ハウスメーカーではなく建築士にオーダーするメリットは、どんなことなのでしょうか? SuMiKaで活躍する建築家のポーラスターデザイン一級建築士事務所の長澤徹さんに施主様とのマッチングと実際のプロセス、そして「いい家とは?」を伺いました。
「イメージ通りがかなわない」施主の悩みに答える
SuMiKa編集部:SuMIKaに「こんな家を建てたい」との応募が立ったのを見て、アドバイスしたのがきっかけで成約に至ったそうですね
長澤徹さん「遠方の方だったので、発注があるとは思ってなかったんです。お施主様が、好みの照明と植栽のイメージ写真をあげていたんですが、照明デザインは大光電機株式会社さんの照明デザイナーが担当された物件であることに気づきました。植栽に関してもお付き合いのある植木職人さんの系譜だとわかりました。」
施主さまは専門家ではないので、イメージがあってもどこにオーダーしていいかわからないんですね
「こういった写真のイメージを頼りに家づくりを考えていらっしゃる施主に対して、照明と植栽担当者を紹介できるだけでもよりイメージに近づくと考えたので、紹介いたしましょうかとご提案しました。実際は土地探しからだったこともあり、しばらくは連絡がありませんでした」
改めて連絡があったのはどういう理由だったのでしょう
「最初にイメージ写真を掲載されていた照明や植栽の物件は、大手ハウスメーカーの分譲住宅のものでした。連絡をいただいた時に伺ってみると、実際にそのハウスメーカーと打合せをして見積りまで進んでいた様です。ただ、紹介させていただいた照明も植栽もうまく提案されていなく、価格も要望に比べ高額だったことで再検討となり、私にも声をかけていただいた様です。私も以前はハウスメーカーに勤務していたので、ハウスメーカーのメリットを理解した上で設計事務所の自由設計やデザイン力に対応してもらえるところを探していらっしゃったのだと思います。」
ポーラスターさんの所在地は埼玉県ですが、建築地は岐阜県なので、遠方の案件ですね
「当初は「近くで探したほうが良いと思いますよ」とお伝えしたのですが、「どのように設計事務所を選べば良いのかもわからないし、実例イメージも近いので、遠方ですが打合せを工夫しながら手伝ってもらえますか」とのことで、結局土地から一緒に探させていただきました。オンラインにも明るいお施主様でしたので、半分オンライン、半分対面みたいな形で打合せを進めました。施主様が金額を比較して理解して頼みたいとおっしゃったので、地元の工務店は三社競合させてもらいました。こちらも土地勘がないし、腕の確かな工務店を選ぶためにも、けっこう調べて声をかけました」
家づくりで工夫されたことやポイントを教えてください
「植栽は栃木県の装景NOLAの長谷川さん、照明は大光電機の高木さん、という普段の私の物件と同じパートナーを提案し、黒田さんのイメージに近付くように努力しました。あとは、遠方なのでメンテナンスや使い方のアドバイスが頻繁にできないことを考慮し、できるだけメンテナンスが少なくすむように、複雑で特殊なことはしないように努めました。家の中にルーバーを使っているところが、うちの事務所の特徴が出ているところでしょうか。上下に風が通ることで重力換気が効果的に行えるように検討しています。吹き抜けからリビングに光と風が通りぬけるようにしています」
竣工して施主様からはどんな言葉がありましたか
「想像していたより明るい」とおっしゃっていただきました。敷地に目一杯に建ち、庭も小さく、窓も一面に固めてある設計だったので、平面図だと窓が少なく見えます。実際には吹き抜けを作って、立体的には窓面積は大きくとってあったんですが、工事中は、もしかすると暗いのではと心配されていました。できてみて納得していただき、こちらとしても安心しました」
途中で施主様の心配にも応えていくんですね!
「そうですね、お施主さんの話はできる限り詳細に伺います。ハウスメーカーに頼むと、営業・設計・工事が3人並んでお施主さまに対応する感じですが、建築設計事務所に頼むというときは、建築士はお施主さんの隣か、お誕生日席に座って、職人との間に立ってお客さんの考えを代弁するという感じです。カウンセラーみたいと言われることもあります」
その中で、建築士としてどのようにこだわりを発揮するのですか
「私自身のこだわりは一切なく、いつも「ふつう」の家が作りたいと思って仕事に取り組んでいます。「ふつう」というのは非常に難しく、毎日「ふつう」のレベルが少しでも上がるように仕事に取り組むことを目標にしているので、他の建築家の方々とは少し違うかもしれませんが、何事にもあまりこだわらない様に心がけています」
施主だけでなく周りにとっても「いいデザイン」を
「建築家」というと、こだわりが強く、アーティスティックなイメージがありますが…
「個人的な考えですが、アートとデザインは分けて考えるべきだと思います。アートは個人の内側から出てくるものを表現していると思っていますが、デザインは常に相手がいて、相手に必要とされて存在できるものです。「課題解決」もデザインのひとつの側面なので、社会に求められることがデザインとしての重要な一面だと思っています」
その観点から、長澤さんにとって良いデザインとは?
「より多くの課題を解決できて、より多くの人に共感してもらえることが『良いデザイン』の条件の一つだと思っています。優れた建築家であればあるほど、住宅を施主のためだけに作っていないはずです。施主に対してはもちろん、周辺、広く捉えると世の中に対してこの住宅が見られている意識で作っているはずです。施主がいいと思うのは最低限あたりまえで、施主の家族、近隣の人、街、良いと思う人が増えるほど『いい家』であるとも言えるかもしれません」
グッドデザイン賞を2回受賞されていますが、応募したのもその意識からですか?
「そうですね、自分のやっているデザインが、果たしてきちんとデザインなのか?方向性はあっているのか?という確認のために、応募しています。2回ほど受賞できたという意味では、最低限自分がデザインという仕事に関与できる確認はできたのではないかと思っています」
ありがとうございました!
SuMiKaには個性豊かな建築家がたくさんいます。建てたい家にぴったりの建築家とのご縁がありますように。
取材:SuMiKa編集部
写真提供:ポーラースターデザイン