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記事作成・更新日: 2014年 2月15日

結婚式を手づくりすることで、暮らしや消費について再発見していく。「H.O.W」柿原優紀さんに聞く、新しい結婚式のかたち [DIYウェディング見本帖]

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撮影:安彦幸枝

ゲストが祝福の花を1本ずつ持って会場に向かう結婚式。白い砂浜のビーチに流れ着いた流木や石を集めて飾ったバージンロードを歩く結婚式。キャンプを楽しみながらの結婚式……。

こんなユニークな結婚式のHOW TOを紹介するのは「アウトドアで結婚式をしよう!」をテーマに新しい結婚式の形を提案している「H.O.W(Happy Outdoor Wedding)」。

以前にも何度かgreenz.jpで紹介してきましたが、今回、友人の手づくり結婚式に何度か参加したことがあるgreenz.jpライターの飛田恵美子さんが再注目。「H.O.W」と共同で、手づくりで素敵な結婚式を挙げるコツを紹介する「DIYウェディング見本帖」という連載記事を始めることにしました。

今回は第1弾として、「H.O.W」代表の柿原優紀さんと、飛田恵美子さんが対談。H.O.Wの概要と、前回の取材時からさらに進化したH.O.Wの活動内容について柿原さんにお話を伺うとともに、この連載企画で実現したいことなどを話し合いました。

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greenz.jpライターの飛田恵美子さん(右)、「H.O.W」代表の柿原優紀さん(左)

結婚式の選択肢を増やしたい

飛田さん H.O.WはアウトドアでのDIYウェディングを普及し、サポートするプロジェクトですよね。最初はどんなきっかけで始まったんですか?

柿原さん H.O.Wが生まれたきっかけは、国内の結婚式における選択肢が意外と少ないことに疑問を感じたことなんです。結婚式の話題が多くなる年齢を迎えて、友人(後の立ち上げパートナー)と自分が選びたい結婚式のカタチをあれこれと話していたのですが、調べてみたら意外と選択肢が少なくて。

ホテルを会場とした高価な結婚式か、レストランでの少しカジュアルな結婚式、そして、増えてきているのが「結婚式はしない」という選択肢。この3択が中心。レストランでの結婚式から、「結婚式はしない」という選択肢の間があまりないんです。そして、前の2つは、サービスが確立されていて、自分のイメージしている結婚式に近づけるためのアレンジが自由にできないことも多い。

「みんなが私と同じように思っているはず」とは思っていないけれど、もう少し“そもそも”なところから考えてみたいなと思いました。

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飛田 今回、私が連載記事でH.O.Wさんと連載企画をやりたいと思ったのもそこなんです。私が初めて参加した結婚式はみんなで作り上げたタイプの結婚式だったのですが、とっても自由な雰囲気で実現していました。一方で、その後参加した、いわゆる通常の結婚式ではなんとなく結婚式を挙げた人と距離を感じてしまって…。今、結婚式をしない割合は51%。でも、もっと選択肢が増えれば、結婚式を挙げる人も増えるかもしれないと思ったんです。

柿原 そうですね。自由に自分たちの希望に合わせて結婚式を挙げたい人と、ホテルやレストランなどの式場で結婚式を挙げたい人の求めるものには、大きなギャップがあると思います。H.O.Wを立ち上げる際も、「結婚式をしない」という選択をした人の中で「したかったけどできなかった」という人もいるはずだなと考えました。

たとえば、実現したい結婚式のカタチがあるけど、既存のサービスでは見つけられない。既存のサービスをベースに実現しようと思ったら大きなオプション料金がかかってしまう、とか。でも、もっと自由な方法があるはず。そう思って、アウトドアウェディングなど、自由なスタイルの結婚式を行った人を捜したら、案の定いらっしゃったんです。

クリエイターの結婚式が多かったのですが、友達に手伝ってもらって、人生の大きな節目となるイベントを行うためにアイデアを出し、そのアイデアを、いろんな方法で実現されていました。そういう人たちにアイデアのシェアをお願いすると、「もちろん!」と快く教えてくれました。また、「これをやればよかった」など、結婚式後に出て来たアイデアも教えていただくことができました。それで、教えてもらった情報を発信したいと思ってブログを立ち上げて、記事として公開していたんです。

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飛田 反応はどうでしたか?

柿原 想像以上に「こういうアイデアを待っていた」という反響が多くて驚きました。自分の周りに、こういう発想を理解してくれる人が多くてブログ運営を応援してくれたのでやりやすかったのもあります。

飛田 では、最初は情報発信をするメディアだったのですね。なぜ結婚式をサポートし始めたのですか?

柿原 私たちとしては、「ブログでアイデアを見たら、その後は自分たちで結婚式を実現してもらえればいいかな」と思っていたんです。でも、想定外に「結婚式づくりを手伝ってほしい」という声多かったんです。

そして、同時に、「ブライダルの仕事をしていた(している)けれど、もっと自由な結婚式づくりにも参加したい」という、プランナーさんやカメラマンさんなど、いわばブライダル業界の経験者の方々からの声も多かった。だから、集めてきたHOW TOを活用する形で、新郎新婦やゲストをはじめとするみんなで結婚式を作るHappy Outdoor Weddingプロジェクトが動き出したのです。

「地域活性化×結婚式」という新たな試み

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奥多摩のキャンプ場で行われた結婚式の様子 撮影:安彦幸枝

柿原 始めてみたら、またおもしろいことが起こったんです。DIYでの結婚式の場合、一般的な結婚式場と違ってやりたいことに合わせた会場を探す必要があります。しかし、都会だと広いスペースのレンタルは高額だったり、使用ルールが厳しかったりと、わりとスペース探しに苦労します。

飛田 大きな音が出しにくかったり、占有できなかったりといろんな制約がありそうですね。

柿原 そうなんです。でも、それは人口が密集する場所では当然のこと。そのため、しばらくの間、場所探しに苦労していたのですが、「H.O.Wでやるような結婚式なら、自分たちの“地域活性”の取り組みの一環としてやりたい」と言ってくれる地域の方からのリクエストもいただくようになりました。奥多摩や松戸、金谷など、「美しい景観やおいしい食材、若者を受け入れる気持ちのある人たちがいる」と言ってくださる方が現れました。

飛田 すてきなコラボレーションですね! 場所に関してはみんなでつくる結婚式ならではのコツがありそうです。今度の連載企画でも「場所」をテーマにした回を設けたいですね。ところで、アウトドアウェディングの場合、雨が降ったらどうなるのですか?

柿原 アウトドアウェディングをしたいというお客さんにも「雨が降ったらどうするんですか?」と聞かれるんですが、逆に「どうしたいですか?」と聞いています(笑)。 みんなでつくるウェディングですから、いろいろなアイデアを出せば良いんです。連載企画で「天候」をテーマにコツを紹介するのもいいですね。

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DIYウェディングでわかる「もの」と「お金」の関係

柿原 私達の世代って、良くも悪くも、すべてのものが商品として成立している世界に生きているんですよね。何かをしたいときには「買う」。どこかからあるものを選んで買う、借りる。「自分たちで作る」という選択肢をとることは、あまり迫られてこなかった。

結婚式をするか、しないかの選択も、プランを買うか、買わないかと同じような感覚で行っていると思うんです。でも本来、結婚式は文化。お金がある人だけが買う「商品」ではないはずなんです。

飛田 買ってもいいけれど、買わないで行う方法もあって良いということですよね。

柿原 そうです。もちろん、私達は「商品」として結婚式を買うことを否定しているわけではないんです。だって、DIYで結婚式を作ろうとするといろんな障害があります。できるだけ準備の負担を軽減して、さらに当日は万全の体制で開催できるというのは、やっぱり既存のブライダル業界のプロフェッショナルに依頼する方法です。

「体の不自由な高齢者にも安全な形で開催したい。遠方からのゲストも来るからどんな天気でも絶対に予定どおり開催したい。お城みたいに華やかな空間がいい」。そういう希望を完璧にかなえたい場合は、自分たちで作る自由な結婚式ではなかなか難しいですから。

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キャンプファイヤーなどのアクティビティは、地元のネイチャーガイドの案内のもと開催 奥多摩ネイチャーガイド:土屋一昭 写真:安彦幸枝

飛田 絶対にミスが許されないからこそ、ブライダル業界で行う結婚式では費用がかかってくるんですもんね。

柿原 でも、多少カジュアルでも自分たちなりのお金の使い方をしたい人もいるはず。最初から予算やルールに縛られるのではなく、自分たちなりのちょっとしたアイデアや工夫を盛り込みながら自分たちの手で行う方法があっていい。

飛田 自分でやるという選択肢をとると、楽しい反面、実はけっこう大変ですよね。周りにお願いしなくちゃいけないこともあるし、自分で手を動かさなくてはならない部分も多い。結婚式場が、そういう気遣いをしなくても良い場所だという認識になると、意識が変わるかもしれないですね。

柿原 そうですね。お客様からよく、「なぜお花ってあんなに高いんでしょう?」と聞かれることがあります。確かに花を「物」としてしか見ていないと、高いと感じるかもしれません。でもお花を会場に飾るためには、花を育てる人がいて、市場を通り、運ぶ人やそれを傷まないようにキープする人、アレンジする人が必要です。だから、お金がかかってきます。しかし、そうやって手をかけられてきたものがあるかと思えば、環境への影響などに構わなければ大量生産の原理によって驚くほど安く手に入れられるものもある。

結局、何を選ぶか、何にお金をいくら払うか、何はDIYするか、はそれぞれの価値観が決めるところ。結婚式を自分でつくってみれば、いろんなものに手がかかることがわかります。結婚式を計画することによって、夫婦で一緒に「自分たちらしいお金の使い方」というものを考える機会になるかもしれません。

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お花は、地元の畑から許可をいただいて、H.O.Wスタッフやゲストが摘みます。写真:望月小夜加

飛田 せっかくお金を出すのなら、応援したい友人のデザイナーさんに依頼して作ってもらって……となるかもしれませんね。今回の連載企画でも「お金」をテーマにさまざまなコツを紹介する1つ記事を書くのはどうでしょうか?

柿原 いいですね!

「気持ちの良い生き方」を考えるきっかけに

柿原 「アウトドアウェディング」と聞くと、野外ライブみたいなパーティを想像する人も多いのですが、全員が大規模なものをやる必要はないと思うんです。それぞれが自分の気持ちの良いものを選ぶ方がいい。結婚式を手づくりで行うことは、自分たちにとって何が大切か、何が気持ちいいかをじっくり考える良い機会になるし。

「何が自分たちにとって気持ちが良いか」を考えることは、何も結婚式に限って必要なことではなく、結婚する2人がライフスタイルをつくっていくこと。結婚式は、そのきっかけになるんじゃないかなと思います。

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料理は、地域ごとの食材を生かして、フードデザイナーが担当 料理:モコメシ 写真:安彦幸枝

飛田 「お店に行って、そこにある物を選んで買う」ということだけではない生活の提案があるということですね。もしかしたら、結婚式だけじゃなく、お葬式も自分なりにしてもいいのかもしれませんね。結婚式が「自分たちなりの生活」のきっかけになったらすてきですね。

ウェディングで学ぶ「人との付き合い方」

飛田 みんなでつくるウェディングがさらに広がってきたときに、結婚する人全員が「お祝い事だから無償でやってくれるのが当然でしょ」という風潮になると、ちょっと苦しいかなと思うときもあります。頼まれすぎて疲れ、お互いがぎくしゃくしてしまったら嫌だなと思います。そこをどういう風に配慮していけば良いと、柿原さんはお考えですか?

柿原 いろんなカップルさんとご一緒してきましたが、お友達になにかをお願いすることがとても苦手な方が多いですね。私も含めてなんですが(笑)。私達はもはや隣の人にお醤油を貸し借りするような日常生活を送っていないから、人の物を借りたり、人に何かをしてもらったりすることに遠慮があります。みんな忙しいから、「周りの人に迷惑をかけないように」と遠慮しがちですよね。

その半面、お願いされると「よっぽどのことなんだろう」と思ってしまって、実は自信がなくても断れなくなってしまうこともあるようです。いろいろと考えすぎちゃうんですね。でも、もっとお願いし合うことを自然に行って良いんじゃないでしょうか。ただ、相手の特性を見極めた上でお願いをするのが必要ですね。

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結婚式の準備の様子 写真提供:H.O.W

飛田 お願いの方法にも、いろいろとコツがありそうですね。今回の連載企画の中にも「友人への依頼」をテーマに1つ記事を書きたいです。

飛田 「DIYウェディング」を行おうとすると、人間関係、お金についての考え方、気持ち良い生活など、様々なことがわかってくるものですね。次回以降は今までにH.O.Wでサポートした結婚式のさまざまな事例を「会場」「天候」「お金」「友人への依頼」などのテーマ別にお伺いしてコツを紹介し、今まで「結婚式は高いからやめようかな」とか「自分なりの結婚式がやりたいな」と思っていた人に新しい結婚式のカタチを提案するようなシリーズにしていきたいです。

柿原 そうですね。H.O.Wの結婚式が目指すのは、必ずしも低価格というわけではなく、お金の使い方を考えながら、結婚式を自分たちの手でつくるということ。そのための事例を参考にしていただけるといいですね。

飛田 はい! どうぞよろしくお願いいたします。

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