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暮らしの職人たち
記事作成・更新日: 2014年10月31日

「任せてもらったからには、驚きを与えるものをつくる」[暮らしの職人たちVol.1 クールな“アメリカンアンティーク系” 大工 松本吉博さん(前編)]


神奈川県横浜市に、口コミで依頼を集め続ける工務店がある。その代表である松本吉博さんは、デザイン・設計から設備関連、施工までを手がけるスーパー職人。アンティークパーツを活用したオリジナルの家具も界隈では人気が高い。仕事の丁寧さはもちろん、気さくな人柄で地元の人々にも頼りにされる存在。そんな松本さんに、自らの仕事について語っていただいた。


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「その空間にとってベストな家具や設えを」

 神奈川県・青葉台にある松本工務店の二代目、大工の松本吉博さん。過去の仕事の大半が口コミ。そのセンスに信頼を置き、予想を超えるデザインと仕上がりを期待する「おまかせ」の依頼主が大半だ。無骨さのあるアメリカンアンティークが得意という印象のためか、男性の依頼主が多いという。

 内装の仕事は、工程の中で変更やよりよい方向に向けた修正が行われることも多い。だが、職人である松本さん自らが打ち合わせを行い、設計を手がけることため安心感がある。家具を置きたいという場合も、造作家具にして通常の家具より値段を抑える工夫や提案をするノウハウも持っている。設計・施工知識や伝統的な修行に裏付けされた大工技術がなせる技だ。

「壁紙ひとつでも、何千種類からその空間に合うベストな物を選び出す自信があります。任せてもらったからには、その人を驚かせるものをつくらないと。そこを自分のモチベーションにしている所はありますね」

 そんな仕事の片鱗が見えるのが、事務所の入口付近に設えられたアンティーク調の造作家具。本棚と一体になった幅3メートルほどの書き物机だ。

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 細かな面を削って仕上げた後に数種類のオイルステインやワックスを塗り重ね、アンティークの質感を再現している。さらに年代物のパーツも使うことで、本物のアンティーク家具と遜色のない仕上がりに。100年前のアメリカのロータリーチェアを対に置いても、違和感なくなじんでしまうほどだ。

「これ、人気があるんです。高くて買えなかったアメリカのアンティーク家具を参考につくってみたんです。作りつけだから移動はできないけれど、アンティークより安価に、ご希望のサイズで制作することが可能なんです。ここまでやる職人はなかなかいないんじゃないかな」と笑う。アンティーク好き、道具好きならではのこだわりが垣間見える一品だ。

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書き物机の細部。丁寧に面取りして細工し、異なる種類のオイルを塗り重ねている。年代物の引き手パーツを用いることで、新しい造作家具にアンティークの質感がプラスされる。

大工の仕事にかける思い

 若い頃は設計の専門学校に通い、設計事務所にまで内定をもらっていたが、いつの間にか大工を志していたという。20代は大工として修行する一方、知人からの家具制作や内装の依頼も受けていた。

 独立は30歳の頃。ゆくゆくは継ぐであろう工務店の運営には、技術だけでなく経営の知識も必要だと考え、建築事務所「HAPTIC WORKS」を設立した。原宿や渋谷、代官山を中心に美容室や飲食店などの内装、家具などを多数手がけてきた。

 その後家業の工務店を継いで現在に至る。都心での仕事に加え、地元から依頼されることも増えた。「2代目もしっかりやってるな、という所を地元の人に見せないとね」と語る松本さん。

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工務店の中から入口を見る。向かって右側に工具、左側に作品が整然と配置されている。入口右手のヨーロピアンなドアは進行中の案件で使う予定。

 設計や現場管理者と職人が別というのが当たり前のリフォーム業者では、予期せぬ変更があった時など特別な対応が必要になることも。事前に素材や配管などすべてを把握してから行う工務店の仕事とは「もはや業種が違う」と感じるという。そんな業界だからこそ、かつての自らの事務所でも、家業である工務店でも、依頼主の期待以上のものづくりをスムーズに行えるよう心がけてきた。

「でも、仕事が一通りできるというだけで、一人前かどうかは未だにわからないです。カンナがけの技術ひとつでも、上には上がいるんですよ。以前、お寺さんの修復の手伝いに行った時、僕がカンナがけした所を棟梁がかけ直しているのを見た時は悔しかったな。刃物にはかなり自信があるほうなんだけど…」

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 そんな技術の基礎になった修業時代の3年間は、師匠の技術をひたすら盗み、家づくりを叩き込むことに費やしたと振り返る。5年目にはようやく仕事が楽しいと思えるようになった。ライバルであり仲間でもある同僚たちの刺激も相まって、さらなる技術の向上に取り組む意欲が出たという。

 だが、そんな修行と成長の場だった現場も、近年は効率と質の平均化を狙った工法が重視され、変化が起こっているという。工期は短くなったが、若い大工の思考力や技術を低めつつあるのでは、とその未来を憂う。

(後編に続く)

text: 木村早苗 photo:伊原正浩


プロフィール


松本吉博
株式会社松本工務店 代表。専門学校卒業後、大工に弟子入り。9年間の修行後、HAPTIC WORKSを設立し、主に都内で店舗内装を中心に活躍(現在閉鎖)。2013年に家業の工務店を継ぐ。

株式会社 松本工務店
m-woodworker.co.jp/

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