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【連載】DIY的暮らしのつくりかた
2016年10月24日

暮らしを(だいたい)友産友消でつくる。東京近郊育ちヘタレ夫婦のための自給の家|伊藤菜衣子のDIY的札幌暮らし

DIY的暮らしのつくりかた

「伊藤菜衣子のDIY的札幌暮らし」は、札幌で日本中のクライアントのための広告制作をしながら、”暮らしかたの冒険” = ”暮らしかたの再編集” をしている伊藤菜衣子さんによる、ちょうどよい暮らしを探す冒険記です。

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車は東京転勤中の友人の預かり物。これもウェブの相談と物技交換

うすうす感じてはいたけれど、3.11のとき、生きていくという点においてあまりに脆弱な状況の上に生きている、と危機感を覚えました。社会に出て、自分で稼いで、《自立している》と思っていたけれど、そもそもそれは流通やエネルギーのインフラが機能していることを前提とした場合であって、あのときの自分は《自立していない》ことを痛感。だから、どんな状況であっても自立している状態に、心の底から憧れたのです。そして、暮らしにまつわるあらゆるものを、なるべくだけども、DIYしたり、自給したり、友だちがつくったものを消費する《友産友消》したり、本当の自立を探す冒険が始まったのです。

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畑で取れた野菜でボルシチ。パンは2km先の食堂《やぎや》で石窯で焼かれている

東京近郊育ちヘタレたちの自給自足、理想と現実

とはいえ、父親の日曜大工の背中もほぼ見たことがない、東京近郊育ちには、あらゆることがパニックでした。たとえば、仕事もなく無限に家の改装をしていられるならいいかもしれないけれど、鋭角に食い込んでくることもある仕事と、大掛かりなセルフリノベーションの折り合いをつけるのはなかなか大変。仕事のウェブをつくったりすることならば、おおよそ見積もり通りの日数でできるけれど、DIYに関しては、予定の10倍以上の日数がかかることもザラです。

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届いたばかりの斧をこの後、折った。それくらいにヘタレ。木は近所の公園の剪定したものや、土木の現場で伐採した木をもらってくる

その上、暖房を薪ストーブに。木はどこにでも転がっている!エネルギーの自給だ!と息巻いてみたものの、仕事をしながら、用意できる薪の限界は3立法メートル。毎年雪が降る直前に慌てて薪を注文したりと理想と現実の間で、悔しい思いをしてきました。

そんな中、Facebookのタイムラインでは、竹内昌義さん(みかんぐみ/東北芸術工科大学)や森みわさん(キーアーキテクツ/パッシブハウス・ジャパン passivehouse-japan.org )が、とてつもなく燃費よい家の事例が流れてくる。

建築のあたらしい技術をもってすれば、わたしたちのヘタレ具合でも、暖房エネルギーの自給ができる、と、目から鱗が落ちたのです。無理なく薪割りできる分で、全館暖房が賄える家への妄想が広がりました。

DIYの先へ。燃費1/3の夏涼しく、冬あたたかい家を手に入れる

車の低燃費、というのは、もう当たり前の時代ですが、家にも低燃費がある、というのはまだあまり知られていないことです。わたしたちの家で必要だった薪は9立法メートル、割れるのは3立法メートル。そう、1/3の燃費の家を目指す必要がありました。そう、《断熱・気密リノベーション》をすることにしたのです。

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カーペットを剥がして、無垢床にしたものの、ものすごく足元が寒かった

ちょっとマニアックになってしまいますが、わが家の燃費は年間暖房負荷が170kWh(キロワットアワー)/平方メートル(※1平方メートルを温めるために1年間で使うエネルギー量)。ということは、56kWh/平方メートル以下を目指す、ということになります。このような計算をできる工務店や設計者はまだまだ少ないのですが、パッシブハウス・ジャパン、エネパス協会、新住協などが作成する燃費計算ソフトがあり、間取りや使っている材料を入力することで算出できるのです。

さすがにこの計算は自分たちで、というわけにもいかず、さらには、面積が大きすぎる壁面全てを満遍なく断熱・気密し、換気装置も変えるには、DIYは到底向かない、何年経っても絶対にできない、と判断しました。内装は大工さんに手伝ってもらったりもしながら、DIYで仕上げましたが、熊本と札幌、2軒のセルフリノベーションの経験から、これはプロにお任せするところだ、と。

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もともと大きかった南面の窓を、今回さらに大きくしました。窓から取り込む太陽熱は最強の暖房設備

ぶっちゃけると、金銭面的にも、仕事が少なかったころは、DIYが良かったのですが、ありがたいことに待ってくださっているクライアントがいる中で、DIYしているなら稼いだほうが早い、というのが正直なところなのです(笑)

でもやっぱり外壁材の塗装は、DIYで真っ黒になりながらやりました…。

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塗装はウッドロングエコというナチュラルな木材防護保持剤に浸けたあと、墨汁塗装

DIYは自立と自由のための手段

この連載は《DIY》の連載なのですが、言うほどDIYをしていない、という想定外の結果に…。

どうして暮らしかた冒険家がDIYをしたかというと、冒頭の震災のときの《自立したい》ということは紹介しました。あとはもうひとつ、いつでも《自由でいたい》ということ。わたしたちにとっての自由とは、自分たちが良いと思うものだけ、広告やウェブをつくることだったり、知見を広げるために長期旅にでかけたり。

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家中のほとんどの壁は、廃棄物であるほたての殻をリサイクルした《ほたて漆喰》

そのために、たとえ廃墟でも自分たちで住処に変えていく力がほしかったし、空き地があれば食べものをつくれるようになりたかった。自分たちでエネルギーもつくりたかった。お金がすべてじゃない、と思えるところを増やしたかった。ただ、それは、ある意味、日常ではなく、有事。地震があったとか、本当に収入が途絶えたという状態。だから、一通りできるようになった今、わたしたちは《DIYじゃないこと》も選ぶ。

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大事なのは、おいしくってニヤニヤしちゃうようなごはんを食べながら、子どもの日々の成長に楽しく振り回されつつ、ソーシャルグッドなことをきちんと社会に広める広告をつくって、自分たちの周りにいいやつばっかり、というハッピーな状況。そのために、あらゆることを逆算して、決めていく。

わたしたちが、《断熱・気密》という技術に出会い、勉強していく中で、いろいろな出会いがあり、《パッシブハウス・ジャパン》のウェブ作成や《あたらしい家づくりの教科書》という書籍の編集に関わらせていただきました。興味関心と仕事の距離がどんどん近づいて、自分の暮らしも、仕事のクオリティも両方上がる、という、良いグルーヴがどんどん生まれる。DIYから始まった渦は、これからもどんなコラボレーションを巻き起こしてくれるのか、という冒険は続きます。

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2016年8月31日の発売から住宅建築・家づくり部門で1ヶ月以上1位をキープ。これからの家づくりのスタンダードとして編集を手がけた《あたらしい家づくりの教科書》、ぜひ。

《あたらしい家づくりの教科書》
著者:前 真之、松尾 和也、水上 修一、岩前 篤、今泉 太爾、竹内 昌義、伊礼 智、森 みわ、三浦 祐成
発行:新建新聞社
編集:伊藤菜衣子
価格:1,500円

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