LiVESでは、デザインや空間構成といった建築物としての住宅の魅力を伝えるにとどまらず、「なぜ、その家をつくったのか?」「その家でどのような生活を送るのか?」など、そこに住む“人”や“経緯”に重点的にスポットがあてられている。施主のライフスタイルや家づくりのエピソードに柔らかな切り込みながらも深く迫った誌面構成は、LiVESをユニークな存在として特徴づけている。誌面の裏側に込められたメッセージ、そして建築家との家づくりの秘訣について、 LiVES編集長の坂本二郎氏に話を伺った。(聞き手:ハウスコ松原)
従来の住宅誌とは異なる切り口で始められたそうですが、LiVES創刊のきっかけを教えてください。
2001年の創刊当初は、建築家ブーム、デザイナーズ物件ブームの最中でした。その頃の住宅情報誌といえば、住宅のスタイルも、またターゲットとする年代も、情報を細かにカテゴライズすることなく一緒に掲載している媒体が多かったんです。そこで、LiVESでは、住宅誌の中でもさらにターゲットを絞り込むことにしました。物件は建築家とつくる都市型住宅やデザイン住宅に、そして読者は30代中心という風に。発行元の第一プログレスは今でこそ自休自足、カメラ日和などの雑誌も出版していますが、もともと広告代理店です。
雑誌の出版に踏み切った背景には、雑誌をつくることにより、特化した新しいクライアントと新たなマーケットを開拓しようとの発想もあったわけです。
リビング&ライフスタイルマガジンと称することへのこだわりは?
デザイン住宅というのは、“思想ありき”のものだと思っています。螺旋階段や白い壁、コンクリートのうちっ放し、単にそれらの条件を満たしていればデザイン住宅になる訳ではありません。
まず施主の思想があって、それがデザインに投影されて初めてデザイン住宅が生まれるものだと考えています。ですから、階段・壁というマテリアルではなく、そこにある施主のモノに対する姿勢やスタイルなど、スピリチュアルなものを僕たちは追いかけています。この方が面白いですしね。そのことに気づいたのも2、3号をつくった後のことですが、それ以降は、施主の持つ思想やその生活スタイルが伴った住宅を基準に追っています。
LiVESには、そのお家の施主が写りこんだカットが多く掲載されていますね。それも意図的に?
最初は無意識でしたが、今は確信犯的に撮影しています。一見、施主以外は気にも留めない見落としそう小さなモノやスポットにも寄って撮影します。そのようなところにこそ、施主の個性が表れていることが多いんです。建築家と家をつくる面白さは、施主の個性をどれだけ引き出せる住宅をつくるか、というところにあると思います。個性は建築物そのものにだけではなく、インテリアやその人の暮らしぶりも含んだ住まい全体に表れるものです。
僕もよくオープンハウスに行きますが、これからどのように住んでいくのか、むしろその後の方が楽しみな感じもしますし、住んだ人がその物件の持つ潜在能力をうまく引き出した時に初めて家として成功した、と言えるんじゃないかと思っています。オープンハウスは、まだやっと下地が出来上がった段階でしかありませんものね。
その家にどのような人が、どういうように暮らしているかがわかれば、第3物でも自分の家づくりの参考にできますね。
そうなんです。家づくりにはそもそも、平均的な基準というものが存在しません。例えば自分の収入でローンを組むとしたら6,000万円がいいのか4,0000万円がいいのか、どれくらいが自分の身の程なのか、把握できていない人が多い。また、どんな家を建てればいいのか、どういうデザインがいいのか、最初からはっきりと分かっている人も数少ないと思います。だから、他の人の建てた家を見て、自分の家づくりの目安にしてもらえればいいと思います。例えば、家の中のインテリアや小物を見て、自分と同じ趣味をしているなとか、似たような音楽が好きなんだとか、同じカテゴリーの人間なんだと気づく。
そして《この価値観を持つ人が家を建てるとこういう家になるのか、私もこういう家に住みたかった!》というように参考になればいいなと思います。人の暮らしを見て、自分の家づくりや生活をイメージする癖をつけるというか。そのために、リアリティを大切にしています。カッコいい家に住んでいるんだけど、それが豪邸のような高嶺の花ではなくて、ちょっと手を伸ばせば届きそうな等身大の住宅。そんな物件を選んでいます。読者の方も中心は30代。男女比も半々。学生とかOLとかもインテリアの参考に見ているようです。
LiVES読者の中には、建築家もいらっしゃいますか?
建築家と施主、両方が読者です。ただし、建築家と施主とは家づくりに対する価値観が異なります。LiVESは、その建築家と施主との異なる言語を翻訳する場、交差点でありたいと思います。時にはマニアックな人もますが、ほとんどの施主の家づくりの最初のモチベーションは《カッコいい》とか《素敵な》家に住みたい!というシンプルな気持ち。
最初から何がいいのか悪いのかを評価するのは難しいから、感覚的なところから入ってくる。この初期衝動がいかに建築に昇華されたかどうかで家づくりの善し悪しが決まってしまう。ですから、サンプルとして、そんな施主の想いはどのようなものだったかを、数多く建築家に向けて伝えたいと思います。家づくりの動機とか、その人の消費感覚、価値観を綿密に取材している理由も、実はそこにもあるんです。この部分はハウスコと似ていると思うんですよ。だって、ハウスコも建築家と施主とを結ぶサイトですものね(笑)。
以前に比べて、建築家に依頼して家をつくる人も増えていると思いますが、建築家との家 づくりの成功のポイントは?
まず第一点目は、家を建てたい人は自分のデザインの好みを研ぎ澄ませておくこと。それには何より、自分がいいなと思うサンプルをたくさん集めることです。自分が好きな空間、それはお店でも、家でも。その場所に入った時の感覚とか、天井の高さ、明るさ、色…。疑似体験をいっぱいして、何でもサンプルとしてストックしておくことです。そして第二点目に、建築家 ともっと話をして、お互いを知り、意思の疎通を図ること。
おそらく、遠慮したカッコいい関係で、お互いを知らないまま家づくりを終わる人がまだまだ多いんじゃないかな。建築家も、施主の好みを知りたい時は、何が好きですか?ではなくて、最初にお互いに大嫌いなものから聞いた方がいいのかもしれないですね。お互いを理解したときは、施主と建築家との化学反応が生まれて、面白い悪ノリが生まれてくるはずです。
表紙にも、住む人の暮らしぶりや個性を伝えるようなカットを掲載。狭小住宅、リノベーション住宅、和風住宅など、枠にとらわれない幅広いデザイン住宅を取り上げる。最新号となる2006年ではリビングルーム特集を組み、個性派インテリアを紹介。
面白い悪ノリって?
例えば、玄関にあがり框がなくて靴を脱がない家だったり、玄関を入ったら廊下がなくてすぐにトイレがあったり、キッチンの流しの下にランドリーがあったり。こんな家が実際に増えて来ている。つまり、《自分はこっちが好きだから、そこをもっと強調して欲しい。そこが満たされれば他はいらない》というような家づくり。
こんな型には当てはまらない、施主の個性を増幅させるような自由さが、建築家との家造りの醍醐味じゃないかと思うんです。デザイナーズ住宅も今では選択肢が増えて、フルスペックでお洒落なものを求めるならハウスメーカーで充分対応可能、という時代になってきました。これからは、時に過剰だったり、逆に質素だったり、既成概念のフレームからはみ出すようなものを追って行きたいと思います。そして施主も、せっかく建築家と面白い家を建てるなら、それをきっかけに暮らしをガラリと変えるぐらいの度胸や潔さがあるといいですね。その方がきっと楽しいですからね。
デザイン住宅はこれから、今にも増して個性的に、そして合理的になっていくのでしょうか?
どこまで行くのでしょうね(笑)。施主も変わってきていて、建築家の奇抜な提案にも順応するようになっていますから。この個性化・合理化が加速するのか、抑制するのか。どちらのベクトルに行くかは予想できませんが、楽しみなところです。
最後に。坂本さんご自身がおうちを建てるとしたら?
僕自身にはもうひとつの住宅のテーマがあります。それは「記憶とどう折り合いをつけるか」。あまりにも奇をてらったもの、今までの自分の記憶にないものをつくっても、数年経ったら記憶になじまずに、離れてしまうような気がします。新築であっても、足を踏み入れた時にどこか前からあったような気分になれる家に魅力を感じますね。もし家を建てるとしたなら、こんな時間が経っても飽きのこない家でしょうか。
LiVESとは?
LiVES 2015 AUG. & SEP. vol.82
出版社 第一プログレス 価格:¥1,010
2001年に創刊、都会にデザイン住宅を建て住もうと考える30代をターゲットとした住宅情報誌(隔月発行)。デザイン性を重視した自分らしい家づくりを行うための情報を提供する。デザイナーズ物件のレビューや、リノベーションを取り上げる企画も人気を集めている。
プロフィール
坂本二郎氏
リビング&ライフスタイルマガジン「LiVES」編集長。1965年9月15日生まれ。東京出身。広告代理店の制作ディレクターを経て、2001年創刊より、編集に携わる。自らの年代を中心とした等身大の住宅情報を発信すると共に、個人的趣味でリノベーションの記事も多く取り上げている。
※この記事はHOUSECOに掲載されたものを転載しています。