神奈川県横浜市に、口コミで依頼を集め続ける工務店がある。その代表である松本吉博さんは、デザイン・設計から設備関連、施工までを手がけるスーパー職人。アンティークパーツを活用したオリジナルの家具も界隈では人気が高い。仕事の丁寧さはもちろん、気さくな人柄で地元の人々にも頼りにされる存在。そんな松本さんに、自らの仕事について語っていただいた。後編では、松本さんの仕事を支える道具も紹介する。(前編はこちら)
手仕事の道具と背景が見えるパーツ
事務所には、あらゆる所にアンティークの照明がつり下がり、手入れの行き届いた道具が整然と置かれている。一見インテリア雑貨のようだが、照明は照明として機能し、工具には使い込まれた跡が見える。
「手仕事や道具が好きなんです。カンナやノミ、砥石にいいモノがあると聞くとすぐ欲しくなっちゃう。見た目ただの石なのに何万もするんで、経理をやっているカミさんによく怒られます。機械工具も好きですね。使う前には下準備して、整備もこまめにします。アンティークパーツなど、ルーツが見える物も大好きです」
アメリカのフリーマーケットに自ら赴いて探すこともある。実は、アンティークパーツや金物を集めたショップを開く夢もある。
家のプロ「工務店」の底力を知ってほしい
工務店を継いでから、地元との関わりに学ぶことも多い。昔なら請けなかったと思うようなお客さんもいるが、そんな人の心をいかに引き寄せ、仕事をもらえるかを考えることも必要だと考えるようになった。また詐欺まがいの修理営業があることを知り、家のプロとしてその被害から地元の人を護らなければ…と責任も感じている。
「家に関わる小さな仕事をどこに頼んだらいいのかな、と思った時に、工務店を思い出してほしいんですよね」
昨今増えてきたDIYによるリノベーションについても同じ。設備面や安全性、近隣に配慮した作業準備など、職人には全工程を把握できる強みがあるという。
住宅は、その適正価格を知ることが特に難しい業界だ。そのため、リノベーションや大規模リフォームなどの成功は、信頼できる依頼先を見つけられるか否かが重要なポイントになる。値段だけで選ぶと、「こんなはずじゃなかった」という結果にもなりかねない。
事務所の隣にある作業場には、さまざまな木材加工の機材が並ぶ。リフォームであれば、元々ある壁や柱、梁をできるだけ活かすべく、適切な部材をつくる所から始まるのが工務店だ。もしバスルームの敷居が壊れたとしても、必要な箇所だけを修繕することができるという。
「僕はデザインや設計もし、職人として現場作業も行うので、何にどれくらいかかるかわかります。なので、それは必ず明示します。クライアントさんの意向で制作する物を増やさない限り、追加料金をいただくことはありません。ものづくりって値段だけじゃ測れない部分がすごく多いです。長い目で見れば絶対にそのことを実感してもらえると思うんですが…」
毎日を過ごす家に、プロの技術とセンスを
松本さんが手がけたリフォームの最たる例が、事務所から10分ほどにあるご自宅だ。地元に位置する年代物のデザインマンションを購入し、3年前に内部を全面的に改装している。入口の壁を抜いてワンフロアにしたほか、リビングに設えたアンティークのマントルピース、グレージュ系の3色にまとめた壁面、キッチンや洗面台など細部にもこだわりがある。
ある程度形になった現在は、暮らしの中で必要だと感じれば造作を加えるなど、お子さんの成長や家族の生活時間の変化に合わせながら手を入れているという。さすが職人と言おうか「家にプロの技術やセンスを融合し楽しむ暮らし」が体現されている。その空間で、「自分の仕事に対するこだわりってなんだろうな、と考えていたんです。『目に見えない所まで手を抜かないで、きれいに仕上げること』かなと。でも、そんなことは当たり前ですよね」と松本さんは語った。
正直な気持ちでものづくりに、依頼主に向き合う職人。そんな心意気の人がつくる家具や設えは、宝物となってくれるに違いない。
text: 木村早苗 photo:伊原正浩
松本さんの愛用品
いくつもの鉋が工具箱に並べられている。「いい鉋は地金が全然違う」のだそう。
プロフィール
松本吉博
株式会社松本工務店 代表。専門学校卒業後、大工に弟子入り。9年間の修行後、HAPTIC WORKSを設立し、主に都内で店舗内装を中心に活躍(現在閉鎖)。2013年に家業の工務店を継ぐ。
株式会社 松本工務店
m-woodworker.co.jp/