「こころを遊ばせてください。」というメッセージとともに、「BESS(ベス)」ブランドでログハウスはじめ個性的な木の家を提供してきたアールシーコア。業界のパイオニアが30年の節目となる今年、ログ小屋「IMAGO(イマーゴ)」を8月から発売します。「第三のトコロ」と銘打つ10平米の小屋を今発売する理由、その意義をBESS事業本部 BI(ブランドイメージ)本部長の木村伸さん、チーフデザイナーの山中祐一郎さんに伺いました。
ログキャビンを街中で住める「家」に
元々1985年にコンサルタント業から始まった同社。「自分たちも顧客も楽しめることを仕事に!」という思いから、会社を立ち上げた中で、ログハウスにめぐり会います。創業者が知人からログキャビン(丸太小屋)購入の相談を受けたのです。折しも1986年にログハウスについての建築規制がオープン化され、事業としても参入できるタイミング。BESS(当時はBIG FOOT)がスタートしたのです。この頃はログハウスを高級別荘として扱う業者が大半でしたが、実際に調査をしてみると国内外での価格差がかなり大きいことがわかりました。
そこで、適正価格で提供すれば喜ぶ人も増えるはずだと当社の社長(創業者)は考えたんです。デッキやリビング、ロフトなど空間が大らかで『自然の中の遊びの基地』にいいよね、と。立派な別荘ではなく、もっと気軽さを重視した商品にしようと考えたわけです。パンフにある『家は道具』という言葉も、家を使い倒せる遊び道具にできたら面白そうだという考えから生まれたものでした(木村)
一般的に呼ばれる「ログハウス」という名称は、専門誌がつくった和製英語。だから「ログキャビン(丸太小屋)」から始まり、家としての認識を確立させてきた同社からすれば「IMAGO」は原点に戻る存在です。なぜ今、小屋へと立ち戻る必要があったのでしょう。そこには、法対応への取り組みとマーケット開拓の苦労が関係していました。
当初はセカンドハウスという位置だけに、商品がよくても日本の金融や、不動産の仕組みから普及しにくい状況でした。住宅ローンは組めず、別荘地然とした土地の提供が中心。それならいっそ、この“非日常な家”を日常の家として広めようという方向になったのです(木村)
その後、BESSのログハウスは街にも建てやすい家へと進化を遂げていきます。防火や耐震など建築基準法に適合させるため、相当な苦労を重ねて。
ログは耐震性も防火性能も元来高いのですが、ログハウスに対する法律が十分に整備されていなかったので、何百万もかけて実験をし認定を取り…と地道に歩んできました。そこからマーケットを切り拓いてきたようなものです(木村)
さらに2004年のワンダーデバイスなどオリジナルデザインの自然派個性住宅を定期的に発表。現在では雑誌にも取り上げられるなど、すっかり身近な存在となりました。この30年は小屋を家に進化させるタームだったのです。しかし、その状況も変化し、ログの家は新たな問題にぶつかり始めています。
BESS第二世代が仕掛ける、世の中を面白くする小屋「IMAGO」
省エネ基準による断熱の考え方の変更です。土壁やログ(丸太)は自然換気ができる素材なのに、法律上では24時間換気の換気扇が必要だったり、寒い土地で重宝されるのに、自然換気能力が断熱性能で不利になる流れがあったり…(木村)
検証方法の違いです。でも法律のために建築の文化が消えるのはおかしいよねと。法律に沿った安心できる物を提供するのはもちろん僕らの基本ですが、納得がいかないことも多い。それなら法律の規定する「家」の枠にこだわらず文化を大切にする発信もあっていいのではと思ったんです。さらにログの良さや組みあげる楽しさを浸透させられたらなと考えたのが今回の小屋企画の始まりです(山中)
住む幸せや快適さは人それぞれのはずという想いの一方で、法律は窮屈になるばかり。オーバースペック分の費用が建物に上乗せされる位ならば、異なる方向性を探り、新たな価値観の提供を考えよう。その第一歩が「IMAGO」でした。30年一世代、第二世代へと移る時に何をすべきかと皆で考えた結果とも言えます。折しも小屋に関する注目度が上がりつつある時代。「世の中を面白く」するログ関連の挑戦を仕掛けるには、よい状況でもあると考えているそうです。
10年前に『リトルビッグフット』という小屋を販売した時よりずっといいですね。ただ当時の商品はモノとしての小屋だったので、世の中を変える存在にはできませんでした。だから今やりたいのは、モノではなくコトとしての小屋。小屋個体ではなくその周辺で起きる面白いコトを創り出し、そこに参加してもらいたいのです(木村)
「コトとしての小屋」をデザインする
小屋を道具としてどう使えるか考えられる存在にしたい。そこで山中さんは、まず10平米以内という建築基準法のある規定の中でできることを考えつつ、ユーザーが好きに扱えるような形を意識してデザインしました。
レセプター型は横長で大開口があり、周辺環境を取り込んで価値を上げる形、アクティベータ型はランドマーク的な縦長で、環境を問わず土地を活性化させて価値を上げる形です(山中)
小屋周りのデッキやタープ、テントなど外と一体化した広がりのある利用を想定。シンプルな形だけに土地や風景との関わり方の自由度は広く、また必要に応じて小屋どうしを2棟、3棟と組み合わせた活用も自在です。この形に至るまで、10平米の四角の縦横比率を何十種類もつくり、形と使い勝手、物理的な条件とそれが導く性質を逐一シミュレーションしたそう。提案時に4つに絞り、最終的に決まったのがこの2つでした。
シチュエーションや使い方の広がりを考えると僕は複数のタイプが必要だと思いました。レセプター型とアクティベータ型、結果的にはっきりと正確の異なる2つの形に辿り着きました。究極の10平米です(山中)
組み立てる楽しさを感じてもらうキットだけに、ログは70×145ミリと女性でも持てるサイズ感に。基礎さえできれば大人2人で1週間〜10日間ぐらいで自作することができます。
ログを積むだけなので、積み木感覚でセルフビルドできます。柱や梁、断熱材や外装、壁紙など家に必要な素材はログが全部賄ってくれますし、自分でつくれば構造もわかるのでメンテナンスも簡単です。建物への理解や愛着が圧倒的に高まるのもいいですよ(山中)
小さな小屋ながらも、建築基準法に適合し、もちろん確認申請にも対応する。期間限定ながら、価格も基礎と塗料以外の材料、運賃込みで90万円を切るというから驚きです。
それだけ本気だということです。積極的に動かさないと小屋は売れないことを知っていますから。マーケットを本気で動かすための価格をつけたんです(木村)
プレイヤーとつくる「第三のトコロ」
IMAGOには、過去の経験に基づいたもうひとつの思いが込められています。それは、どんなにいい商品でも「土地がなければ売れない」こと。世界観を変えるような面白い存在にはなれないのです。でも、こればかりはメーカーだけではどうにもなりません。
そこで農地やキャンプ場など土地を持つ方とのタイアップ企画を仕掛けました。これは地主さんに土地を提供していただき、そこで僕らのIMAGO活用アイデアを現実化するという試みです。例えば休耕地などにIMAGOを建てて農園を楽しむ企画が出来れば僕らは展示場に来るお客さんを誘導できるので、遊んでいた土地に新たな付加価値をつけられます。僕らはそこでログキットを介してログの楽しさを普及できますから、その意味でも先方とwin-winの関係になれます。そういう小屋を軸に皆で楽しめる場を『第三のトコロ』として提供したいと考えているんです(木村)
休耕地でのログづくりと農園体験のセット企画やキャンプ場のシェアコテージ企画など、アイデアはてんこ盛り。埋もれてしまった土地なども再び輝かせる可能性に溢れた企画と言えそうです。
「成功イメージは『IMAGOでアミーゴ!』です」(木村)
BESSの家のターゲットは家族でしたがIMAGOはもっと手軽な存在です。若い世代では所有意識も変わりつつある昨今、シェアを考えれば20代でIMAGOを持つことも夢ではないとふたりは語ります。だからこそ、若い世代を含めた幅広い世代に触れてほしい、と。
BESSユーザーは自分だけよりもみんなで楽しむ人が多いです。自発的に『ワンダーデバイスミーティング』と称して全国から集まってキャンプをしたり、出張先で呑み会をされたり、コミュニティを生んでいるんです。理由を伺うとユーザー同士の価値観が驚くほど似ているからだと。家では珍しいことですよね。こんな繋がりを生む存在にIMAGOもできればいいなと思っています」(木村)
夢を夢のままで終わらせないで
最後に改めて、IMAGOをつくり出したお二人にコメントをいただきました。
秘密基地や小さなお店など、子どもの頃に思い描いた夢がIMAGOなら実現できます。土地のあり方やシェアも含めて考えればさらに身近な存在になるかと。ぜひ自分ごととして、夢を夢のままで終わらせないきっかけにしていただければと思います(山中)
ログはプリミティブな構法の建物です。古くから丸太の家はありましたから、ログに触れることで昔から人が親しんできた感覚を感じてもらえるのでは。木は素晴らしい素材なので、そこに触れる楽しみも感じてもらえたら嬉しいです(木村)
広めたいのは、モノとしての小屋ではなくコトとしての小屋。IMAGOはこれからの建築や不動産のあり方、社会や環境の認識を丸ごと変える存在になるかもしれません。
Text 木村早苗
Photo(インタビューカット) 関口佳代