そのときそのときの興味や着想によって生み出される作品のように、生活と住まいと環境とが綿密に関わりあい、変わっていく住まい。
造形作家 大西伸明さん
京都市立芸術大学大学院美術研究科版画修了後、2003年から活動開始。植物や日用品などを題材にした版画作品や立体作品を創作。2012年9月27日~11月4日まで岡山県立美術館での企画展に出展。http://nobuakionishi.com
photograph_ Yasunori Shimomura

ダイニングキッチン。リビング、両親の生活空間も同じく切妻屋根型の天井を持ち、住居内は3つの小屋が並ぶような形でできている。

アトリエの2階から1階作業場を見下ろす。外壁は透明の波板ポリカーボネートで、内部は断熱材の上に防湿シートを張った状態。
琵琶湖を見下ろす山の中腹にある住宅地。空と緑に囲まれた環境に建つ、切妻屋根のふたつの小屋型の建物。ひとつは両親と二世帯で暮らす住居、もうひとつは作品づくりのためのアトリエで、造形作家の大西伸明さんが建築家の島田陽さんに設計を依頼して建てたものだ。

左/切妻屋根の建物が並ぶ。手前の棟がアトリエ、奥の住居棟は2つの切妻屋根の建物がつながった構成。
右/アトリエで使う工具は固定位置に収納できるように、道具の型をとって合板にステンシルした。
「趣味の釣りに出かけて蛍を見かければ、『これ作品につかえるかも』と思うし、毎日何かを思いついたり、何かつくるなりしていますね。興味が赴くままに創作しているので、そのときつくっているものに合わせて、必要な空間も変わっていく。そういう使い方を許容してくれる空間を求めていました」(大西さん)
以前は住居とアトリエを別に構えていたという大西さんだが、それを一箇所にすることも、ふと思いついたときにものづくりに取りかかれる環境を求めての選択だった。

玄関とダイニングキッチンの間に設けた、グラフィックデザイナーの奥さまの仕事場。
「アトリエと住居を二棟に分けたのは、作品づくりの際に音やにおいが発生するためと、ふたつをまとめると建物が大きくなり、周辺の風景に似合わない。寒い冬に備えた温熱環境と必要最低限のサイズから、建物の形を導きました」(島田さん)
透明ポリカーボネート波板で覆われた棟は、吹き抜けで上下階がつながったアトリエ。内部は断熱材の上に防湿シートを張った構造材が露出した状態で、外観同様に小屋のような佇まいだ。一方の住居は、2階の個室をつくる壁を斜めに立ち上げて小屋型の空間を成した、ダイニングとリビングが連なる構成。正方形に切り取られた開口から出入りする2階はラワン合板の素地仕上げで、屋根裏のような雰囲気だ。

アトリエの2階にはソファやオーディオを置いてセカンドリビング的に使用。床は無塗装の構造用合板で、いかようにも手を加えられるようになった空間。

住居2階の寝室。傾斜した壁は丘のような床でもあり、その上に屋根裏がある。2階の空間を広げて、1階の吹き抜け容積を狭める目的もある。
「予算の関係から収納がつくれなかったのですが、いろいろなものが表に出てきても許容する空間にするために、1階の床はモルタルで、壁天井は白く仕上げました。アートギャラリーと同じインテリア構成にすれば、それらに馴染みのある大西さんなら、うまく“展示”してくれるだろうと思って」(島田さん)


ダイニングからリビング方向を見る。2階の壁を斜めに立ち上げ、屋根のような天井に。
また、大西さんは、後から自分で手を加えられるようにと、入手しやすい3×6板のスケールで空間を構成してほしいとも要望。実際、大西さんは収納を作ったり、自作スピーカーをリビングに置いたりと、自由にアレンジして住みこなしている。日常から着想する作家の尽きない創作意欲を受け止める空間は、生き物のように変化を続けるのだろう。
左/庭に面した浴室はガラス張りになっており、両親の生活空間への通路も兼ねる洗面室に採光。
右/釣りのほか、音楽鑑賞も趣味という大西さん。板にコーンを取り付けたスピーカーは自作。

波板越しに採光する明るいアトリエ。アトリエも住居も基礎蓄熱型床暖房を採用している。

Yo Shimada

島田 陽 1972年 兵庫県神戸市生まれ。95年 京都市立芸術大学環境デザイン科卒業。97年 同大学大学院修了。99年 タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所設立。
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