新型コロナ感染拡大や地球温暖化による災害など、全世界的規模の問題が身近に感じられるようになりました。SDGsという言葉もポピュラーになり、家づくりをする人の意識も変化しているようです。今回は、豊かな自然に恵まれた九州に注目し、「家づくりのいま」を考えます。福岡で活躍する建築士に話をききました。
日本では、地域それぞれの気候風土に合わせた家づくりが行なわれてきました。近年はさらに環境に配慮し、断熱性能やオール電化などにこだわったエコな家づくりのニーズが高まっているといいます。
北部九州は高温多湿な気候が特徴でしたが、近年は地球温暖化が進み、大雨などによる被害も度々見受けられる土地柄です。
福岡「アトリエスクエア」で活躍中の建築士に訊く
今回、お話をお聞きした1級建築士事務所「アトリエスクエア」は福岡を拠点に事業を展開しており、主に北部九州で30年以上に渡り家づくりを行なってきた大ベテランです。
<PROFILE>
代表 大場浩一郎さん
1956年長崎県佐世保市生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部環境設計学科卒業。1985年、アトリエスクエア1級建築士事務所を設立。木造住宅を中心に、病院・クリニックや事務所、ホテルなど、幅広い設計を手掛けている。
新型コロナウイルス感染拡大で変わる家のかたち
SuMiKa編集部:新型コロナウイルスの感染拡大により、家に求めるものが変わったと感じることはありますか?
大場さん:「テレワークをするための部屋がほしい」といった需要とともに、自宅で過ごす時間が増えたこともあり、開放感のある空間を求める方も増えています。ランニングコストとのバランスに配慮しながら施主の想いに応える家づくりを心がけています。新型コロナウイルスは、人々がこれからのライフスタイルについて考え、持続可能な社会をつくるために変わっていく機会となっているのかもしれませんね。
SuMiKa編集部:健康に注目する方には、自然素材の家が人気ですね。
大場さん:私は木造住宅を手掛けることが多く、これまではリーズナブルな価格帯の外国産木材を使ってきました。しかし、今年に入って新型コロナウイルスからの経済回復が進むアメリカや中国での木材需要が増加したことに起因する「ウッドショック」が起こっており、木材の価格が高騰しています。その影響で国産材の価格も上昇。今後の動向をしっかり見ていかなければなりませんが、価格が落ち着いてくれば国産材のニーズは高まるのではないでしょうか。木材の活用は脱炭素にも繋がりますし(※)、国産材であれば輸送コストとエネルギーの削減も可能になります。
SuMiKa編集部:木材は再生可能で、加工に必要なエネルギーも低いカーボンニュートラルな資源の筆頭ですよね。とくに国産木材を利用することで輸送エネルギーをおさえることができるので、注目されています。
注釈※林野庁・国土交通省は❝2050年カーボンニュートラルの実現に貢献するためには、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用を進めることが必要不可欠❞(林野庁ホームページより引用)として、木材利用促進のため法改正を実施し(施行期日:2021年10月1日)。非住宅分野や民間の中高層建築物にまで木材利用を促進し、脱炭素社会の構築をめざす。また法律名を『脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律』と改称し、脱炭素社会の実現を明示した。
環境とともにある「安心できる住まい」
SuMiKa編集部:「安心できる家」が求められています。大場さんが考える安心感とはなんでしょうか?
大場さん:安心感といっても、さまざまな観点があるといえます。その中でも意識しているのは、プライバシーが守られることですね。「開放感のある空間にしたい」「大きな窓がほしい」といったご要望をいただくこともよくありますが、外から丸見えというワケにはいきません。立地条件やかけられるコストなどによって対処法は異なりますが、私の場合は中庭(=守られた庭)を設けることがよくあります。
一方、先日も九州各地で大雨による災害が起きてしまいましたが、自然災害に対しての安心感も求められています。たとえば、箱型住宅の場合、落葉が多いような場所では端から雨樋をつけないこともあります。落葉で詰まってしまい、雨樋の排水許容量を超える雨水が流れ込み雨漏りなどの原因になってしまうからです。施主のニーズや立地条件によって、安心感の内容は変わっていくのではないでしょうか。
SuMiKa編集部:自然や環境と安心できる住まいは密接な関係があるんですね。
高齢化社会に対応する家とは?
SuMIKa編集部:社会問題としては、九州も高齢化は深刻です。
大場さん:人口減や高齢化に伴い日本では空き家が増え住宅が余る「住宅過剰社会」に突入しています。これまでは新築を中心に手がけてきましたが、最近はリノベーションのご依頼も増えてきました。かつて木造住宅の寿命は30年と言われていましたが、近年は技術の向上などにより住宅の高寿命化が進んでおり、新しい建物をつくりつづける「フロー型」から、建物を長期活用する「ストック型」への転換が進んでいます。今後はリノベーションのニーズも増加していくのではないでしょうか。
社会問題に対応するオール電化
大場さん:高齢化社会が進む中で、安心・安全に使えることやランニングコストの安さなどもあってオール電化を希望される施主さんは多いですね。さまざまな情報が簡単に手に入る昨今、施主さんのランニングコストに対する意識が高く、他のエネルギーと比較検討された結果、オール電化を選択される方も少なくありません。デザイン性と機能性の両方を兼ね備えた家づくりが求められています。
SuMiKa編集部:これから住まいづくりをするのであれば、木造やオール電化を選択することで脱炭素社会に貢献できそうです。昨今では、カーボンニュートラルに向け、住宅の省エネ促進も奨励されていますので、実際に選択する人が増えていますね。下のデータは九州のオール電化住宅戸数調査です。2021年3月末で117万戸となっており、約5戸に1戸がオール電化となっているというデータがあります。
九州電力ESGデータブックより(2021年3月公表資料)
大場さんの手掛けたオール電化住宅みかん畑にある平屋「大村の家」
ミニマルに暮らす30代ご夫妻が子どもさんの誕生を機に建てた家です。「モダンでシンプルな家を建てたい」と依頼され、コンパクトで快適性の高い空間づくりを意識しました。限られた予算の中で板張りの天井や使いやすい間取り、オール電化など、施主様の希望を可能な限り叶えることができ、大変喜ばれています。
良い家とは?
大場さんが考える良い家とは?と聞くと、「住宅を設計するにあたっての考え方は、創業時から変わっていません」と言って見せていただいた冊子には、箇条書きでこうかかれていました。
・土地の力を逆らわずに生かした家
・住んでいてそのたたずまいに見とれる瞬間のある家
・風が心地よく通りぬける家
・日差しの移り変わりを楽しめる家
・自分らしい家
・小さくても広くても庭とのつながりのある家
・緑を楽しめる家
・バスコートのある家
・かっこの良い家
・デザインが主張しない家
・くつろげる家
・散らかしてもかたづけやすい家
・のびやかな家(狭くても広がりのある家)
・訪ねてきた友人が思わず長居してしまう家
「このような家にしたいと考え、30年以上設計をし続けています」という大場さん。まず「土地の力を逆らわずに生かした家」とあるとおり、「土地」すなわち、自然や地域などの環境に配慮し、調和する設計を大切にしていることがわかります。そして、風や日差し、緑といった自然を取り入れた心地よい家づくりをめざしているとのこと。もしかすると、このような「良い家」が増えることで環境は守られていくのかもしれません。
4年前に別の建築事務所に勤めていた娘の吉松奈帆子さん(同じく建築士)が入社しました。父娘で経営する事務所は稀なのだそうです。奈帆子さんは子育てをしながら、子育て世代や女性ならではの視点で事業を盛り立てています。
九州愛をもった次世代によりよい環境を引き継いでいきたいですね。毎日暮らす家はその拠点。持続可能な家づくりをはじめませんか。
まとめ
・家時間が長くなり、プライベートと開放感を同時にとりいれた家が求められている
・大雨などの災害に対応でき、安全が守られる家が求められている
・高齢者に配慮した安全な家、住み継げる家の需要が高まっている
・環境に配慮しながらンニングコストも抑えられる家が求められている
取材&文:寺脇あゆ子
撮影:中西ゆき乃
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