相模原市藤野町の山里、綱子(つなご)。この集落は家が11軒しかないという、藤野の隠れ里です。
自然豊かで湧き水が美味しい“綱子”に8年前に移り住んだアーティストの傍嶋飛龍さんは、自宅を限りなくオフグリッドハウスにして、万華鏡ワークショップを開催。さらに時折、自宅でバーを開きながら、廃材でエコヴィレッジをつくり、限界集落に地域通貨を仕掛けようとしている人。
いったい何をやっているのか一口には説明がつきそうもない傍嶋さんですが、市町村合併のように、小さくなると“統合”されていくこの社会で、あえて広げずに、“極小サイズ”にこだわって持続可能な里山コミュニティをつくろうとしています。
そのやりかたは、独創的でなんとも大胆!
「地域活性とかじゃなくて、まあ、遊びだね」と言う傍嶋さんの、ゆるくて熱い“遊び”を、ぜひみなさんにも知ってほしいと思います。
傍嶋飛龍さん
画家、万華鏡作家、超音楽的お遊び集団じゃねんず団長、禅タロット占い師、廃材エコヴィレッジ村長とマルチに活躍しているアーティスト。「一日一生」をモットーとし、自分らしく生きることに日々奮闘している。
集落まるごと、エコヴィレッジに
自宅から徒歩1分ほどの廃工場を購入し、リノベーションをして「廃材エコヴィレッジ」をつくろうとしている傍嶋さん。その様子を見に、greenz.jp代表・Co編集長の鈴木菜央さんと一緒に、現地を訪れてみました。まずはその計画を紹介しましょう。
“エコヴィレッジ”とは、都会でも田舎でも、お互いが支え合う社会づくりと環境に負荷の少ない暮らしかたを実践するコミュニティのこと。傍嶋さんは、集めた廃材で廃工場をリノベーションして、そこに人が集まる場をつくろうとしています。“エコ”なリノベーションの事例を挙げてみると以下のとおり。
・電気はソーラーとバイオディーゼル発電
・照明は廃油ランプとソーラー発電のLED照明
・キッチンとお風呂は薪でロケットキッチン、五右衛門風呂
・水は地域の美味しい湧き水と、すぐ脇を流れる沢からの汲み上げ
そしてリノベーション後は、シェアハウス(なんと家賃は15,000円もしくは地域通貨ゆーるでの支払いも可)とゲストハウス、さらにショップやシェアアトリエなど、コミュニティスペースとして使われる予定です。
「廃材エコヴィレッジ」とも「オフグリッドエコヴィレッジ」とも言えるこの施設では、いわゆる“お金”は使えません。お金を「地域通貨ゆーる」に交換するか、物々交換で買い物ができるのです。
この「地域通貨ゆーる」は、11軒という集落でしか使えない通貨なので、傍嶋さんいわく“極小地域通貨”とのことですが、お米や野菜など、生活に必要なものを手に入れることができる予定です(現在、試運転中!)。
そして「廃材エコヴィレッジ」をつくるにあたって、廃材だけではまかないきれない必要経費は、傍嶋さん宅で自宅ホームパーティーバー「CANHEL(カンヘル)」を開き、一口1,000円(寄付)を地域通貨1,000ゆーるに交換。
この資金を「廃材エコヴィレッジ」やバーの運営に役立てるなど、少しずつ実験しながら、「地域通貨ゆーる」は広まりつつあるようです。
“気楽さ”は、盲点かもしれない
限界集落ともいえる小さな集落で、廃材をつかって地域の場づくりをする。少し奇抜な感じもしますが、傍嶋さんが「廃材エコヴィレッジ」をつくろうと思い至った背景には、東日本大震災がありました。
人間いつ死ぬか分からないのだから、何か思い切ったことをやってみたい。そんな思いから、当時務めていた「藤野芸術の家」を退職し、ものづくりで食べていけるようにすること、そしてお金の掛からない生活を模索し始めます。
まずは、せっかく自由に時間をつかえるようになったのだからと、日本中の“面白いひと”に会いに行こうと、車にソーラーパネルを積んで、屋久島、四国、京都などをまわります。
四国をぐるっと旅したときに、香川県丸亀市にある、廃材利用のセルフビルドハウス「廃材天国」に立ち寄ったんだよね。
医、食、住、エネルギーとか、人生に必要なものを自給しようと、なんでも手づくりで暮らしている人がいて。こんな廃材で家が建っちゃうんだと。
自分の頭のなかで、無意識のうちに制約をしていた概念が広がって。建物は専門家じゃないとつくれないと思い込まされていたというか。
「廃材エコヴィレッジ」は、リノベーションする前からそもそも建物で屋根もついているから、基礎工事からやらなくてもいいし、壁さえつくればそれなりにできちゃうからラッキーだと思った、と続けます。
廃材天国のやり方は、廃材集めて打ち込め!みたいな勢いだからさ。ちょっとダメなところがあったら、廃材をもう1本打ち込め!余ったら切れ!みたいな感じ(笑)。
今俺はそこで生活してるぞ、って。だいぶ雑なんだけど、それでいいんだよね。そういう気楽さって、盲点だったかもしれないと思って。
ある意味、常識からの逸脱ともいえる変態建築。傍嶋さんは、この“何でもあり”なノリと勢いに惹かれたのだそう。
“いい加減”な建築を見るのって、結構勉強になるんだよ。超絶アバウトな建物を見るとさ、楽しさと勢いでつくっちゃうって大事なことだなと思うね。みんな常識に捉われてるじゃない?
だからある意味、生活する力を取り戻すというか、コントロールから解放されるって意味もあるんだろうね。それから、海の近くに住んでいる人は貝殻をやたらと使ったり、地域性も出てくる。ここだと、産廃業者が近くにあるから廃材をつかう。無理して集めてきてもしょうがないからね。
廃材という価値のないものを集めて、価値のあるものをつくる。廃材の集まり方ですべてが変わってくるので、設計図も工程表もいらないといいます。
頭の中に設計図はあるけど、いらないね。工程表なんかつくれない。“適当”な廃材が手に入るまで、何ヶ月か放置したりして。この材が集まったからこれができると。逆にエキサイティングなんだよね。何がどうなるか分からない。
ある程度できたら、あとは運営しながら工事していこうかと。ずっと完成しなくてもいいじゃない?
廃材を見つけてきたり、もらったりする“廃材力”があるとしたら、人脈が豊であればあるほどもらえるものが増えていくから、それはそのまま“人間力”だと言って傍嶋さんは笑います。
生きるために必要なものを、地域通貨でまかないたい
さて、「廃材エコヴィレッジ」をつくり、極小エリアで使える地域通貨を発行した先に、傍嶋さんはどんな地域の未来を思い描いているのでしょうか。
狭いコミュニティが元気になるには、地域通貨で生活がある程度成り立つくらいにできたらいいのかなって。
この綱子という集落をひとつの極小国家として考えてみると、お米や野菜などの生きるために必要なものは地域通貨でリアルにまかなえたら、稼ぐことに焦らなくても、みんな豊かになる。ふつうとは逆の発想だね。
「地域通貨ゆーる」で交換できるものは、集落にある米蔵の「お米」や、集落の人が手塩にかけて育てた「野菜」。さらには、隣りの地域で育てた鶏の「卵」などの取り扱いも現在交渉中なのだそう。
そして、地域なかで、暮らしや生業を循環させていくための“地域通貨”に必要なことは、生業をかぶらないようにすること。
小さい集落に大工さんばっかりいても成り立たない。自分は地域のなかでこういう貢献をしようとか、それぞれが役割を見いだしながら地域とつながっていく。
自分にも相手にもプラスになるし、何か犠牲になるようなこともない。意外とそれで生活は成り立つんじゃないかなと思って。仲間と一緒に小さな国づくりをするイメージ。まあ、実験しながら。これも遊びだね。
私たちがいま暮らしている社会は、「成長」や「発展」を前提とした議論ばかりが繰り返されているような気がしてなりません。
もしかしたら“豊かさ”についても、経済を抜きには考えられないとされてしまっている高度な産業社会。
アーティストでありながら、小さな地域を建て直そうとする傍嶋さんの活動には、これまで私たちが捨てられなかった経済観念を解きほどくヒントがありそうです。
そして、DIYで集落の拠点をつくり、生きるために必要なものをまかなえる地域通貨を自分たちで発行することは、選挙に行くこととは別の“政治的アクション”なのかもしれません。
ちなみに、集落11軒のうち3軒は、引っ越してきた傍嶋さんの友人なのだとか。傍嶋さんのDIYスピリットに惹かれたら、「廃材エコヴィレッジ」の見学はもちろん、バー「CANHEL(カンヘル)」に行ってみては?
いま必要なのは、大きな組織ではなく、小さくて強い独立心。少し見方を変えれば、つくれないと思い込んでいたものが、つくれたりするのです。そっか、自分たちの暮らしってこうやってつくれるんだ!と、手や体をつかう“生活力”を気づかせてくれますよ。
※この記事はgreenzに2014年10月14日に掲載されたものを転載しています。