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【特集】ぼくらが小屋をつくる理由
2017年 8月 1日

小屋を拠点に、好きな土地で暮らす。
旅以上、別荘未満の週末拠点を自在につくる小屋(無印良品の小屋)

ぼくらが小屋をつくる理由

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2015年にプロトタイプが発表されてから約1年半、この4月に無印良品の小屋が販売されました。サイズは9平米とグッとコンパクト、かつシンプルな設備とデザインに。一方ではひのき材単板の内壁やモルタル床など住む人の個性が出せるDIY要素を残しており、絶妙なバランスに仕上がっています。現在、安房白浜の旧長尾小学校をコミュニティセンターとして再生した「シラハマ校舎」で展示・販売を行い、新たな小屋暮らしの提案をしている「無印良品の小屋」。もの単品だけでなく背景との関わりが重要だったという開発の裏側を、株式会社良品計画 事業開発担当の高橋哲さんと、シラハマ校舎のリノベーションと運営を担当する合同会社ウッドの多田朋和さんに伺いました。





小屋づくりと地域活性化

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無印良品の小屋の前景と背面から見た様子。

無印良品の小屋はいい意味で、無印良品の商品らしい引き算ができたと思います

と話すのは、良品計画の高橋哲さん。加えて、今回のものづくりにおける重要な要素、展示と販売を行っているシラハマ校舎との関わりも教えてくれました。実は以前より、同社は鴨川市の棚田保全など、千葉県南房総の地域問題を解決する活動を行ってきた経緯があったそうです。

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株式会社良品計画 事業開発担当 高橋哲さん

千葉県南房総市の白浜では、廃校利用や人口減少が問題となっていました。私の所属部署は新規ビジネスの開発もおこないますが、近年は地域問題を解決する活動の比率が増えています。首都圏から、人を呼び込むことはできないだろうか。お客様に商品と背景を一括でご提供する弊社の理念から、小屋はこの双方の取り組みを繋げてくれる存在ではないか、と考えたのです

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小学校の面影を残すコミュニティセンター「シラハマ校舎」。写真のシェアオフィス棟のほか、裏にはゲストルーム棟、シャワールーム、左にはレストランやコワーキングスペースが続く。

小屋の開発や展示場所を探していた時に出会ったのが、ウッドの多田朋和さん。彼が経営するシラハマアパートメントに、高橋さんの上司が訪れたのがきっかけでした。

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合同会社ウッド多田朋和さん。安房白浜のマンション一棟をリノベーションしたコミュニティ施設「シラハマアパートメント」、そして「シラハマ校舎」のリノベーションから運営までを幅広く手がける。校舎内のレストランでは店頭にも立つ。

しばらくやり取りをしているうちに、南房総市で旧長尾小学校利活用案の公募があったのです。そこで以前から考えていた「校舎を改修しグラウンドに小屋を建てるクラインガルデン的なコミュニティスペース」のアイデアを良品計画さんにご相談し、提案しました(多田さん)

その案は見事採用され、現在のシラハマ校舎へと繋がっていきました。白浜地区は、今や高速バスを使えば都心から5,000円以内で往復できる場所。都会に住む人々が、週末に自然に触れて寛ぐために通いたくなる場づくりをしたい。そんな多田さんのアイデアは、都心に暮らす人にぴったりだったのです。

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リーフレットには“はじまりの小屋”というコンセプトが書いてあります。いろいろな意味に取れますが、私たちからは、この小屋を拠点に、好きな土地で生活を始めてほしいという思いを込めました。従来の長い時間をかけて組立を楽しむ小屋ではなく、土地を好きになる暮らしに没頭してもらえるよう、施工込みでご提供しています(高橋さん)

シラハマ校舎のように複数棟でコミュニティをつくる、プライベート的に個人で使うなど使い方はさまざま。店舗や公共施設への要望もすでに出ています。





国産材を活用し、未来を見据えたものづくり

無印良品の小屋は、具体的にはどのような構造なのでしょう。内装のDIYができ、保証付き施工代込みで300万円に収まる9平米の空間。そう聞けば材質や構造、デザイン面でかなりの工夫があったであろうことは、想像に難くありません。

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内装などをしていない基本状態。ひのき材単板の内壁やモルタル床はこれだけでも充分見栄えがする。

はい。最も悩んだのは材質です。今後の各地域の木材の活用を見越して国産材にこだわりました。内装材も国産の構造用合板を芯材を使用し、表面にひのき材の単板を貼って仕上げています。国産材は海外の木材と比較すると価格が高いものが多く、材の選定には時間がかかりました。とはいえ、将来に繋がるものにしたいので、とにかく検討を重ねましたね(高橋さん)

外装の焼き杉も国産材。丸太カット後の材料を活用したものとなっています。

また将来的に、全国で建てることを想定し、在来工法である木造軸組工法を採用しました。基礎は住宅と同じベタ基礎にしています(高橋さん)

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入口側にDIYでウッドデッキをつけた状態。開口部が大きいので広々とした印象だ。

さらに玄関はカットし、商店用のガラス引き戸を組み合わせて、自然な採光と開放感を感じるデザインに。パーツすべてをオリジナルに見せてしまうバランス感は、無印良品のデザイン力の賜といえるでしょう。

スタイリッシュで、建築物というよりはプロダクト製品に近い印象があります。建築物だと水周りは必須ですが、プロダクトと捉えると自由度が高まるのではないかと思います。車か小屋かという値頃感もいいですよね。20代でも手が届くと思えるので、幅広い年代に受け入れられると思います(多田さん)

住まいを20代から意識する、そんな可能性を秘めた存在になりそうです。またウッドデッキの拡張なども含め、DIYへの認識もより身近になるでしょう。

校舎内の設えや装飾のアイデアを参考にできますし、多田さんから直に教えてもらうこともできます。メンテナンスも含めた住む人向けのDIYイベントもいろいろと開けそうですよね。販売後も小屋と土地の親和性が高い場所だと感じます(高橋さん)





校舎と繋がることで魅力を増す無印良品の小屋

無印良品の小屋には水周りの設備はありません。その削ぎ落とした部分は、母屋となる校舎で補完する仕組みです。

小屋に水周りがあると上下水の問題が生まれます。白浜のように下水が整備されていない地域では、設備代に多額の費用がかかると考えると現実感も薄れてしまいます。その意味でも金銭面の自由度が上がりますし、廃校や遊休施設との親和性が高いのです(高橋さん)

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つまり、建物に併設することで魅力が増す存在なのです。一方で多田さんは、旧長尾小学校のリノベーションや区画を検討する上で、無印良品の小屋の特徴を活かすような関係性も考えたと言います。

先ほどお話したように、海外にはクラインガルデンやダーチャ、コロニーヘーブなど、週末を郊外の小屋付き農園スペースで暮らす文化があります。そこで無印良品の小屋を暮らしの拠点とし、キャンプ以上別荘未満の場所となるよう考えました。校舎と繋がることで小屋ではシンプルな暮らしが楽しめます。さらに自然が豊かで気候がよく過ごしやすい南房総の土地で、家庭菜園や芝生のある庭を楽しみ、ストレスを和らげながらゆるやかに人と繋がれる場へと育てていくつもりです(多田さん)

各家で異なる果樹や野菜をつくれば、ご近所さん同士で共有や交換することもできます、と将来のコミュニティづくりの鍵も満載です。また校舎内のレストランには、調理に来た住人と食事に訪れた人々の交流を想定したシェアキッチンスペースも。人の関わりを促す設備やソフトを今後も増やしたいとのことでした。





都会にはない楽しさと非日常感を味わえる「小屋暮らし」

すでに開催された見学説明会では「2拠点生活の住居探しの拠点に」という50代や「家を買う前に小屋を」という20代の参加もあったとのこと。不動産の購入とは異なる世代の出現は、小屋利用層として今後の新たな潮流になるのかもしれません。

私は地元の人間なので、都会の人々が『白浜で自分らしい暮らしを楽しもう』と、何度もリピートしてもらえる場にすることが大事だと思っています。土地自体の魅力は充分ありますから、無印良品の小屋を通じて心地よい過ごし方を探してもらうためのお手伝いをしていきたいですね(多田さん)

無印良品の小屋は、無印良品のカンパーニャ嬬恋キャンプ場でも7月から宿泊での利用が可能になり、11月には地域を限定して個人向け販売も始まります。さらにシラハマ校舎を参考にした自治体での利用が始まれば、あり方や捉えられ方もまた変化していくことでしょう。

最後に改めて、無印良品が考える「小屋の魅力」を高橋さんに伺いました。

暮らしが多様化する中で、人々の小屋暮らしに憧れる理由を考えると、そこには『都会では味わえない暮らし』があると思うのです。宿や別荘ではなく、ある程度自分で手をかける必要のある不便さと、非日常感が味わえる豊かですばらしい自然。その両方があるからこそ、小屋の魅力が強まるのかなと。ですから私たちは、単なる『小屋』ではなく『小屋暮らし』とお伝えしています。今後もモノだけでなく、暮らしまですべて含めたご提供をしていきたいですね(高橋さん)

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無印良品の小屋の前で一枚。ゆるやかで楽しい小屋暮らしができそうだ。

誰もが憧れる非日常を楽しめる小屋暮らし。ゆるやかに人々が繋がる白浜の地で形になった無印良品の小屋は、これから全国、さまざまな人々の「はじまりの場所」として活躍していくに違いありません。

Text 木村早苗
Photo 関口佳代

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