兵庫県の篠山で野澤さん夫婦が自分たちの生き方を見つめ直し、たどり着いた「住まい・店・工房」が三位一体になった暮らし。
漆・木工作家 野澤裕樹さん
のざわゆうじ デザイン集団・grafに立ち上げから参加。2011年独立し、兵庫県の篠山に工房『poncrafts』をオープン。設計活動をする奥さまの香織さんと共に『居七十七』(いなとな)を開店。http://poncrafts.com/home/inatona
text_ Aki Miyashita photograph_ Yasunori Shimomura
兵庫県の篠山に移り住んだのは5年前、大阪のデザイン集団「graf」で、野澤裕樹さんが家具職人、奥さまの香織さんが設計デザインをしていたときだ。
「毎日が忙しくて、家では寝るだけ、起きれば仕事のことばかり考えている、せかせかした生活を送っていました。暮らしに携わる仕事をしているのに、自分たちの生活は蔑ろにし、想像で理想の暮らしを形作っている気がして、ずっと違和感があったんです。二人とも山が好きだったので、自然の中で地に足をつけて暮らしてみようと思いきりました」(裕樹さん)
通勤には往復で4時間。本を読み、考え事をする間に、スイッチがオンからオフに切り替わる、「この時間がかえってプラスでした」と裕樹さん。ずっとやってみたかった木工旋盤にも取り組み始め、その魅力に目覚め、出来上がった小物をお店で扱いたいという想いから、独立につながった。選んだ場所は、篠山ののどかな集落に建つ、昭和30年代築の一軒家だ。
「間取りから、住まい、工房、店が一体になった、僕らの望む暮らしが想像できたんです。費用はかけたくなかったので、自分で改装できる程度の古さだったことも決め手でした。今もぼちぼちと手を入れながら暮らしています」(裕樹さん)
朝から工房でひと仕事して開店準備、再び工房で日が落ちるまで作品作り。香織さんは設計デザインの仕事をしながら、お店番。好きなことに打ち込む、健やかな毎日だ。
「制作で使う漆は機械を使わず自然乾燥させているので、乾くまで24時間態勢。仕事が終わったらお風呂に入り、それから漆の状態をチェックして、夕食。仕事と暮らしにきっちり線引きするのではなく、一緒にある。昔の商店ってそうですよね。この形が僕には楽なんです」(裕樹さん)
気分が乗らないときは早めに切り上げ、友人らと会い、気持ちを切り替え、次の日また頑張る。自分たちにちょうどいい速度で時間が進む。
「木工は手加減が重要。作品になる、ならないが一瞬で決まってしまうところがあって、そこが面白い。以前は急な用事や誘いで仕事が中断することも度々でしたが、今はペースを乱されず、自分の中にぐーっと入り込んで集中できる。本当に自分に合っていると思います」(裕樹さん)
店の改装を優先し、住居の改装はまだまだこれから。とはいえ、仕事も暮らしも、十分に豊かだ。