外の余韻を引き込みながら、奥行きを重ねてゆく土間。古建具や蔵戸を用い、坪庭や外の間との連続性で、多彩な光と眺めを生み出す和の空間。
text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura
つづきまのいえ
東京都中野区
〈設計〉 STAR/エスティエイアール 佐竹永太郎
● 住人データ…
Sさんご家族
夫(35歳/会社員)
妻(34歳/会社員)
玄関の蔵戸を開けると、路地のような墨モルタルの通り庭が奥まで延びる。障子で仕切った小上がりの和室は、路地に並ぶ茶屋のようだ。2階も磁器質タイルの土間床。真ん中に“外の間”と名付けられたテラスがあり、3方向が屋外とつながって、明るさと開放感を感じさせる。
「京都の庭園が好きで、和の家に住みたかったんです。風呂から眺める坪庭、路地が引き込まれたような土間なども希望していました」
そう話すSさんご夫妻は、ともに会社員で、ご主人が35歳、奥さまが34歳。商店街の賑やかな風情が気に入り、中野区にある建坪13坪の敷地を購入し、アーキッシュギャラリーの紹介で出会ったSTARの佐竹永太郎さんに設計を依頼した。
「家全体でひと続きになった空間を、障子や襖などで仕切るという手法で、“一の間”から“五の間”にゆるく分け、外の間、坪庭、通り庭などの外部空間と関わりを持たせ、自然と同居できる家を目指しました。“和風”ではなく“和”の家にこだわり、京町家などの日本の建築手法の背景や効果について、Sさんご夫妻と話し合いを重ね、意味を理解した上でそれらの知恵を取り入れ、光と風が抜け、多彩な眺めが展開する住まいをつくっていきました」(佐竹さん)
2階の“三の間”はダイニング。台所とは土間でつながり、奥には小上がりの和室“四の間”、ワークスペースとして使う“五の間”がある。和室からは“外の間”に出ることができ、回遊性のあるプランは全体を一室空間として感じさせ、1階で引き込まれた外の余韻と奥行きを家全体へと行き渡らせている。
階段室を仕切る格子戸はSさんと佐竹さんが古道具屋で見つけた古建具。2階の格子戸は、階段室の吹き抜けを仕切りながら光と風を通す。一方、1階の格子戸にはアクリル板をはめ込み、暖房効率に配慮している。
「長く使える天然素材を選び、古い材料や建具を転用し、ものを大切に使う精神も和の特徴。古い蔵戸や建具を使うことで、積み重なった時間をつなげ、古びない豊かさを生み出しています」(佐竹さん)
この家には、気に入った場所がたくさんあると話すSさんご夫妻。
「階段の建具の格子から、光が差し込む光景が好きです。一の間の地窓からぼんやり庭を眺めていると、京都の庭を訪れたような気分になれる。日々の暮らしの中で、求めていた和の心地よさを感じています」
〈物件名〉つづきまのいえ〈所在地〉東京都中野区〈居住者構成〉夫婦〈用途地域〉第1種中高層住居専用地域〈建物規模〉2階建て〈主要構造〉木造在来工法〈敷地面積〉78.52㎡〈建築面積〉45.37㎡〈床面積〉1階42.63㎡ 2階39.34㎡〈延床面積〉81.97㎡〈建蔽率〉57.78% (許容60%)〈容積率〉104.39% (許容160%)〈設計〉STAR/有限会社エスティエイアール〈施工〉株式会社アーキッシュギャラリー〈設計期間〉7ヶ月〈工事期間〉6ヶ月〈竣工〉2012年
Eitaro Satake
佐竹永太郎 1972年 東京都生まれ。94年 東北大学工学部建築学科卒業、96年 同大学大学院建築学部終了。96〜2002年 北川原温建築都市研究所勤務。02年STAR設立。05年 有限会社エスティエイアールに改組。12年「JR大阪三越伊勢丹」にてJCD入選他。
STAR/有限会社エスティエイアール
東京都北区東十条2・4・7
TEL 03・3914・8404
FAX 03・3914・8412
contact@starchitects.info
www.starchitects.info/
※この記事はLiVES vol.64に掲載されたものを転載しています。