければ道行く人は興味深げに中を覗いて行く。ご近所さんとはダイニングから挨拶を交わすことも。自然にも人にもオープンで、すべてをありのまま受け入れ、楽しんでしまう松本さん一家の生活が、そのまま形になったような家である。

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ワークスペースからダイニング、キッチン、テラスまでがコンクリートの土間で、屋外と自然につながっていく。薪ストーブは山林舎。


〈物件名〉mat house 〈所在地〉群馬県太田市 〈居住者構成〉夫婦+子供2人 〈用途地域〉第一種住居地域 〈建物規模〉地上1階建て 〈主要構造〉木造 〈敷地面積〉312.30㎡ 〈建築面積〉117.00㎡ 〈床面積〉90.74㎡ 〈建蔽率〉37.46%(許容60%) 〈容積率〉29.05%(許容200%) 〈設計〉KAZ建築研究室 〈施工〉藤建設工房 〈設計期間〉36ヶ月 〈工事期間〉5ヶ月 〈竣工〉2011年 〈総工費〉2,300万円

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Kazuo Koiso


小磯一雄 1959年 群馬県生まれ。81年 足利工業大学工学部建築学科卒業。梅沢建築研究室等を経て、89年 KAZ建築研究室設立。

KAZ建築研究室
群馬県館林市堀工町963・5
TEL 0276・75・1701
FAX 0276・72・1705
kaz.aa@nifty.com
kaz-archi.com


※この記事はLiVES2012年2月号に掲載されたものを転載しています。

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