建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
暮らしのものさし
2016年 9月 3日

”所有”から”共有”の時代へ。臼井健二さんが「足る足る号」で叶えた、自立型のミニマムな暮らしを体験してきました!


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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みなさんは、この先10年、誰とどこで、どんな暮らしをしていきたいですか? 都心に暮らすか地方で暮らすか。家を借りるか買うか。またその家は、マンションか一軒家か。私たちはそうした選択肢の中から、これからの暮らしを選んでいこうとしています。

そうした中で、もっともミニマムで自由な家の形があると今回聞いて訪ねたのは、長野県安曇野市の「ゲストハウス・舎爐夢(シャロム)ヒュッテ」。

ここのオーナーであり、安曇野パーマカルチャー塾主宰の臼井健二さんは、軽トラの荷台に小屋を建てて、可動式のモバイルハウス「足る足る号(たるたるごう)」をつくりました。今回は、「足る足る号」のこと、そして健二さんに聞いたこれからの暮らしの話をお届けします。

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臼井健二さん

東京都心から車で3時間弱。長野県中部の北アルプスの山麓にひろがる、清流に恵まれたのどかな田園地帯、そこが安曇野市です。「舎爐夢ヒュッテ」はまさにその北アルプスの麓、森の中にあります。

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訪れたその日、宿泊棟の軒下では健二さんと工具を片手にした女性たちが、背丈よりも大きな合板を組み立てているところでした。みなさん健二さんの主宰する安曇野パーマカルチャー塾の塾生または卒業生で、それぞれが「足る足る号」と同じような、オリジナルの軽トラキャンピングカーをつくっているといいます。

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「頼むよ〜」「ここを押さえて」「お、うまい!」と健二さんの声。初めて工具を持った、という女性たちも懸命に、そして楽しそうに作業に取り組んでいます。

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そんなみんなの憧れである「足る足る号」が、こちら。作業の合間に、健二さんに案内していただきました!

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まさにキャンピングカーのような見た目の「足る足る号」。後面ドアを開けて覗いた中の様子。右手にはベッドが、左手にはシンクがあります。

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ベッドはパネルの組み合わせ方次第で、このようにテーブル&チェアに変形することも可能です。

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蓋をしているときはテーブルとして活用することができるシンク。ガスコンロを置いたら、このスペースはキッチンに早変わり! シンク下には上水用と下水用のふたつのポリタンクを設置しています。

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日中は天窓とサイドの窓から十分な明かりを取り込むことができます。また、100Wのソーラーパネルを2枚屋根に積んでいて、蓄えた電力は夜の照明やパソコンなどモバイル機器の充電に利用しています。

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さらにモバイルハウスは、四隅にパイプをつけてジャッキベースで持ち上げれば自立することも可能。ここが通常のキャンピングカーと異なるところ。つまり、家を自立させたまま、軽トラは軽トラとして使うことができるのです!

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実際に中に入って、ベッドに腰を下ろしてみると、狭いけれども窓から入る日差しが明るく、なんとも落ち着く空間です。

暖房機器がないため、眠るときには寒くないのか心配になりましたが、断熱材がしっかり入っているので山用の寝袋一つあれば問題ないとのこと。さらにコンロで少し料理をすれば、健二さん曰く「あっという間に暖かいハワイがやってくる」そう。

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寝る場所があり、料理をすることができ、水や電気も使うことができる。この小さな車で移動しながら暮らすことが十分に可能なのです。

「足る足る号」は初めて工具を手にしたような人でも自分でつくることができます。そして、さらにそのつくるプロセスが自信につながるわけです。

これ一つだけ持っていれば、移動もできる、住居にもなる。小さな暮らしの中に全てがある。こんな暮らしもできるという一つの提言としてこれがあってもいいと思うんです。

「足る足る庵」から「足る足る号」へ

実は健二さん、軽トラモバイルハウスをつくる前は、「足る足る庵(たるたるあん)」と名付けられた小さな小屋をつくって寝泊まりしていました。ソーラーパネルや雨水タンクなど、ここでもエネルギーを自給する小さな暮らしを実現しています。

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足る足る庵。「舎爐夢ヒュッテ」の姉妹宿、シャンティクティの敷地内にあります。

つまり、「足る足る庵」をより小さくし、車の上に乗せて移動できるようにしたのが「足る足る号」というわけです。その結果、「足る足る号」は、より可動性を増し、家と車の機能が融合した状態になっています。

ひとつのことしかできないというのは、何かのときに非常に不便なんですよ。それよりも多重性や多様性があっていろんなことができるものの方がよくて。

例えばカメラも携帯も全てが融合したもの、それがスマホでしょ。いろいろなことが融合して、そうすると物は少なくてミニマムな暮らしができる。それが軽トラキャンピングカーの発想です。

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物が少ないミニマムな暮らし。「足る足る」という名前の由来は、「われ、ただ、足るを知る」という言葉からきているといいます。

どうしても僕たちはたくさんの物を持つということが安心感のように思いがちなんだけど、物を持たない暮らしの中に一番大切な「われ、ただ、足るを知る」という究極の世界があると思うんですよね。

最終的には裸で生まれて裸で死んでいくわけだから、物に執着しなければ失うものってないじゃないですか。そしたら本当に自由に生きられるから。

つながりのなかで暮らしていく

物を持たない暮らし、と聞くのは簡単ですが、実際にどうしたらできるのでしょう。

「所有するのではなく共有、そして利用すること」と健二さんは話します。例えば、ひとりで生活するとそれだけでたくさんのものが必要になるけれど、人と一緒に住めば、洗濯機などはひとつで済み、ひとりあたりの所有物は少なくなるのです。

健二さんにとって、そうした暮らしの実践の場が、「舎爐夢ヒュッテ」でもあります。

大学卒業後、入社した会社を1年で退職して山小屋で働いていた健二さんは、より自給的な暮らしを求めて、「舎爐夢ヒュッテ」を始めました。現在では、住み込みの若いスタッフたちが中心になって運営しています。

一番弱い人を中心にやっていこうという考えで、シングルマザーもいるし、家族連れもいる。そういう人たちとコミュニティという形で住むと、すごく安心なんですよ。母親も子どもを預けて出かけていけるしね。

スタッフは売り上げと経費を平等に分けているので、ここにいるだけで衣食住が足りて、ベーシックインカムが保障されているのだとか。まさに人と人を融合し、物やお金を共有する暮らしがあるのです。

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「舎爐夢ヒュッテ」のスタッフ

さらにゲストとスタッフの関係も、一般的な宿とは違います。通常、宿泊場所のスタッフとゲストの間にはお世話する人・される人という距離がありますが、「舎爐夢ヒュッテ」では、ゲストもスタッフとともに食事をつくり、片付けをし、掃除をします。

今までの「お金を払えば最高のサービスが得られる」という考え方から転換して、むしろマイナスのサービスを意識しています。でもそうすることで、もっとつながりが生まれるんです。例えば一番の友人だったら、一緒に台所に立つでしょ。一緒に掃除もするし、ご飯も食べるでしょう。

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スタッフとゲスト、ともに食事をします。

実は私も、実際に「舎爐夢ヒュッテ」に宿泊して、食事の準備や後片付けを手伝いました。ただのサービスを受けるゲストではなく、プレイヤーとして場所に参加することで、スタッフや他の宿泊客とも交流し、濃密な時間を過ごすことができました。さらに「舎爐夢ヒュッテ」の暮らしに対する考え方も、自分へのお土産として少し持ち帰ることができたように感じています。

分かち合いの時代へ

今、時代は大きな転換点にあると健二さん。「瓦理論(かわらりろん)」という独自の理論を話してくれました。

今までは、瓦を縦に重ねて一番高いのが一番よしとされていたの。クラスで一番、会社で一番、ワールドカップで一番。でもその一番にはひとりしか残れなくて、この一番以外の瓦は2〜3枚なくても関係ないし、評価されなかったんだよね。

でも、屋根の瓦は少しずつ横につながって重なりあっているでしょう? この場合、一枚欠けるだけで雨漏りするし、すべての瓦が大切。この瓦のようにたくさんの人が憩うことができたらどんな人にも存在する意味があるんだよ。

今は社会が縦型から横型へ、分断して競争させる生き方から共生する生き方へ。所有しないで共有する、そういう時代へ変わりつつある。そんな中で自分の立ち位置というものも明確に見えてくる。そういう時代だからこそ、弱いもの同士が集まって新たな社会をつくっていく。その雛形がここでできれば一番いいなと思ってます。

そう話したあと、「まぁいいんだよ、なんだって」健二さんは続けました。

最終的にはね、なんでもいいの。生きてれば。それだけで本来ありがたいことでね。「〜せねばならない」とか、あるいは理想を描くと、それに向かって自分を形にはめなきゃいけないでしょ。みんながおのおのやりたいことを実現できる場であったら、それでいいよね。

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「足る足る号」が実現した自立型のミニマムな暮らし。それを支えるのは、分かち合い、生かし合うという考え方でした。物も土地も、そして知識もシェアしていれば、個人の持ち物はほんの少しで、わたしたちはどこへでも旅をするように暮らすことができるのかもしれません。

ひとりでいることよりも、共に生きること、そしてそれを自覚することの中に本当の自由や自立がある。健二さんのコミュニティへの眼差しから、そんなことを感じました。


※この記事はgreenzに2016年08月25日に掲載されたものを転載しています。

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