キッチンやベッドまでワンルームに収めたミニマムな生活空間と、茶道を嗜む非日常空間の茶室。両極の対比が豊かさを生む。
text_ Yasuko Murata photograph_ Kai Nakamura
設計士 福永太郎 さん
ふくながたろう 建設会社に勤務する一級建築士。企業の研究所や工場などの設計を手掛ける。ハワイや新潟などでの勤務を経て、現在は東京在住。学生時代から嗜むという茶道歴は20年におよぶ。
建設会社の設計士として、企業の研究所や工場などの設計を手掛ける44歳の福永太郎さんは、茶道歴20年。自宅に茶室をつくりたいという希望から、築37年、79㎡のマンションをリノベーションし、奥さまと2人で暮らしている。設計は友人である田建築研究所の田中秀弥さんに依頼。大まかなゾーニングを福永さんが考え、3LDKだった間取りを、キッチンからベッドコーナーまでワンルームにまとめたコンパクトな生活空間と、洗面室とトイレが浴室への通路を兼ねる水まわり、綿密な収納計画が練られたクローゼット、茶室に生まれ変わらせた。
「三角形のような平面形状が面白い住戸でした。南側のもと和室を活かし、ちょうど良い広さの茶室がつくれそうだとイメージできました。北側の窓のない個室もクローゼットとして使おうと、ゾーニングはすぐに決まりました」(福永さん)
居室の壁はコンクリートの躯体を白く塗り上げ、床は杉の無垢フローリング、造り付けの収納や建具には、濃い茶色で木目を残しながら塗装したシナランバーコアを用い、ざっくりとした質感と落ち着いた色合いでまとめている。一方の茶室は、炉を組み込むため小上がり状になっており、3畳分の畳を敷き、ベランダ側の窓には障子戸の付いた二尺二寸のにじり口を設けた。もとは押し入れだったスペースは掛け軸を飾る床の間。コンクリートの躯体を無塗装で現しにして、接着剤の痕跡もそのままの状態で残した床の間は、整然とした茶室の佇まいに武骨さを加え、アンバランスな魅力を醸している。
「どこまで手を加えるかは、常に悩みました。始めは見た目の格好良さを重視していたのですが、家づくりを進めるうちに、本質的な居心地の良さが大切だということに行き着き、手を加え過ぎず、素材自体の良さを引き出すことを考えるようになりました。古いものと新しいものを組み合わせて空間をつくっていく作業は、とても楽しかったです」(福永さん)
限りある面積の中、南側の一番良い場所に趣味の空間を設けることは贅沢ではあるが、このような非日常空間があることは、必要最低限に抑えた生活空間での暮らしに、感覚的な奥行きを生みだしている。それは、最低限の広さと採光による演出を施した小空間の中で、茶事を通じて客人と亭主の世界を広げていく、茶道の概念にも似ている。
〈所在地〉東京都練馬区〈居住者構成〉夫婦〈建物規模〉地上6階建て(4階部分)〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈建物竣工年〉1975年(築37年)〈専有面積〉79.8㎡〈バルコニー〉6.25㎡〈設計〉一級建築士事務所 田建築研究所〈施工〉アイエスエー企画建設〈施工期間〉3ヶ月〈竣工〉2012年
Hideya Tanaka
田中秀弥 1966年 京都府生まれ。90年 京都大学工学部建築学科卒業。92年 京都大学大学院修士課程修了。92~98年(株)栗生総合計画事務所。98年 一級建築士事務所 田(でん)建築研究所設立。2009年 千葉大学非常勤講師。
一級建築士事務所 田建築研究所
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※この記事はLiVES Vol.65に掲載されたものを転載しています。
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