「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。
「妄想から打ち上げまで」というスローガンで、設計から工事まですべてのプロセスに施主を巻き込んで、自分たちの手で家づくりをする建築家集団「HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)」。
会社組織ではなく、それぞれに事務所をもつフリーランスの建築屋ですが、2011年の結成以来、プロジェクトごとに集まって、これまでに70件ほどのリノベーションを手掛けてきました。
彼らと一緒に家づくりを経験すると、「一生ハンディします!」と言って、工具を買い揃える施主も多いのだとか。
これまで、どうして家づくりは“お任せ”だったんだろう?
現在は数ヶ月先まで予約で埋まっているという「HandiHouse project」のみなさんに、家づくりのこれからを聞きました。
住み手も一緒に家をつくる、セルフリノベーション
物件ごとに担当がつき、施主との打ち合わせから、見積もり、設計、現場管理も一人が担当する「HandiHouse project」。
場合によってサポートが入って2〜3人のチームになることもあるという彼らが手掛ける物件は、どの現場でも施主が自ら手を動かし、家づくりに関わるのが大きな特徴です。壁の塗装や床貼りはもちろん、中には解体や収納部分の施工まで手掛ける施主もいるそう。
施主が担当する箇所は、最初はやり方を伝えながら伴走するものの、「HandiHouse project」メンバーは手を出しません。その分の工事費を見積もりから差し引くことで、結果的に、施主は本気で家づくりに取り組むことになると加藤さんは言います。
加藤さん DIYでもないし、ワークショップでもない。施主さんと僕らで、ガチンコで家をつくっています。
施主さんが自分でやると決めた箇所は、下請けの業者さんに入ってもらうのと同じ感覚で、僕らも手を動かさない。やらないと家が完成しないから、施主さんも必死で現場に足を運んでくれます。
現場にいる時間が長いほど、自然と僕らと会話をする時間も長くなるし、つくるところも見てもらえる。最終的に、自分がつくった箇所はもちろん、僕らがつくった箇所に関しても愛着を持ってもらえるんです。
例えばワークショップのように1〜2時間ほど体系的にやってみることと、本気で家づくりに向き合い、手を動かすことは、絶対的な違いがあります。中田さんは、予算に応じて、施主が8割くらい作業した物件もあると言います。
中田さん 先が見えないくらい道のりは長いけど大丈夫ですか? と聞いたら、「やります」って。自分たちで調べて、聞いて。とにかく必死。
逆に、プロに任せすぎるから、ああじゃない、こうじゃないという気持ちになって、クレームにつながったりする。手を動かすから、本当の“自分ごと”になると思うんです。
また、福岡・北九州市で始まったリノベーションスクールの「セルフリノベーションコース」では、「HandiHouse project」メンバーがユニットマスターと呼ばれる講師兼ファシリテーター役を担当。
2015年2月には、小倉駅から徒歩10分ほどのエリアにある2階建ての長屋を、家主はもちろん、参加者と一緒にセルフリノベーション。玄関が狭く、冬は寒いという対象物件を、4日間かけてリノベーションしました。
加藤さん 他に、冬は寒くて夏は暑いという環境をDIYでどうやって改修するかということで、天井や壁、床を剥がして、製糸工場から出た毛糸くずや使わなくなったダウンジャケット、セーターを断熱材として入れていきました。
断熱はプロの仕事と思われがちですが、職人だってホームセンターで材料を調達したりします。難易度は高いかもしれませんが、DIYでできるんです。
リノベーションスクールの「セルフリノベーションコース」では、これまで福岡県北九州市、東京都豊島区、静岡県熱海市でユニットマスターを担当。「HandiHouse project」は、施主との家づくりだけでなく、実際に手を動かしてリアルなリノベーションを体験できる場でも活躍しています。
きっかけは、家づくりに関する“違和感”
全員が図面をひける建築家でもあり、水道や電気といった専門的な設備工事以外はすべてやってしまう大工でもある「HandiHouse project」。それぞれに活動していた5人が“家づくりのすべてを施主と一緒に行う”ことになったきっかけは、従来の家づくりへの違和感だと坂田さんは話します。
坂田さん もとは現場監督だったり、設計をやっていたりと、みんなそれぞれバックグラウンドは異なるんですが、よくよく話して見ると既存の“家づくり”に疑問を感じていたことが共通点なんです。
大きなクレームが生まれないよう、職人は設計図どおりの仕事しかしない。施主さんは、出来上がりを待つだけ。これで本当にみんな幸せなのかなって。
荒木さんは、家づくりではなく“商品づくり”をしていたと、当時を振り返ります。
荒木さん その当時の仕事は、家をつくるというよりも、商品をつくって買ってもらっているような感じでしたね。だから何かあるとすぐに問題になったりする。
「HandiHouse project」の発足は、とあるパーティーで知り合った中田さんと坂田さんが意気投合したことから。そこに中田さんの大学時代の同級生である加藤さんと、元同僚の荒木さんが加わって、最初は4人で“なんとなく”始めたと加藤さんは言います。
加藤さん 僕は設計をしていたけど、図面を引いているだけの仕事にやっぱり疑問があって。ひとつの家をつくる過程が、分業されすぎている。もっと自分で手を動かしたい。
最初は、これをやろうと何か意思を持って集まったわけではないけど、入って来る仕事を一緒にやり始めたんです。メンバーは設計士や現場監督で、誰ひとり大工の経験がなかった。最初は時間もかかるし精度もそれなりだった、工具も徐々に揃えて、やりながら大工仕事を覚えました。
お金を払う施主が一番上にいて、その代理人として設計士がいて、工務店が仕事を請けて、下請けの専門業者がいて、さらにその下に実際に現場に出る職人がいるという“縦の関係”でつくられているのが、これまでの家づくりのありかたです。
加藤さん 縦の関係だと誰も本音を言わないし、お金のことで揉めたりするんです。施主さんは設計士や工務店に任せちゃうし、設計士は図面を描いたら工務店に任せちゃう。
だから工務店ばかりがつくる責任を追わされてしまう。そうすると、責任をとりたくないから、あまり考えずに設計どおりのものしかつくらない。ぜんぜんクリエイティブじゃないんですよね、本当は家づくりの現場ってものすごくクリエイティブなはずなのに。
発注側である設計の人と、受注側である現場の人。この両者の関係を、“縦の関係”ではなく“横の関係”にしたい。
そして、自分たちがものづくりの現場を楽しみたいのと同じように、施主も一緒につくれる現場にしたいと、これまでの家づくりにある様々な垣根を取り払った家づくりを目指すように。設計から工事まですべてのプロセスに施主を巻き込むというスタイルに決め、仕事が乗り始めた頃に、山崎さんが合流します。
山崎さん 僕も、図面ありきの家づくりに疑問を感じていて、一緒にやりたいですとメールを送りました。図面ができたらハンコを押して、次の工務店に渡して、そのとおりにできたらまたハンコを押す。ものづくりの現場ってもっと面白いはずなんです。
僕らは、もちろんあらかじめ設計はしますが、何ミリという単位でガチガチに決まっているということではなく、施主さんと会話を重ねながら、現場で決めていったりもする。それが自然だと思うんです。
家づくりの未来は、自分の手でつくることにある。
加藤さんは、2014年3月にアジアの南端・東ティモールで現地の人とともにカフェをつくった経験を経て、自分はどこでも生きていける、と思ったのだとか。
加藤さん リュックに工具を詰めて現地へ行って、2週間くらいで現地の大工さんたちと一緒にカフェをつくりました。言葉はもちろん、お金の価値観も、何もかも異なる場所で、みんなでひとつの空間をつくってみて、どこでも生きていけるな、結構自由だなって感覚を持つことができた。
場所に縛られず、職業に縛られず、お金に縛られず、自由に生きていく。家づくりの現場を通して、収入を得ながらも、生き方のリテラシーが上がっちゃった。とんでもないことだなって。
設計だけをやっていた頃と今を比較すると、「生きる力」がすごく上がったと話す加藤さん。ものづくりを通して、自分を解放することができるようになると坂田さんは加えます。
坂田さん 家づくりじゃなくてもいいんですが、自分で何かをつくれるようになると、今まで知らないうちにはめられてきた“たが”のようなものを外すことができるようになる、つまり自分を社会から解放してあげることができるようになると思うんです。
脱経済、オフグリッド…。ものをつくるために必要な思考回路が、一般的な“解”ではない、本当に自分に必要な判断ができていくようになるんですよね。
これからやりたいことは?と聞いてみると、大人だけでなく、中学生や高校生の間で「DIY部」のような部活動が、サッカー部と同じように盛り上がる社会をつくりたいという答えが返ってきました。
例えば、デザイナーズ家具もいいけど、詠み人知らずの俳句のように、誰がつくったのか分からないけど気に入っているという家具がある。そうした自分の価値観をしっかり持って生きていくための “ものさし”は、ものづくりの経験から得られるのではないでしょうか。
中田さん 子どもって、興味があったら自然とやっているし、楽しいことに没頭できますよね。でも、小学校、中学校…と、教育課程の中で、いつの間にか忘れちゃうんだよね。受け身だからかな?楽しいことに、もっと没頭しないと。
“自分の家”ではなく、“自分がつくった家”。そこにある絶対的な違いは、自分の手を動かして「つくる」ことで得られる、愛着の強さや深さです。
そして、ほしい家のつくり方を学ぶことで、選択肢が増えるだけでなく、生きるリテラシーも上がっていくのです。
加藤さん 社会が成熟してくると、より人間力が試されるじゃないですか。自分が暮らす家に対しても、どう主体的に関わるか、どう責任をもってつくれるかって大事になってくるんじゃないかなと。
リテラシーが上がると、自由を手に入れることができる。今、どう自由を手に入れて、どう自分を解き放っていくかが、問われていると思うんです。
つくることを学ぶことは、未来を学ぶこと。
みなさんも手を動かして、「HandiHouse project」がつくる未来を、のぞいてみませんか?
自分には、家づくりは縁遠いかも、という人は、リノベーションスクールの「セルフリノベーションコース」への参加も検討してみてくださいね。