河相我聞さんが家のリフォームをブログで報告した。我聞さんは、俳優として知られているが、タレントでもある。また、ミュージシャンという顔もあれば、経営者として話題を呼んだ時期もあり、最近はブロガーとしても話題になっている。
“俳優としてのイメージがあるから、こういうことはしない”という枠がゆるいようで、要するに自由な感じがする。そして、我聞さんのいるところはいつも、なんだかちょっと力が抜けていて、心地よい風が吹いているような、そんな感覚があるのだ。
さて、今回のリフォームも、そんな我聞さんらしく、いい具合に力が抜けているご様子。なんといってもリフォームを担当した施工業者さんが、そのまま家の借り手になったということで、やっぱり気になるのである。いったいそれ、どういうこと!? リフォームを担当した平林陽さんとオーナーの我聞さんに話を聞きに、その家がある埼玉県川口市を訪ねてみた。
我聞さんの生家は築50年で、5年ずっと空き家だった
今回リフォームをした家は、埼玉県川口市の住宅地にある築50年の一軒家。我聞さんの生家である。我聞さんが生まれてしばらくして引っ越し、ずっと賃貸物件として貸し出していたのだとか。そして、ここ5年ほどは借りてもなく空き家になっていたという物件だ。
新しい借り手を見つけようにも、なにしろ築50年でしょ?いろいろ手をいれなくてはならない状況で
そう話す我聞さん。
自分が住みたい気持ちもあったのですが仕事場まで遠い。いっそ売ってしまえたら楽とも考えたのですが、それは母が希望していなかったんですよね。まわりの家の建て替えが進む中、空き家問題も気になりはじめていて、どうしようか悩みの種になっていたんです
それならばリフォームをして、家の借り手が見つかればいいのにな……。そんなことをもんもんと考えていたときに、偶然出会ったのがリフォームを専門に行う施工業者の平林さんだった。平林さんとの出会いを我聞さんは振り返る。
僕が住んでいる家の1階が店舗になっているんですよ。そこのリフォームを手掛けていたのが平林さん。それで、母が平林さんの仕事ぶりを見て、『川口市の家のリフォーム、あの人に頼んでみたらどうかしら?』って言ったんです
現場できびきびと職人さんたちを仕切っていた平林さん。その仕事ぶりをみてのオファーだったのだとか。
正直、驚きましたよ。だって、テレビドラマで観ていた我聞さんがいきなり声をかけてきたわけですからね
確かに、それは驚きそうだ。話を聞くだけではわからないから、と、ふたりはさっそく川口市の家に下見にいくことにしたという。
600万の予算では、おもしろい家にはならない?
平林さんがどんな仕事をしてきた人なのか、我聞さんも、我聞さんのお母さんもよく知らない中でのオファー。働いている雰囲気だけを見て声をかけるあたりがユニークだ。
我聞さんは達観したように振り返る。
母は直観で生きている人。考えるより感じたことでものごとを進めます。今回もそんな感じです。動き出してから、どんどん自分の望むことを叶えていくような、そんなところがある人ですね
築50年、5年間空き家だった川口市の家は、雨漏りしていて、床が抜けていて、「ちょっと人が住めるような状態ではなかったですね」と我聞さん。相当なリフォームは覚悟していたようだが、最初に気になったのは予算についてだったのだとか。
僕も今回のことでリフォームについて勉強したし、母にも相談して、だいたい600万円くらいまでかなと思っていました
それを踏まえつつ、平林さんに相談をして、最終的に、平林さんから3つの案を提案してもらった。
【パターンA】600~700万円(税別)
家の中の床、壁、キッチン、お風呂、トイレなどをすべて新しいモノに取り替え、屋根は雨漏りを直して、外壁は塗装をする。賃貸には出せるであろう、とにかく価格を抑えた最低限のリフォーム。
【パターンB】900万円~(税別)
パターンA同様に中はすべて新しくして、トイレ、キッチンの場所など間取りを広く取って現代風にチェンジ。屋根も取り替え、外壁もトタンをはがして「サイディング」を貼り、外も中もほぼほぼ新築にするフルリフォーム。
【パターンC】1000万~(税別)
平林さんの「自分が住んでみたいと思える家」という提案。パターンB同様のフルリフォームに加え、一階部分を半分ガレージにして、バイクなど趣味に勤しめるスペースを設けて、リビングからそれを眺めることができるようフルリフォーム。
これらの案を受けて、我聞さんはパターンCを選択。当初想定していた予算は超えてしまうことになるが平林さんのオリジナルな提案を受け入れることにした。
しかし、いったいなぜ、予算オーバーを飲んでまで、パターンCを選択したのか。そこには我聞さんのユニークな人生観が見え隠れする。
選んだのはパターンC、その納得の理由とは
パターンCで依頼したことには理由が3つあります
と我聞さん。
一つ目は“平林さんに情熱とビジョンがあったこと”。僕の仕事は役者です。出演する作品のビジョンは、監督さんが持っているんですよね。作品の出来を決めるのは監督さんの情熱とビジョンです。リフォームに置き換えれば監督は平林さん。平林さんが“住みたい家”として提案するのなら、それが一番だろうと思ったのです
二つ目は、“ここ一番のときはお金を気にしないということ”。人生にはときどき、ここでお金を使うべしというタイミングがあると思っています。僕の家には昔から“お金は使う人の器”という教えがあり、楽しいことに思い切って使ったお金は巡り巡って帰ってくると聞かされてきました。ここはお金の使いどころだと思ったわけです。決して資金が潤沢だったわけではありません
三つ目は、“楽しいと感じるほうを選ぶべきということ”。パターンCは、平林さんがとても楽しそうにプレゼンするんですよ。聞いていてもわくわくしました。ものごとは楽しいほうを選ぶと間違いありません。僕のこれまでの人生を振り返ると、常に楽しいほうを選んできている。トラブルもありましたが、そうしているほうが何が起きても楽しめるようになるものです。だから、パターンCしかないと思いました
平林さんもパターンCの採用はとてもうれしかった様子。
築50年の家ですから、直すところがたくさんあり手ごわかったのですが、我聞さんに“好きにしてください!”と言っていただき、本当にわくわくして取り組むことができました。50年の間に起きた、いろいろな災害などにも耐えてきた家です。僕が生まれる前から建っていた家ですから、作業中も学ぶところがたくさんありました。リフォーム家業としては、本当にこういうオーナーさん、こういう物件に巡り合えることは喜びですよね
みんなが幸せになれるリフォーム
今回の発端となった我聞さんのお母さんは、リフォーム後の家を一度だけ見て、満足して帰られたそう。
もともと母が抱える問題解決のためのリフォームでしたから、喜んでくれてなによりでした。母はなんでも思い通りにすすめたい人なんです。たとえ、まわりの人と喧嘩になってでもね。でも、今回はずっと機嫌よくて、とても幸せなリフォームでしたね(我聞さん)
そしてリフォームが終わった物件の借り主は、不動産屋に預けるより先に、平林さんに決定した。
平林さんが、『すごくいい家ができました!』って言うものだから、『だったら、平林さん、借り主になりますか?』なんて、冗談で話していたんですよ。そしたら……
いたずらっぽく笑う我聞さんに向かって、はにかむ平林さん。
本当に借りたいんですけど……って、我聞さんに申し出て。そのまま借りることになりました(笑)
このリフォームのユニークなところは、リフォームを通じて関わった人の人生が、ちょっぴり絡み合っていくところだ。
我聞さんのお母さんは家を手放さずに済んだ。悩みの種となっていた空き家問題が解決して、家賃収入も入るようになった。リフォームを担当した平林さんは、自分の住みたい家をつくったうえで、その家に住むことができるようになった。しかも、ちょっぴり便宜を払ってもらって、家賃も抑え目にしてもらえたのだとか。
それでは我聞さんは……。
僕はですね、もともと母の問題を解決することが目的だったから、まずはそこがクリアになってよかったなと。あと、リフォームを担当してくれた人が住んでくれたこともよかった。だって、もともとは築50年の家なので、今後ガタがくるところもあると思うんです。でもリフォームのプロが住んでいるわけですから、自力できっとなんとかしれくます(笑)。家を出るときも、きちんとした状態にしてから引き渡してくれると思うんですよね
リフォームは、家を快適につくり変えることが目的だ。でも、それだけではない、プラスアルファを生み出す可能性も秘めているような、そんな印象を受けた。関わる人によって、関わる気持ちによって、みんなが気持ちよくなれる……。そんなリフォームのひとつのカタチがここにある。
(参考)
かあいがもん「お父さんの日記」 http://www.otousan-diary.com/
平林陽 https://www.facebook.com/consulthouseh
text:井上晶夫 photo:伊原正浩