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暮らしの職人たち
2015年 2月25日

「住まいに本物の光と影の力を」光を装飾品に変えるプロ

[暮らしの職人たち] Vol.04 繊細な光を操るステンドグラス職人 宇留賀正輝さん


自然あふれる多摩に工房を構える、ステンドグラス職人の宇留賀正輝(うるがまさき)さん。ステンドグラスといえば一般的に鮮やかな色が思い浮かぶが、それらとは一線を画す、日本家屋にもなじむ繊細なデザインが特徴だ。そんな宇留賀さんに、ものづくりに対するモットーや想いを伺った。


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アンティークガラスの美しさにノックアウト

宇留賀さんがステンドグラスの存在を意識したのは、幼い頃。クリスチャンの母親から、体調を崩しクリスマスを教会で迎えられない老夫婦の話を聞き、セロファンのステンドグラス風マリア像をつくってプレゼントした。おふたりは、クリスマスが終わってもずっとそれを大切に部屋に飾ってくれていたそうだ。驚きと嬉しさを感じ、作品づくりの楽しさのみならず、与えられた場所で息づく素晴らしさを知ったのである。

学生時代は福生の沖縄ガラス工芸品店でアルバイト。オーナーの実家がある沖縄にガラスを吹かせてもらいに行くなど、身近にはいつもガラスがあった。

本格的にステンドグラスの道に進むことになった決め手は、ドイツのアンティークガラスとの出会いだった。

「あまりの美しさに一瞬でノックアウトされてしまったんです。このガラスの魅力を伝えられる作品をつくりたい、と強く思いました」

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ドイツの旧フィッシャーガラス工房が製造した板ガラス。現在ではプレミア物だ。

わびさびを落とし込んだステンドグラス

ステンドグラスを仕事にして約30年。「喜んでもらってこそ仕事は完結する」をモットーに、光と影の力が感じられる作品づくりを続ける。ステンドグラスと一口に言っても、宗教芸術である西欧と住宅の装飾である日本では、光の扱いや接し方が大きく違う。特に日本では、生活空間に置かれることが普通だ。 光の扱いや接し方が大きく違う。また、近くで見るため鉛線の処理など細部にも気を配る必要がある。そのため住宅に合うデザイン、設置方法、光や色を研究し、独自の表現を生み出してきた。

「手仕事には徹底的にこだわり、でもデザイン的には主張しすぎない。言い換えれば、わびさびを大切にしています。ガラスは透過光の素材なので塩梅が難しい。普段は環境に溶け込み、季節の境目などに『ハッ』とする表情を見せる…程度がちょうどいいのです」

目指すべくは、さりげなく特別なステンドグラスがある家だ。

作品は一緒につくるもの

依頼者には必ず会って趣味嗜好など聞き、それらを同体験してからデザインを描く。宇留賀さんにとって作品は、依頼者と一緒につくるもの。だからこそ、全工程を自ら手がけるのが普通だ。作風と乖離のある依頼や適切な設置場所を確保できない場合は辞退もする。

「ただ、そんな場合でもステンドグラスについての助言はさせていただいています。自分が関われないのは残念ですが、ステンドグラスを買ってよかったと思ってもらうことが僕のゴール。わかりにくい分野だけに、成功するノウハウを養ってもらうことはプロとしての責任でもあります」

ネットなどでは、大量生産品や偽物に「手作り」、「本物」という言葉を使う業者も多い。選ぶほうは価値の基準がわからないため、戸惑ってしまうことだろう。そんな時代だからこそ、当たり前のことを誠実に伝える。その大事さを改めて感じている。

植物を繊細で有機的な線で描く

得意なモチーフは植物。多摩湖の畔にアトリエを構えたのも、普段から自然に触れていたいからだ。デザインする際も、形の持つ必然性がわかればより深い表現にできるのではないか、と考えている。

「ガラスが際立つよう、なるべく少なく細い線で繊細な図柄にすることを意識しています。そのためにも、ガラスを切る精度は0.2ミリ以内には収めます」

ステンドグラスで黒く見える線(鉛線)は、6ミリ幅が一般的。だが、宇留賀さんはその半分の3ミリ幅を多く使う。精度はシビアになり作業は難しくなるが、理想の表現のためにはハードルが上がることも辞さない。そしてもうひとつの特徴は、柔らかなアンティークガラスとクリアなカットガラスの組み合わせだ。

「カットガラスは、プリズム効果で季節や時間により思いがけない色が出る。投影される虹も幻想的です。手間はかかるけれど、私の作品の大切な表現のひとつです」

アンティークガラスは、一枚の中にさまざまな表情があり、どこを使うかで作品の印象が変わる。制作で時間をかけるのは、こうした素材選びやデザインなど、おもに準備段階だ。「実際の制作は技術さえ磨いていれば手が勝手にやってくれる」と笑う。

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吹きガラスの優しい表情とカットガラスのソリッド感を組み合わせたデザイン。

趣味でベース制作や吹きガラス、金工など細工物の制作も行う。数年に一度は、素材の実験も兼ねて制作した作品をまとめた個展も開いている。

「ひとつの素材だけだと答えが迷宮入りしがちです。いろいろな素材に触れると視野も広がるし、そこで得たひらめきを作品に還元できるから楽しいんですよ」

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自宅玄関に飾られた個展作品。繭など普段依頼されにくいモチーフも素材の実験も兼ねて制作した。マンションや賃貸に最適なステンドグラス

独特の雰囲気を持つステンドグラスは自宅に取り入れるのは難しい印象があるが、実際はどうなのだろう。

「実は、ステンドグラスは想像されているよりかなり自由度が高く、扱いやすい素材です。建築のプロとして目的に合った見せ方や施工方法を提案しますので、ご安心ください。もちろんご予算とサイズに合わせたアドバイスもできます。時間をかけて工房でつくる作品は、質や仕上がりはもちろん、物として所有する嬉しさも大きいと思いますよ」

扉一枚の大きなものからトイレの明かり取りのように小さなものまで、規模も形も自由。たとえば、ピクチャーレールに吊すパネルなら賃貸住宅でも気軽に扱える。しかも、本物のステンドグラスは数世紀と寿命が長いため、引っ越ししても新たな空間で、世代を超え楽しむことができる。また、マンションのリノベーション時にもお薦めだという宇留賀さん。夜、暗い玄関から望むリビングドアなど、光が集約されて雰囲気のある演出が可能だ。

「ガラスは光に表情を与えてくれる素材。何気ない空間でも特別なものにしてくれる点が魅力です。ご予約いただければ工房でのご説明や体験も可能ですから、ぜひ気軽に相談してほしいですね。小さくても本物がある充実感って、すごく幸せですよ」

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[左]銀箔を押した額縁に入った可動式のパネル。[右]作業ツールのほんの一部。

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カットガラスを通したプリズムの光が落ちる。

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実演中の宇留賀さん。型紙の上に一枚の板ガラスを置き、順番を決めてサクサクとカットする。ラインもカットも迷いなし、スピードに乗って行われる様子は圧巻だ。「香ばしくおいしそうな音が出ていれば、美しいカットができている証拠」とのこと。

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工房では自分でガラスのカットを行い、小品を製作することができる。宇留賀さんの作業を見るだけでも価値があるはず。ガラスの魅力を感じられるので、ぜひ体験してみてほしい(要予約)。

text: 木村早苗 photo:伊原正浩


宇留賀さんの愛用品

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ガラスや鉛を扱うツールあれこれ。手前から、六回新しい歯に変えられる六角形カッター、鉛切りナイフ、への字型のつまみ部分で挟んで折り割る『への字』ガラスペンチ、片面が平ら・片面がガラス面になったガラス用ペンチ。右は鉛線。宇留賀さんが使うのは右の3ミリ幅。通常の半分程度であることがわかる。


プロフィール

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宇留賀正輝
ステンドグラス職人/インテリアデザイナー/窓装飾アドバイザー。Glass Studio URUGA代表。和光大学芸術学科卒業後、個人工房でステンドグラスの制作を学ぶ。1985年大手ステンドグラスメーカーに就職し1991年に独立。現在は数少ない建築専門のステンドグラス職人として活躍する傍ら、個展なども開催している。

グラススタジオウルガ

http://www.urugamasaki-artworks.com/


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