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暮らしの職人たち
2014年11月17日

「腹を括るからこそ『仕事』になる」。[暮らしの職人たちVol.02 ワクワク感たっぷり“実験&挑戦大好き系大工” 嵡博文さん]


千葉県山武市に工務店を構える、大工の嵡(ところ)博文さん。地元で住宅のリフォームや修繕を手がける一方、商工会のイベントでは移動式の足湯、自宅には小屋バーやピザ釜など驚きの設えを生むアイデアマンだ。そんな嵡さんに、仕事や趣味のものづくりについて伺った。


楽しいことが大好き
何でもつくるアイデアマン

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嵡建築の代表嵡博文さん。生まれ育った千葉県山武市で大工になり20年、独立して10年のベテランだ。地元の人々からの依頼で忙しい毎日だが、お父上と工務店を始めた初期は繋がりもなく、見積もりから現場の段取りまで見よう見まねで学んだという。

「大工になって5年目の頃、地元の商工会に参加しました。そこで信頼関係ができたことが大きかったのか、少しずつ仕事も増えました。町おこし活動も頻繁で、移動式カウンターや足湯もそこから生まれたんです」

商工会きってのアイデアマン。メンバーからの理想や要望に対し、アッと驚くものを完成させてきた。

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奥さまの手づくり品を置くカフェスペースとして作った小屋バー。ベニヤと枠のプレハブは、趣味部屋など安価な空間がほしい人を想定。「DIYを一緒に楽んでもらって、そこから仕事にも繋がればいいかなと思って」

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「移動式カウンターは、商工会のイベントは白いテント、って印象を変えたくて作ったんです。組み立てたらその場にカウンターが表れて、ダウンライトが灯る雰囲気のいい空間がつくれたらいいよねって」

固定観念を打ち砕くものづくりで、自らの仕事の本質を伝えている。工事現場では難しいが、イベントならこうした楽しい物のほうが喜ばれる。

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バーカウンターは、木場の材木屋で仕入れたウォルナット。高い素材も使ってこそよさがわかる。「やらされる仕事だけじゃつまらないでしょ。自分でつくるなら規制もないしね。うちにあるピザ釜もその一つ。窯の中で火がメラメラ燃えて、煙が出て、ピザのいい匂いがする。想像しただけで楽しそうじゃないですか」

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耐火煉瓦を使ったピザ釜は、機能性よりも見た目を重視。一緒にピザ生地を練ったり、トッピングしたり…というイベントでのコミュニケーションをつくるハブとして役立っている。

大工に必要なものは
想像力と責任感

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現在、事務所には見習いの山根晋さん(左)がいる。異業種転身組のため、大工には当然の心得や段取りが通じない。だが、そこから学ぶことが多いと嵡さんは言う。

「親父や他の親方から怒られてきたけど、その意味が初めてわかってきました。怒りながら気がついたりして」

一度学んだ技術が忘れた頃に必要になることも多く、臨機応変な対応が求められる。工程全体を把握し、先を見通す想像力も不可欠だ。

「自分がどうしたいか見えないと何も仕上げられないんです。椅子でさえこの面は先に加工しなきゃ、ここは先に組まないとはまらないなって所がありますから。僕もよく言われました、『よく考えてやってるのか?』と」

材質の厚みなど微妙な誤差も現場では重要な要素。その「収まり」がない設計図が現場を混乱させた案件もたくさん見てきたという。それでも自らの木造建築の知識や経験を元に、鉄骨やRCなどどんな工法の建築も吸収して要望通りに仕上げてきた。

「その仕事に自分が金を払えるかどうか考えるんだぞ、とよく言うんです。僕らは日々現場でお客さんと接しますから、その顔をつねに思い出すんですよ。売るだけの人とは少し違う。お客さんから直接大金を預かって家を建て、何十年と住まれる光景を見るわけですから」

またリフォームに関しても最小限の形に留めたいと語る。お客さんに誠実なものづくりをしたいからだ。

「責任がない仕事は仕事ではないと思います。僕はお客さんと仕事、嫁さんや子どもに対する責任がある。腹を括っているからこそ『仕事』になるんだと思います」

何百万もの大金を、一介の大工に信頼して預けてくれることの重大さを認識し、お客さんの勇気に感謝しなくてはと力を込める。

「相応の仕事で応えるのは当然です。まして現場にいるのだから、できたものに責任が取れなきゃ。逆に言えば、お客さんはそれができると考えて自分を選んでくれたのだから、こんな幸せはないと思うんですよね」

遊び心と実験精神が潜む
普通で異端の大工

要望があれば、本棚や食器棚、おまかせ家具となんでもござれの嵡さん。中でも特筆すべきは家具のリメイクだ。

「以前、嫁入り道具のタンス3組を別の用途に使いたいという依頼で直したことがあるんです。愛着があっても家具は場所を取ります。もしそれで悩んでいる方がいらしたら、サイズ直しをするのがいいですよ」

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自宅にある嵡さんの工房。天井は細い木材を三角形に組んだ「トラス構造」の実験。一定以上の広さでも柱を建てずに空間をつくることができる。

今後も、自宅の工房でさまざまな実験をしたいと語る。お客さんの幅広い要望を形にするには、経験と知識が必要だ。基礎があればデザインやアレンジは後からついてくる。有野実苑オートキャンプ場の家族風呂も、そんな遊び心と実験精神が凝縮した作品の一つだ。

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オートキャンプ場の目玉である家族風呂「楽」(手前)と「和」。

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「和」を庭から見た様子。

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有野実苑オートキャンプ場の家族風呂「和」は、扇形の空間がポイント。放射状に竹が張られた天井部分や石造りの浴槽が凝っている。家族が自然と向かい合える空間に紅葉が風流さを加える。

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家族風呂「楽」。富士山の絵が飾られた浴室や百合型の電灯、実際に使用されていたお釜を埋め込んだ洗面台、文字入りの鏡など昭和のレトロ感が満載。切り込みが入った蛇口、お腹が膨らんだ蛇口など芸が細かい。

「仕事でも、お客さんや自分が納得する楽しいものを作れたらと思います。メーカー下請けではこのスタンスは無理だからお客さんは自分で捕まえないといけませんが、マイペースで仕事ができたら楽しいでしょうね」

北海道まで映画のオープンセットづくりに赴いたり、素人の見習いを受け入れたり。すべては自分にはない感覚を積極的に取り入れ、自らの仕事にフィードバックするため。これからの大工はさまざまな人を巻き込み、幅広い好みを知らなくては商売として成立しないと語る。

「職人としては普通だと思いますが、アピールの方法は地元の同業の中では異端かもしれません。でも、若い人が何を求めているのか探っているだけなんですよ」

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嵡さん手づくりの帆布ポーチ。「ポケットをつけるなら先に縫わないと裏地もつけられないっていう手順や収まりの感覚は普段の訓練ですよね」。刺繍入りの肩掛けバッグはカタログも入るA4サイズ。材料の加工もイメージが浮かんでいてこそ。

text: 木村早苗 photo:伊原正浩


扇さんの愛用品

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お父上から譲り受けたカンナとノミ。カンナは30年選手だという。


プロフィール

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嵡博文
嵡建築代表。高校卒業後父上と共に工務店を設立。10年間の修行の後、生まれ育った千葉県山武市に嵡建築を開業する。地元を中心にリフォームほか住宅の建築や修繕、家具制作などを受注している。

ところ建築
www.tokoro-kc.com


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