「好きに暮らすってどういうこと?」。建築家は家の設計を通して、この問いかけの解を住み手と一緒に探します。
そんな建築家自身の住まいにおける「好きな暮らし」を覗いてみましょう。
建築家自らが「好きに暮らそう」を体現した「自邸のお気に入り」を紹介する本企画「建築家の棲み家」。第9回は石川利治さんです。
今回のコラムを担当する、3*D空間創考舎の石川利治と申します。
小学校の4年生から、かれこれ40年近く、父が建てた世田谷区内の一軒家に住んでいます。当時サラリーマンだった父は、建築の専門知識は無かったのですがものづくりが好きで、帰宅後に方眼紙に向かい、三角定規で間取り図を描いていました。そんな姿を見て、(家を作るには、まず図面を描く事から始まるのか・・・) と興味を持ち、設計図の魅力に惹き付けられた記憶があります。おそらくこの時の体験が、設計の仕事に従事している事と少なからず関係しているような気がします。その父はリタイヤ後に長野へ移住し、現在は我々夫婦が受け継いで質素に暮らしています。
私道の突き当たりにある敷地は南東の角で接道し、入口に向かって左手の南側隣地との隙間に、ネコの額ほどのささやかな庭があります。家を建てた当初、新居祝いとして、叔父に数本の植木をもらったのがはじまりです。その後、両親が少しずつ低木や草木を増やしていき、季節毎の花を選び、実をつける姿を眺め,少しずつ手を加えながら現在の庭の姿になりました。
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入口付近のユキヤナギ
両親以外にも、園芸が趣味だった祖父がふらりと現れては、見事な鉢植えを置いていったり、知らないうちに庭木を勝手に植えている事もあったり、庭を中心に、皆が楽しみを見いだしていたように思います。
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祖父が植えた梅の木 当初は苗だった木も現在は5m近くまで延びた
そのようなさまざまな思入れがある庭を、今は引き継いでしまったのですが、正直なところ、日々の忙しさにかまけて、なかなか手入れはできていません。しばらく手をつけずにいると、まったく見た事も無いような雑草がどこからともなく生えてきて、あっという間に雑然とした庭になってしまいます。
家の裏手には神社があり、近隣には農家も点在していることから野鳥も多く、草木の種を運んでくれる事も関係しているのでしょう。あるいは野良猫がからだに付けて種を運んでくるのかもしれません。そんな偶然の出会いも、なんとなくいとおしく、すぐに抜いてしまうのではなく、どんな姿になるのかと少し様子を見たりしています。
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どこからともなく生えて来た草木
一昨年前に隣家の建替えがあり、庭をとりまく光、風などの様子が少し変わりました。草木は非常に敏感なもので、強者、弱者の立場が入れ替わり、植生の変化が起きているのでしょう。
今となっては、そういった予測不能な出来事も、庭が生きている証と捉え、より自然な状態をゆるやかに楽しむようにしています。なるべく農薬も撒かずに昆虫の好きなように葉を食べさせ、庭との共存を考えたりします。
暖かくなる春先から、木々は芽吹き花をつけ、目に見えて成長していきます。穏やかな日差しの中での土いじりができるこの季節は、何ものにも変えられない至福の時である事を改めて感じます。
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富山でもらった球根から、毎年花をつけるチューリップ
Text&photo 石川利治
プロフィール
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石川利治
主な作品
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Vol.10は、設計事務所アーキプレイス 石井正博さんです。