建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
暮らしのものさし
2014年10月30日

未来の暮らしのヒントは「エクセルギー」!?建築家・黒岩哲彦さんに聞く、太陽熱や雨水、風の力を活かす暮らしかた


「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。
※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。


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晴れた真夏日。都心ではビル壁や冷房の廃熱、コンクリート熱で気温が上がり、どのビルでも窓を閉め切って冷房を入れるのが当たり前の光景です。ところが同じような気温でも、田舎の緑に囲まれた古いつくりの家では、開け放した窓からすっと冷たい風が入って快適〜なんて思いをしたことはありませんか?

3.11以降、原発に頼らない暮らしを求めて、多くの人が自家発電や節電などさまざまな試みを始めています。今回私たちが出会ったのは、それらとはまた違う新しいエネルギーの考え方。

そもそもエネルギーとは、電気の話ばかりではない、という発見でした。太陽熱や雨水、風など自然界にはさまざまなエネルギーが存在していて、使い方によっては役立てられる力(資源生)をもちます。これを“エクセルギー”と呼び、電気に頼らない快適な暮らしを提唱しているのが、建築家の黒岩哲彦さん。

この考え方に基づいてつくられた、武蔵小金井のエクセルギーハウス「雨デモ風デモハウス」へ鈴木菜央さんと共にお邪魔して、詳しく教えていただきました。

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武蔵小金井の駅から歩いて10分ほどの場所にある、エクセルギーハウス「雨デモ風デモハウス」。

家で使うエネルギーの約6割は、電気ではなく“熱”だった

イメージを持っていただきやすいように少し例え話をすると、暑い夏の日に突然雨が降ったとします。じりじりとヒートアップしていたコンクリートに、ざぁっと雨が降ってあがると、雨水が蒸発する際にコンクリートが冷やされてすっと涼しくなることがありますよね。

こんなふうに雨水で家の天井裏をひんやりさせたり、冬は太陽熱であたためて暖房として使ったり、給湯にしたり…といった、自然の力を活用する装置があるのがエクセルギーハウスです。(正確にはほかにも色々あるのですが、それはまた追って)

太陽や風を使うといっても、風力発電やソーラー発電のように“電気をつくる”ことではありません。

エネルギーといえば、すぐに電気の話になりがちです。市民発電なども悪い話ではないけれど、まずは、そもそもエネルギーとは何かを考え直す必要があるでしょう。

というのも、電気は、エネルギーのひとつの姿にすぎない。エネルギー消費という言葉がありますが、正しくは、エネルギーは消費して減ったりなくなったりするものではないんです。

例えば光エネルギーの一部が熱エネルギーに姿を変え、その残りが電気エネルギーに姿を変える。変換されることはあっても、その総和が変化することはないのです。エネルギーはゼロからつくり出すことのできないもので、本来は「創エネ」といった言葉は適切ではありません。

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一級建築士であり建築家の黒岩哲彦(あきひこ)さん。

最近ではよく見かけるソーラーパネル(太陽光電池)も、太陽エネルギーから電気をつくるもの、と考えられていますが、実は太陽エネルギーが電気エネルギーと熱エネルギーに姿を変えたもの。

しかも10の太陽エネルギーが電気エネルギー2と熱エネルギー8に。電気と同時に熱もできていて、大気中に放出されているのです。

そこで、こちらの図です。一年間に一般家庭で使われるエネルギーの平均値を使用用途別に表したもの。
 

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<図1>家庭の電気使用の内訳。家庭で使うエネルギーの用途別割合(出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2014』)

これを見ると、部屋を冷やす冷房、暖める暖房、水をあたためてお湯にする給湯、調理加熱するための厨房と、熱に関する割合が全部で約62.6パーセント。そのほかの家電製品や照明など、電力として使うエネルギーが37.3パーセントです。

つまり、家庭でつかわれるエネルギーの約6割が、室内や水を冷やしたり暖めたりする「熱」関連のもの!熱を得るために、私たちはガスや石油、電気でまかなっていますが、その電気をつくるのに大量の熱を捨てている…という矛盾に陥っています。

わざわざ電気にせずとも、熱は熱で!

だからこそ、黒岩さんは「熱は熱で!」を提唱します。これは東京都環境局のエネルギー施策のひとつでもあるのだとか。

太陽から降りそそぐ太陽エネルギーを10としたときに、太陽光電池で電気エネルギーとして取り出せるのは今のところ2割です。それに比べて、太陽熱温水器(*1)で熱エネルギーとして取り出せるのはすでに7割。

電気に変換するのは、むしろ効率が悪いということですね。今放出されてしまっている熱エネルギーを、そのまま熱として活用できる方がいいと思いませんか。

(*1=かつてお風呂にお湯を供給するものとして普及したことがあるものの進化版)

熱を無駄に捨てているのは、家庭に限ったことではありません。こちらの図を見てみてください。
 

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<図2>発電所に投入される資源と私たちが使える電気。7の熱は捨てている。(資料「エクセルギーハウス」黒岩哲彦)

火力発電所や原子力発電所が海の近くにつくられることが多いのは、燃料を運びやすいという理由もあるけれど、発電の際に出る高熱を海で冷却するためでもあります。

この図が表しているのは、10の資源を投入した際には、7の熱を捨てて、3の電気をつくっているということです。

仮に福島の原子力発電所をひとつ利根川の傍に持ってくるとしたら、利根川の水温が10度あがると言われるほど、大量の熱を放出しているのが発電所です。今わたしたちは一生懸命に効率の悪いことをしていて、ムリに電気を使うようにしているのです。

この考え方がすでに浸透しているデンマークなどでは、電気による煖房を使うことは無駄が大きすぎるため、法律で禁止されているのだそう。日本にも、ゴミ処理場の熱をつかった温水プールなどありますよね。

一般家庭でも、今ただ放出されている熱や水などのエクセルギーをうまく活用する。そのためのさまざまなしくみを設けた家が、エクセルギーハウスです。そのモデルハウスがあると聞いて、さっそく伺いました。
 

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「NPO法人グリーンネックレス」が提案し、小金井市のプロジェクトの一環としてつくられた「雨デモ風デモハウス」。

エクセルギーハウス「雨デモ風デモハウス」ってどんな家?

武蔵小金井の駅から歩いて10分ほどにある「雨デモ風デモハウス」を訪れたのは、梅雨も終わりの蒸し暑い日。到着する頃には汗が出るほどでしたが、家のなかへ入ると、空気がひんやりしています。

「これでもエアコンも何も入ってないんですよ」と、黒岩さん。この快適さの秘密は、床・壁・天井の温度にありました。

「今、この部屋の気温が25.8度です。それに対して、壁や床、天井の温度はどうなっているかというと…」黒岩さんが手にした特殊な温度計でぴっと壁に照準を合わせると、その面の温度を測ることができます。すると、壁が24.5度、床が24.2度、天井が22.8度、と室温よりも低いことがわかりました。
 

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手にしているのは面の温度を測ることのできる特殊な温度計。

この快適さの秘密は、床や壁面の温度にあります。室温が高くても、冷えた面に囲まれていると、私たちの身体にかかる負担は少なくて済み、快適に過ごせます。体で感じる温度と、空気の温度は違う、ということです。

冬はこの逆。空気の温度より、床壁天井の面の温度が少しでも高ければかなり暖かく感じます。実際にこの施設では、室温18度、面の温度21度くらいで、冬の間、快適なカフェとして機能してきました。

この面の働きを別の言葉で言えば、夏は冷たい面から冷放射という目に見えない冷エクセルギーの散らかり現象であり、冬は暖かい面からの温放射というエクセルギーの散らかり現象。つなりエクセルギーをうまく活用するしくみによるものなのです。

ここ数年の真夏のように、外気温が35度を超える猛暑になると、さすがに快適では居られないそうですが、一年を通しておおむねエアコンなしで快適に過ごせます。では、どうやって床、壁、天井の面の温度を調整しているのでしょう?雨デモ風デモハウスの機能を、4つのポイントに分けてご紹介しましょう。

<ポイント1> 雨水と風で、天井を冷却

まずは、天井や床を冷やす話から。活躍するのは雨水です。落葉で詰まらないように工夫され、きれいな雨水だけを採集できる雨どいを通して集められた雨水は、床下の放熱タンクに貯められます。その量なんと3トンも!ここに一年中雨水を貯めておき、夏は冷却用に、冬は太陽熱で温めて暖房として利用します。
 

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黒く見えるのが、雨水を貯めたタンク。床の小さなガラスから覗くことができます。

天井と屋根の間には、屋根裏部屋のような空間、空洞があり、夏は雨水をポンプでこの天井裏へあげて、天井の板の上に敷かれた布を均一に湿らせて冷やしています。

天井裏に窓が付いていて、風が吹き抜けます。その風によって湿った天井上面から蒸発が起こり、蒸発冷却現象が引き起こされて、天井面の温度が外気温より5度ほど低くなるのだとか。この冷たい天井面から放射される冷エクセルギーによって、室内が冷やされます。
 

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天井裏へのぼると、涼しい風が。

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奥は天井裏に風を通すための窓。下が天井上に敷き詰めた布。雨水でまんべんなく湿らせている。

<ポイント2>太陽熱で雨水を暖めて…暖房と給湯に!

さらに冬は、この床下タンクの水を、太陽熱で温めます。

ポンプで屋根にあげた水は、屋根の上に並ぶガラスのチューブに入り、太陽熱で温められます。(このしくみが太陽熱温水器)。

床下の水は、秋までにたまった雨水ですが、冬の間はそれ以上雨水は入ってこないようになっています。屋根の上でできたお湯が再び床下へ戻ると、床下のタンクが暖かさを保ってくれ、床面を温めます。その床面から放射される温エクセルギーによって、室内の壁や天井面を含め、室内が温められるしくみです。
 

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このモーターポンプで、床下に貯めた雨水を屋根の太陽熱温水器や天井冷放射パネルへあげる。

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屋根上のチューブが、太陽熱温水器。太陽の光で温水をつくる。

熱を上手に集めてくれるのが水です。雨水ならタダ。太陽熱を吸収させて床下から、さらに床面から、その熱をゆっくり散らかしてゆく。これが暖房機能です。

太陽温水器では、年中キッチンや浴室で使うお湯もつくっています。温度が足りない場合は、ペレットを燃やしたストーブで補います。

<ポイント3>窓の位置が大事

先ほどのべた天井裏のように、どの位置に窓を設けるか、がエクセルギーハウスにとっては大切。風の流れをよんで、風が入りやすい方向に窓をつけます。
 

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夏になるとずっと開け放しの、天井裏に風を通すための通気窓。部屋の中からは見えない。

また、太陽の軌道を考えると、なるべく窓は東と西には付けないほうがよいのだそう。エクセルギーハウスでも初期の設計では西面に窓が付いてますが、今は塞がれています。「この窓がひとつあることで、夏に1.5kwのデロンギをつけているのと同じくらい、暑いんです!」。
 

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西の窓は、夏の間は塞いでいる。

<ポイント4>生態系の見える水路。緑と生態系

さらには、家の周りに水路が巡らされていて、生き物によって排水を浄化するビオトープがあります。水路に流れ込むキッチン排水にもエクセルギー、つまり使える力があるということ。

合成洗剤を使ってさえいなければ、排水の汚れは生き物にとっては立派な養分となり、ドジョウやタニシ、マコモダケ、稲などの植物が育っています。ドジョウやタニシが汚れを養分として集め、吸収するので水が浄化され、浄化された水には黒メダカや山椒藻といった絶滅危惧種が生きています。家の周りに、目に見える生態系が存在しているのです。
 

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家の周りを囲む形で設置されたビオトープ。排水の出てくる辺りのほうが養分が多いため、マコモダケの成長がよく背が高い。

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浄化された水には、黒メダカや山椒藻といった絶滅危惧種も生息している。

黒岩さんに聞く。改めて、エクセルギーって何ですか?

エクセルギーとは、物理学では「広がり散らかしを引き起こす力」という意味ですが、ここでは概念的に、エネルギーの“質”、資源性のことを指しています。

エネルギーそのものは減らないと先ほど説明しましたが、エネルギーの有効に働く能力は、放っておくと減ってゆきます。その有効な能力部分を数値で表しがのが、エクセルギー。つまり“使えるエネルギー”のことを“エクセルギー”と言っているのです。

見てきたように、「雨デモ風デモハウス」にはうまく雨や風、太陽熱を利用する設備がそなわっているので、家でつかわれる電量(冷房、煖房、浄化、給湯に使われる)は、たったの300Wでまかなわれています。
 

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黒岩さん手づくりの操作板。これで冬仕様と夏仕様の切り替えを行っている。

けれど、身近にあるエクセルギーは、雨風、太陽の光に起因するものだけではない、と黒岩さん。

雨水や太陽熱を利用するための設備を取り入れれば、すぐに心地よい居住環境が得られると思っている人が居ますが、そうではない。やはりその土地に応じた建物の基本が必要ですし、活用できるエクセルギーは隣の土地や周囲の環境、住む人の生業によっても、さまざまに考えられます。

例えば雪の多い地域では、冷凍庫代わりになる雪が立派なエクセルギーをもっていますし、農業を生業にしていれば、堆肥から温エネルギーが散らかっていて、これも煖房などに使えるかもしれない。あなたの家、あなたの求めることに応じて身近に使えるエネルギーは色々あるはずなんです。

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リクエストに応じて「雨デモ風デモハウス」でエクセルギーハウスの詳しい説明を行っている黒岩さん。

これまでに黒岩さんが設計を手がけたエクセルギーハウスは全国各地に12棟。それぞれ異なる、住人の暮らしや自然環境などを分析して設計をしてきました。具体的にはどんなことが考えられるのでしょう。

この後、これから新しい暮らしを始めようとしているgreenz代表・Co編集長の鈴木菜央さんの家を題材に、取り入れられそうなエクセルギーの話を伺う予定です。

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