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暮らしのものさし
記事作成・更新日: 2014年 9月26日

大事なことは”マウナケアで考える”。出張暮らしのgreenz.jp編集長YOSHさんに聞く「子育てと暮らすことのリアル」


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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自宅のデスク

あなたにとって、「理想の暮らし」ってどんなものですか?

自然環境の良いところで、のびのびと子どもを育てたい。
広い家で、好きなものだけに囲まれていたい。
二拠点居住をして、都会と田舎を行ったり来たりしたい…

誰かの素敵な暮らしを垣間見たり、本を読んだりすると、「こういう暮らしっていいなあ」と憧れを抱いたりします。

でも、実際には理想と現実の間にギャップがある、という人も少なくないはず。では、素敵な暮らしをしているように見えるあの人は、どんな工夫をしているのでしょうか?

今回は”編集長”として全国を飛び回り、”お父さん”として子どもを見守るYOSHさんから、「暮らしのものさし」を見つけるヒントを教えてもらおうと思います。

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取材は東京のリトルトーキョーで

土日の収入は「サンタのよめ基金」

秋田出身のYOSHさんは、いま鹿児島に住んでいます。大学進学とともに、東京を拠点に活動してきましたが、2013年、パートナーで「サンタのよめ」を主宰する真紀さんの妊娠・出産を機に、真紀さんのご両親が住む鹿児島へ引っ越しました。

いまは、2LDKのマンションに、奥さんと1歳4か月になる娘さんと3人で暮らしています。

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真紀さんの誕生日に自宅に登場したポップアップ寿司屋さん「YOSH兵衛」。握りたてを召し上がれ

まだ娘さんが小さいため、”お父さん”という役割をとても大事にしていて、「仕事は17時まで、残業なし!」という徹底ぶり。週に一度は東京をはじめ全国へ出張していますが、できるだけ1泊2日で帰ってくるそうです。

子育てって楽しいけれど、マルチタスクでいろいろこなさないといけないし、やっぱり大変です。ぼくが丸2日家を空けると、その分真紀さんの負担は倍増する。それでお互いストレスが溜まるとすぐケンカになるので、家族のためだけでなく自分のためにもそうしています。

土曜日はお互い最近できていなかったことに取り組む日、日曜日は家族で過ごす日、と決めていて、もし土日や祝日にイベント出演や講演の依頼があった場合、謝礼はできる限り交渉。

そうして得られた収入の半分は貯金、もう半分は「サンタのよめ」の活動費=”真紀さんの収入”ということにしています。

今は僕一人の収入でやりくりをしていて、余裕があるわけではないので、いつも相談させてもらっています。正直にお伝えすると、意外と理解をいただくことが多いのはありがたいですね。

とはいえそれも、真紀さんが休日もがんばってくれたことで、稼ぐことができたお金。それで半分は真紀さんの分、と。

真紀さんも本当は仕事に復帰したい気持ちはあるけれど、できていない現状があるなかで、少しでも僕の出張をポジティブに捉えられるように、話し合いながら決めました。

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「サンタのよめ」の最新作「Cotoliliaのプレゼント」。娘の誕生日にちなんで毎月10日は、街で話しかけてくれた人に、御礼としてサプライズプレゼントのお返しを

全国の奥さんから盛大な拍手が聞こえてきそうな発言!でも、本人は「全然ですよ」と否定します。

まるですごく頑張っているお父さんみたいだけど、モノは失くすし、壊すし、できてないことだらけですからね(笑)

喧嘩して「じゃあどうする?」、喧嘩して「じゃあどうする?」って、その繰り返しでこうなりました。

最初から「こうしよう」とルールをしっかり決めていたのではなく、衝突しながら対策を考えた結果、いまの形に落ち着いたのだそう。「子どももどんどん成長していきますし、きっとこれからも変わっていくと思います」とのこと。

大事なのはきっと、「衝突や喧嘩をしないこと」ではなく、「そこから学んで行動すること」なのでしょうね。

子どもの成長とともにレイアウトが変わっていく

一人暮らしの頃からずっと、自分だけの読書スペースがお気に入りだったというYOSHさんですが、いまはインテリア選びも子どもが基準。子どもの成長に合わせ、家具の配置等もどんどん変えているそうです。

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ちょっと目を離すとこんな感じ

少し前までは和室のふすまを取り払っていたんですが、ハイハイをするようになると、どこまでもお母さんを追いかけて行っちゃうから、慌ててつけたり。

最近は歩くようになってきたから、触って危ないものは全部高いところに上げなくちゃって思っています。家自体が生き物のように、どんどん変わっていきますね。

子どもができると、生活のリズムもインテリアも子ども中心に変わるもの。それにストレスを感じる人も多そうですが、YOSHさんは工夫しながら楽しんでいる様子です。

まだ娘も小さいので、落ち着いたお洒落なカフェとかなかなか行けないんですが、うちはベランダが広くて気持ちよくて。そこでベランダを「カフェ」と呼んで「今日は天気がいいから、カフェでごはん食べようか」って。あとは野菜を育てたり、プールで遊んだり。

子どもが生まれると、ほんとにそれまでとは何もかもが変わるので、すぐイライラしてしまいます。ほんの十秒のハグだっていい。気分転換がすごく大事だなと思います。

できないことを嘆いたり、ないものねだりをしたりする代わりに、いま身の回りにあるものの良さを見出して、最大限楽しむ。そういったスタンスでいることが、いつも機嫌良く過ごす秘訣なのかもしれません。

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ベランダでプール遊び

全国に自分の本棚がある

そんなYOSHさんの暮らしの中で、際立って特徴的なのが「本棚」です。編集長という役職に就いているというと「さぞかしたくさんの本を持っているだろう」と思いますよね。

でも、YOSHさんの本棚はひとつだけなのだそう。「そのほかの本は、全国の本棚に置いてあるんです」と笑うYOSHさん。一体どういうことなのでしょうか?

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特等席にはデイブ・エガーズさんの雑誌「McSweeney’s」

真紀さんと同棲することになったとき、本を整理しようと思ったんです。実は読み終わった本の大半は、そこにあることで自分の支えにはなっているけど、もう読まない”卒業した本たち”ばかりだったんですよね。

この本を手放そうと決心したYOSHさんですが、古本屋に持ち込んでも二束三文の値段がつくだけ。「こんな大事な本が、こんな価値のないものとして扱われるのは嫌だ」と思ったのだそう。

そこで、せっかくならこの本の価値を共有できる人に届けたいと思って、「Help My Bookshelf」というサイトをこっそり立ち上げました。

「オープンソース的な概念を理解するための5冊セット」「日本的なものをめぐる7冊セット」など、自分でキュレーションして、サイト上でお預けする人を募ったんです。

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テーマを設定して本を選び、サイト上にコメントつきで紹介しました。

引き継いだ本は、新しく線を引いても、折り目をつけてもOK。ひとつだけお願いしたのは、「もしあなたがこの本を卒業したときは、また誰かのもとに引き継いでほしい」ということ。北海道へ、沖縄へ。友人知人へ、全く知らない人へ。13セット85冊の本は、すべて全国各地へ旅立っていきました。

「あげる」のでもなく、「貸す」のでもなく、「お預けする」という言葉を使ったのは、いつかまた自分がこの本を読みたいと思ったとき、返してもらえるように、です(笑)

自分の本棚を全国へ拡張するというイメージでしょうか。いろんな人の家に、僕の本棚がある。それっていいな、と。

数年前から、モノへの執着を捨て、不要なモノを捨てる「断捨離」がブームになっています。でも、思い入れがあるもの、今の自分を形づくってきたものをバッサリ捨ててしまうことにどうしても抵抗感を感じる人は多いのではないでしょうか。

思い入れのあるものは、いまそれを必要としている誰かに託せると気が済みます。自分がかつて大切にしていたものが、誰かの役に立っていると思うとやっぱり嬉しい。

断捨離するときは、そんな”気が済む”ような仕組みをつくることが大事だと思いました。

モノを多く所有することに執着するのでもなく、モノへの愛着を否定するのでもなく。「Help My Bookshelf」は、その中間のちょうど良いバランスを体現したプロジェクトなのかもしれません。

マウナケアで考える

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今年の書き初めは「作家」。「(兼松)家を作(な)す」「家を作る」「作家になる」という3つの意味を込めました。

自分らしく、心地よい暮らしを紡いでいるように見えるYOSHさんですが、何か心がけていることはあるのでしょうか?

いきなりですが、ウィトゲンシュタインという哲学者のこの言葉が好きなんです。

「私がたどり着きたいと思っている場所が、梯子(はしご)を使わなければ上れないような場所なら、私はたどり着くのをあきらめるだろう。 実際たどり着くべき地点には、すでにいなければならないのだから。梯子を使わなければ手に入らないものに、私は興味がない。」

ちょっと難しいかもしれませんが、僕の解釈は、「そこに行きたい」と思ってしまった時点で、「自分はまだそこに至ってない」のかもしれないけれど、それを残念に思う必要なんてなくて、キレイさっぱり諦めちゃおうと。

理想の暮らしはあってもいいけれど、それと比べて残念がることなんてなくって、それはあくまで目指すべき方向として置いときつつ、自然に、身の丈で、ちょっとずつ近づいていくのがいいなって。

「いつか家を建てるときには、隣に塾もつくりたい。特にその準備はしていないけれど、焦ってない(笑)」というYOSHさん。

「こうありたい」という想いが本当なら、節目節目で自然とそうなるよう選択するもの。それを続けることで、いつの間にか自分が理想としていた場所に立っているのかもしれません。

あとは、タイミングもあると思います。僕も「地方に移住したい」という思いは思っていたけど、真紀さんの妊娠・出産というきっかけがあったから、スムーズに実現できた。「移住したいけどできない自分」に焦ってじりじりするよりは、じっくり機を待つ方が心もヘルシーかなと。

それに、「移住すること」は、目的じゃなくて手段。たとえば「家族と豊かな時間を過ごすこと」が目的なら、何も移住しなくてもできるかもしれない。目的と手段をごちゃまぜにせず、自分が何を望んでいるのかを見つめて、いまできることをやってみるといいと思います。

誰かの素敵な暮らしに憧れたり、夢や理想を描いたりするのもいいけど、それに囚われすぎない。そのためにYOSHさんが大事にしているのは、自分が本当に望んでいることを、深く深く見つめていくこと。それを「マウナケアで考える」と表現します。

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マウナケアからの夜明け

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YOSHさんのマウナケア。西村佳哲さんが『自分をいかして生きる』で紹介した”氷山モデル”を参考に

マウナケアはハワイ島にある標高4,200mほどの山。実は海の底から測ると標高10,000mを超え、火星のオリンポス山についで太陽系で2番目に体積の大きい山なんだそう。

太陽系で2番目って、地球上のマグマが「どこに行こうかなあ」と迷って、そこに集まったんじゃないかってくらい壮大なスケールですよね。で、何を言いたいかというと、自分の中にいろんな地層があるとして、より根本に近い場所で考えていくと、ぶれていくことってないのかなって。

今の僕にとっては”greenz.jp編集長”としてマグマが出てきていますが、実はその下の階層にある”勉強家”であり、”お父さん”である自分の方が大事。だからもし”お父さん”が脅かされるなら、極論”編集長”という肩書は手放してもいいかもしれない。いつもそんな心構えで仕事ををしています。

そして、もっとも大事なのは”兼松佳宏”という土台です。「あなたの仕事は何ですか?」と聞かれた時、「自分の仕事は兼松佳宏です」っていつも言い切れるように、自分の魂に寄り添いながら生きていこうと思っています。

自分を掘り下げていく中で、自分や家族にとって心地よい時間や空間の使いかた、ものとの向き合いかたを見つけていったYOSHさん。作家として「空海とソーシャルデザイン」を連載したり、2016年から京都精華大学の特任講師を担当することになったのも、”勉強家”の上に出てきた新たな”島”だと感じているようです。

きっと100人いれば100通りの土台があるはず。ぜひみなさんもちょっと立ち止まって、マウナケアで考えてみませんか?

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