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暮らしのものさし
記事作成・更新日: 2016年11月25日

カフェのある古材店「リビルディングセンター」が伝えたいのは、モノの本質をみる目や古いものを大事にする文化


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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古い木材や家具・建具を販売するショップとおしゃれなカフェが合体した、一風変わったお店が長野県・諏訪にオープンしました。それが、アメリカ・ポートランド発祥の「リビルディングセンター」です。

手がけたのは、空間デザインユニット「medicala」の東野唯史(アズノタダフミ)さん華南子(カナコ)さん夫妻。ふたりはこれまで、人の輪の中心となるようなゲストハウスやレストランを日本全国で手がけてきましたが、様々な土地でどんどん壊されていく古い家屋を見て、まだ利用できる資源をなんとか次の時代へ生かせないものかと、ずっと思い続けていました。

「ゴミとなるはずの古材をレスキューし、再利用してもらうための発信地であるリビルディングセンターには、古材の良さを伝えるために、ショップとカフェの両方が必須だった」とも語るふたり。

そこには、これまで歩んできた道のりと信念が大きく関わっていました。

空間デザイナーが古材再利用のための場づくりに行き着いたワケ

東京・新宿から電車で2時間、意外なほど都心に近い長野県・上諏訪駅から歩いて10分のところにリビルディングセンターはあります。スタッフをはじめ、皆が愛情こめて「リビセン」と呼ぶこの古材ショップ兼カフェは、開店したばかりなのに、さもずっとそこにあったかのように馴染んでいます。

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お店のシンボル、木枠の窓のコラージュでできた壁に立つmedicalaのおふたり。もともとあった壁をわざわざ取り壊して設置したそう。

東野さん夫妻が空間デザインの仕事で日本全国をめぐる中で、情緒のある建物の解体現場に出くわすことも少なくありませんでした。ふたりはそんな建物を見かけると処分直前の廃材をもらい、関わっているゲストハウスの内装に活かしてきました。

しかし日本の各地方では、過疎化などを原因として解体せざるを得なかった家屋もたくさんあり、自分たちが旅先でレスキューするだけでは到底その数を救いあげられない。

“そんな古材を保管し、必要とする人に受け渡す場があれば…”

何年も前から心にあった気持ちを行動に結びつけるきっかけとなったのが、新婚旅行で訪れたアメリカ、ポートランドにあった本家・リビルディングセンターに訪れたことでした。

本家・リビルディングセンターの「愛されている感じ」を日本にも持って来たかった

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きちんと種類ごとに整えられた古材が並ぶ店内

リビルディングセンターは元々ポートランドで創設されたNPO(非営利組織)で、現地でたくさんのボランティアの手を借りながらリサイクルショップを運営しています。

アメリカではDIYはごく一般的なことなので、当然DIYショップもたくさんあります。数あるDIY・セカンドハンドショップのなかで、「リビルディングセンター」を日本でやりたかった理由を聞くと、返って来た答えは意外なものでした。

店が愛されている、と感じたんです。地域の人にも、スタッフにも。単純な”ハコ”じゃなくて、スタッフ自身が店づくりを楽しんでいる。そういう場所を日本でもつくりたいなと思いました。

5000平方メートルという広大な敷地をもつ本家リビセンでは、毎週オリエンテーションをしながら年間2000人のボランティアを受け入れています。ボランティア作業をする人が楽しめる環境が整えられ、気軽に買いに来られる立地と雰囲気もあって、今では1日に何トンもの古材が出入りする規模で地域に根付いています。

そんな風に、自分たちが楽しみながら古いものを大事にする文化を日本でも広めたい。

こうして、本家リビセンのウェブサイトの「お問い合わせフォーム」からコンタクトを取ったところ、東野さん夫妻の熱意がポートランドのディレクターにも伝わったのでしょう、意外なほどスムーズに日本でリビルディングセンターの名前を使って事業ができることとなりました。そこから約半年間の怒涛の時を経て、日本のリビセンがオープンしたのです。

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社員となった3名のスタッフの皆さんは和やかに作業に勤しんでいました。高圧洗浄機の扱いも慣れたもの。

リビセン自体も古材でDIY改装! 全国から駆けつけた「お助け隊」と走り抜けた2ヶ月

リビルディングセンターを日本でやると決めてからオープンするまでの期間は、たったの10ヶ月ほど。これまではデザイナーとして仕事を請け負ってきたmedicalaのふたりにとっては、自分たちが施主となる初めてのプロジェクトです。それにもかかわらず、とてつもないスピード感で物事を進めていきます。このとき大活躍したのが、日本全国からあつまった「お助け隊」と呼ばれるお手伝いの方々でした。

medicalaが空間デザインをしてきたゲストハウスはどれも、施主やその家族友人、medicalaの友人をはじめ様々な人の手が加わってつくられています。夫・唯史さんはデザインと施工作業で、妻・華南子さんは現場のディレクションでフルコミットし、そこに仲間を加えて皆で楽しみながらつくり上げる。

だからこそ、長年愛される空間が生まれるというのがmedicalaの考えで、それはリビルディングセンターの改装時も同様でした。東野夫妻の友人はもちろん、medicalaが関わった物件やSNSでリビセンを知り、遠くは鹿児島や北海道からも、古材を使った木工や左官・ペンキ塗りを手伝いにたくさんの人が駆けつけたのです。

中には、華南子さんのつくる「現場めし!」が食べたいから、と作業に来る人たちも。作業は楽しくて、ごはんもおいしく、さらに色々な人に出会える。そんな体験を求めてmedicalaの作業現場にはいつも人が集っていました。蓋を開けてみると、実際にリビルディングセンターの改装に駆けつけてくれた人は、半分以上がmedicalaのふたりも初めて顔を合わせた人たちだったそうです。

「縁に助けられてきました、本当にありがたいです」と、ふたりはしみじみ語ります。

そもそも諏訪に移住してきたのだって、諏訪の「マスヤゲストハウス」の空間デザインを請け負ったご縁からです。さらには東野夫妻とリビルディングセンターの物件を結んだのはマスヤの常連さん。マスヤがなければ、リビルディングセンターはなかったかもしれない、それほどに東野さんが種をまいた各地のゲストハウスなどから生まれたものは多いのです。

コミュニティをつくる気持ちはなくとも、いい空間があると結果的に人が集まってきます。例えばマスヤがいいゲストハウスだから、そこにいい人が集まるわけで。そのゲストハウスをつくった人だから、ってみんな私たちを手伝ってくれたりするんですよ。

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リビセンカフェの大きな窓のサッシはマスヤの常連さんが自社製品で塗り、絵は知人のアーティストの作品。リビセンにはお店づくりに関わった一人一人の痕跡とぬくもりが残っています

木材・古材に縁のない人にこそ来て欲しいから、素敵なカフェも一緒にスタート

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丁寧にハンドドリップで淹れるコーヒー

リビルディングセンターには、カフェが併設されています。いえ、「併設」という表現は正しくないのかもしれません。このカフェを目指して諏訪までやって来て、そして初めて古材というものに触れる方も多いのですから。

「古材が見える大きな窓がある建物でカフェができること」を条件に物件を探していた、と華南子さん。

建築・建材リサイクルショップと銘打って運営したら、リビルディングセンターは大多数の人には関係のない場所になってしまう。わたしたちは声をかけてもらってレスキューしに行かないと古材を救えません。だからなるべく色々な人が来るきっかけとなるカフェが必要でした。

古材を買わなくても、古材を見てみたいだけでいい。古材のことをこのカフェに来て初めて知ったっていい。ここに来て、古い物に新しい価値を見出す文化に触れてもらって、古材ってこういうものなんだって思ったところから視野が広がる場所になったらいいなと思います。

このため、カフェのメニューにも力が入っています。華南子さんは、オープン前の4ヶ月間は現場作業のサポートの一方、ひたすらカフェで出すカレーづくりの研究に没頭していました。それは、「評判に聞いた味を期待して、だとか、前に食べたカレーをもう一度食べたくて、と来てくれるもいますから。毎回安定したベストの味を出せるように。」という理由から。

オープン直後の現在、フードメニューはカレーが一品だけ。でもそれは良質な材料で丁寧につくられており、体に染み渡る味がしました。そして、きつね色のスコーンも、ふわふわのチャイも。

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ふわふわのミルクのチャイを飲んだ人は皆、顔が和らいでいました。

ここで10年腰をすえて、きちんと「普通のこと」をしていきたい

オープンから1ヶ月経たないうちにリビルディングセンターの行ったレスキュー件数は既に10件を超え、在庫の古材の量は着々と増え続けています。今後リビセンはどうなっていくのでしょうか。

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広いカフェの中央にあるペチカストーブは、レスキューしたものの使い切れない端材も無駄なく利用するための工夫です。

いままで日本各地を巡ってきましたが、これからは当分、諏訪に腰をすえるつもりです。直営店はここだけ、在庫置場もしばらくは増やしません。

また、リビセンを他の土地でも、という声はすでにあるにもかかわらず「僕らの意思ではなくリビセンの “人格” そのものが育ったら、その時に理念に共感する人が日本各地にリビセンをつくってくれたらいい。」と唯史さんが言うように、ゆっくり時間をかけてカルチャーを醸成し、広めていくそう。長く愛されるいい空間とは何か、と考え続けてきたmedicalaらしい決意です。

もちろん、リビセンに腰をすえつつもリビセンでやりたい・発信したいことはたくさんあるとふたりは言います。

まず実現しそうなのは古材の板を使って木箱をつくるワークショップ。すごく地味、だけど、古材の使い方のノウハウが全部詰まったワークショップなので、木箱のつくり方をここで習得すると床もカッコ良く張れるようになるのだそう。古材に触れたりDIYを今までしたことがないけれど、素敵な空間で面白い人たちと楽しいことをしたい、そんな人への新しい扉となりそうです。

他の面白い計画が、「農作物のレスキュー」。ちょうど、リビセンのオープン時にも出荷直前に台風で落ちてしまったというリンゴが売られていました。季節柄採れすぎた野菜や、味に遜色はないものの正規品としては売れない傷物の野菜。それらのカフェでの使用・販売や、瓶詰め缶詰の製造も予定しているのだとか。

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カフェを訪れる人が次々に手にとっていた村山農園のリンゴもリビセンのレスキュー対象でした。

「世の中を因数分解して見られるようになる、それって楽しい。」

こうやって今文章を書いていると、華南子さんがふいに言い放った言葉を思い返します。

つい5年前までは、わたしは料理もDIYもちゃんとしたことがなかったんです。その頃のわたしだったら古材に近づこうとも思わないし、売られている家具に対して “どんな素材で出来ているんだろう”、なんて考えたりもしなかった。

でも自分で触れてみる、知ってみることで、視野が広がって世の中を色んな視点から因数分解して見られるようになりました。それってすごく楽しいです。

食べることと住むこと、生活に直結する事柄の本質を見つめ直す人はどんどん増えています。古いものに価値を見出し再利用することはもちろん、自分で選び、つくり、住み、食べ、そして生きることへの視点を広げる拠点として、リビルディングセンターは育っていくのでしょう。

「リビセンに来てくれる人たちの、物を選ぶ基準がちょっとでも変わったら、私たちのいる意味があるよね。」と笑い合う東野さん夫妻のまなざしは、今と未来の両方を見すえていました。

(Text: tonegawa haruka / Photos: 清水美由紀)

※この記事はgreenzに2016年11月21日に掲載されたものを転載しています。

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