建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
住宅・建築メディアインタビュー
2015年10月23日

雑誌の役割は「夢」を見ていただくこと‐いつもリビングに置いて眺めていただける雑誌でありたい、と願っています。

Vol.04 「モダンリビング」編集長 下田結花さん

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1951年に創刊。専門誌、インテリア誌を含め多数の住宅・建築関連誌の中にあって、「モダンリビング」は“先駆け的な存在”と言っても過言ではないだろう。編集長の下田結花さんに、「モダンリビング」に変わることなく受け継がれているもの、一方で時代とともに移り変わってきたもの、さらに「モダンリビング」の考える「いい家」とは何かについて伺った。(聞き手:ハウスコ松原)

Q

55年の歴史の中で培われてきた「モダンリビング」のコンセプトを教えてください。

創刊した1951年は戦後6年、まだバラックも残っている状況下だったわけですから、雑誌の中で語られることと現実の世界は、今以上にかけ離れていたと思います。その当時、「モダンリビング」で語られたことは、「いつか、こういう家に住んでみたい」という「夢」だったでしょう。現実が厳しいからこそ、「夢」を語る役割を担っていたのだろうと思います。時代を経て社会が変わり、経済も成長して豊かになりましたが、それでも一般的に、家を手に入れるのは簡単なことではありません。時間もお金もかかりますし、ほとんどの方にとって家を建てるのは初めての経験です。そういう方たちに、できるだけ多くの家づくりの選択肢を提供することも雑誌の役割と考えています。

「家」はひとつの建築ですが、人によっては人生の目的であったり、自分のライフスタイルを実現するものであったり、家族を守るものであったりとさまざまです。建築というハードがいろいろなソフトを含んでいるんですね。住む場所を手に入れるためだけに家を建てるのではなく、まず自分の人生において「家」とは何かを考えることが大切だと思います。「モダンリビング」が目指しているのは、時代が移り変わった今も、家というものに体現される「夢」を見ていただくことなんです。

Q

3年前に「モダンリビング」の編集長になられたそうですが、下田編集長になってから「モダンリビング」はどう変わったのでしょうか?

「モダンリビング」に関わる以前、私は創刊から14年間 「ヴァンテーヌ」という女性誌を担当していました。ですから、建築についてはまったくの素人でした。書籍ももちろんですが、取材や撮影で多くの空間を経験し、また建築家の方から直接お話を伺って、建築について日々、勉強しているという状態です。でもそれだけに、初めて家を建てようと考える方々と近い視点で「モダンリビング」を見ることができました。

私が引き継いだ当時の「モダンリビング」は、かなり専門誌化していたと思います。読者に近い立場で雑誌を見たとき、読者の方が「ついて来られるだろうか?」「こういう家を建てたいと素直に思えるだろうか?」という疑問がありました。読者の方が「素敵、きれい」と思っていただける誌面、次の発売日まで何度も何度も眺めていただける内容とわかりやすさ”それを目標にリニューアルをしました。

具体的には、アートディレクターを立ててアートディレクションをしてもらい、企画だけでなくビジュアルとしても筋の通った1冊の雑誌をつくろうと考えました。

まず、企画に沿った具体的な物件が決まった段階で、もっとも効果的な写真を撮るにはどうしたらよいかを、アートディレクターと編集者が打ち合わせします。編集者は企画としての意図の表現を、アートディレクターはビジュアルとしての表現を考える”その2つの方向性があることが重要なんです。アートディレクターとこのような組み方をしているのは、日本の雑誌では少ないと思います。写真の撮り方はもちろん、小物の置き方、絵コンテに関してまでディスカッションします。上がってきた写真もアートディレクターと一緒にセレクトし、最終的なコンテに落とし込むところまで関わってもらっています。ですから、誌面のレイアウトが上がったときも、私たちがイメージしていたものとほとんどずれがありません。

Q

現在の「モダンリビング」の読者像を教えてください。

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読者の方の男女比は半々で、平均年齢は36.7歳。建築家と家を建てたいと考えている層は、30代が中心ということですね。30代半ばの生活というのは、子どもがいてもまだ小さく、生活も変わっていく「現在進行形」です。仕事も多忙で人間関係も広がっていく世代。家は「できあがったライフスタイル」を体現するものではなく、「変化するライフスタイル」に対応していけるものでなくてはいけないわけです。

「変化するライフスタイル」に対応する家とは、どんな家なのか”モダンリビングで取り上げている「シンプルでスタイリッシュな家」というのは、そのひとつの答えだと編集部では考えています。

皆さん、シンプルな家がいいんですっておっしゃいますよね。30代は忙しいでしょう? モダンでシンプルな家のいいところは、手がかからないこと、そして変えていけること。フレキシビリティがあるというのは、モダンな建築の素晴らしいところですね。

Q

インテリアに関しても、かなり多くのページをさいていらっしゃいますね。

リニューアル以前のモダンリビングは内容の90%が建築でしたが、家は外側だけででき上がるものではありません。内側つまりインテリアをどうするか、そこにもライフスタイルが反映されます。建築という「空間」と「インテリア」が一体化してひとつの家になるのです。そういう意味でインテリアというものを、とても大切に考えています。毎号、第二特集として、30ページ以上取り上げています。

空間を最大限に生かす方向で考えるのが、今の「モダンリビング」のインテリアの捉え方です。そこが、他のインテリア雑誌と決定的に違うところでしょう。「シンプルでラグジュアリー」というのは、簡単なようで難しいこと。企画の意図をきちんと反映させ、上質でリアリティのあるインテリアのページにするために、企画構成、家具や小物のセレクト、コーディネイト、撮影まで編集部のスタッフが担当しています。私もすべてのコーディネイトに関わっています。

マーケット的には、一方に建築そのものを見せる「建築誌」があり、その反対側にはインテリアや雑貨を見せる女性誌的な「インテリア誌」があるとすると、「モダンリビング」はその中間に位置したいと考えています。そういう意味で、今の「モダンリビング」をひと言で言うとしたら、「ビジュアル建築誌」ということになりますね。

これだけWEBが浸透してくると、情報量や速さはどうしてもWEBにはかないません。現に、読者の方達も建築や設備に関する多くの情報をインターネットから得ています。では、紙媒体の魅力は何か? それは、やはり「夢を見ていただく」ことだと思うのです。こういう家に住んでみたい、こういう家っていいなと想像して、夢を膨らませてもらうこと。写真のクオリティ、訴求力はWEBより紙媒体のほうが圧倒的に優れていますから。それだけに、ビジュアルのクオリティをいかに上げるか、ということを撮影の段階でも、色校正の段階でも大切にしています。

Q

誌面を拝見すると、建築としての空間やデザイン、インテリアに照準を合わせた写真が主で、住み手の方が登場することはあまりないようにお見受けしますが、これには何か意図がおありなのでしょうか?

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住み手の方に登場していただかないと決めているわけではありませんし、可能であれば出ていただくこともあります。住んでいる方自身やライフスタイルを取り上げたテーマのときには、登場していただいています。

ただ、読者によっては、そこにどういう方が住んでいるかよりも、自分がそこに住んだらどうかということを想像しながら見る場合もあると思います。その場合、リアルな生活感はかえって邪魔になることもあるのです。

撮影の時には、その空間がいちばん引き立つように配慮して撮影します。住宅によっては、住み手の方と建築家の了解をいただいて、編集部のスタッフがコーディネイトした家具や小物を持ち込むこともあります。竣工してすぐですと、まだ、家具が揃っていない場合もありますし。実際、撮影後には、参考になりましたとか、その場でこの家具を買い取りたいとか、グリーンを置いていってくださいとか、喜んでくださる方が多いんです。どんな形であっても、家づくりにご協力できるのはうれしいですね。

Q

誌面で紹介する家を選ぶときの基準は何ですか?

そのテーマを端的に表現できる実例であるか、建築として読者の方が見たいと思うクオリティを満たしているか、ということです。それに加えて、気持ちのいい家かどうか、ということを慎重に検討します。「気持ちのいい家」とは、つくりに無理がない、住みやすそう、フレキシブルである、自分がここに住んだらどうだろうと想像できる余地がある家。具体的に言うなら「ヌケのいい家」ということです。

撮影や取材で年間60軒くらいの実例を見ていますが、その空間に身を置いたときに、気持ちがいいなと思える家には、共通項があります。そういう経験を積んでいくと、写真や図面を見ただけで、これはいい家だなということが感覚として分かるようになってきます。その「感覚」を分析してみると、光のヌケがいい、風のヌケがいい、視線のヌケがいいということが大きな条件であることに気づいた、といったほうがいいかもしれません。

Q

一般の方が「いい家」を見分けるようになるには、どうしたらいいのでしょう?

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できるだけたくさん「家を見る」ことだと思います。ただ、気になる家があっても、トントンとドアをノックして中に入れてもらうのは難しいですよね。その代わりにといっては何ですが、「モダンリビング」のような雑誌があるわけです。たくさんビジュアルを見て、想像して「経験」する。あるいは、実際に外観を見にいく。建築家が決まったら、その方の手がけた実例も見せていただいてください。

そのうちに、自分がいいと思う家はどういう家なのかがわかってきます。ファッションでもどれだけたくさん服を見たか、実際に着てみたかが大切ですが、家も同じ。たくさん見て、その空間に入ってみることをお勧めします。

Q

下田さん自身はどのような住宅がお好きですか?

私は平屋派なんです。広くて仕切りの少ない箱のような家がいいですね。北海道育ちなのですが、2階建ての家、階段のある家にはほとんど住んだことがなくて。平屋好きは、たぶんそのせいではないかと(笑)。現在はマンション住まいですが、マンションというのも一種の平屋。いつも平行移動なので、階段のある生活や縦型動線に慣れていないんです。どんな家に住んできたか、という経験は大きいですね。

Q

建築家と家を建てるということについてはどのようにお考えですか?

ハウスメーカーで建てたとしても、決めなければいけないことは多いのですが、建築家と家をつくるというのは、いわばオーダーメイドですから「決断」の連続です。時間的労力や精神力、モチベーションの継続など、いろいろなことが必要になります。

そういう意味では、30代という気力も体力もあるうちに建築家と家を建てることをお勧めしたいと思います。生活ができ上がってから、お金ができてからではなく、ライフスタイルが流動的な30代に家づくりをするのは、とてもおもしろい経験になりますし、それによって、その後の人生が変わることもあります。家を考えることは、自分の生き方や暮らし方を考え直すきっかけになりますから。

Q

「モダンリビング」はオンラインも充実していらっしゃいますが、WEBの活用についてはどのようにお考えですか?

アシェット婦人画報社ではすべての雑誌がオンラインをもっています。とりわけ「モダンリビング」の場合、読者が30代であること、住宅関連の情報の収集ということから、他の雑誌よりも読者のインターネットの利用率は高いと考えています。

雑誌は読者に対してメッセージを発信するものです。メッセージを伝えるという目的を考えれば、それは紙媒体でもWEBでもいいわけです。雑誌は編集部から読者への、常に一方的なものですが、WEBは相互からの働きかけが可能です。WEBの存在価値はそこにあります。

一方、紙媒体はスペースに限界があるので提供できる情報量は限られますが、その分、セレクトした情報を発信できるというメリットがあります。雑誌は紙媒体にしかできないこと、紙でしか伝えられないことに重点を置いて、WEBのほうが得意なこと、WEBにしかできないことはそちらにふっていく、という棲み分けが重要になってくると思います。

雑誌だけでも満足していただけるけれど、紙媒体とWEBの両方を見ることで、もっと立体的に「モダンリビング」のコンテンツを楽しんでいただけるようにしていきたいと考えています。そのために、10月7日発売の169号に合わせて、モダンリビングオンラインを一新し、デザインもリニューアルします。

Q

今後、モダンリビングでに取り上げたい企画の構想などはありますか?

広告部からも1年分の企画を出してください、と言われるのですが、ぎりぎりまで出さないんです(笑)。企画はいわば生鮮食品。取材に伺ったり、いろいろな方とお話をしたりしている中から生まれてきます。そういう「旬」の感覚、現在進行形であることは、読者の半歩先を行く誌面づくりのためにはとても大切なことです。

いつもリビングに置いて眺めていただける―「モダンリビング」はそんな雑誌であってほしい、と編集部では願っています。

MODERN LIVINGとは?

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モダンリビング №222 2015年08月07日 発売号
出版社 アシェット婦人画報社 価格:¥1,667(税別)

1951年に創刊。「シンプルでスタイリッシュな家づくり」をテーマとするビジュアル建築誌 (偶数月7日発売)。主に30代をターゲットとし、建築としての家づくりにとどまらず、インテリアにも重点をおく。

※この記事はHOUSECOに掲載されたものを転載しています。

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