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暮らしの職人たち
記事作成・更新日: 2014年12月 4日

「バンドキッズから大工へ「『好き』から生まれる情熱をお客さんと共有したい」

[暮らしの職人たちVol.03] ポップでロックな“アーティスト系大工" 手槌真吾さん


下北沢にある「サザエさん家のような」昭和の赴きを感じさせるシェアハウス。その一角に工務店を構えるのが、大工の手槌(てづち)真吾さんだ。一人で手がけるフルオーダーメイド住宅、賃貸物件でも気軽にできるリフォームなど、誠実さの中にもどこか軽やかさを感じる仕事の数々が特徴。そんな手槌さんに、仕事やものづくりに対するモットーや取り組みについて伺った。


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ギタークラフトから大工の道へ

 東京・下北沢で手槌建築を営む手槌真吾さんは、大工になって16年。関西から6年前に上京、現在は一軒家をリノベーションしたシェアハウスに事務所を構え、東京での基盤づくりに勤しむ毎日だ。

 この道に入ったきっかけは、バンドキッズだった10代に遡る。ギターを弾くだけでなく製作にも興味があり、専門学校でギタークラフトを学んだ。しかし、時は折悪くDJ機材ブーム、その煽りを受け生計が立てられずに職を変更。そこで次に選んだのが、形は違えど「木を扱う仕事」の大工だった。

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昭和の間取りにポップな設えが加えられた打ち合わせスペースにて。ギタークラフト製作時代の作品も。

 20歳から無垢材を扱う無添加住宅専門工務店、安くて早くてきれいな仕上がりがウリの個人工務店の2軒で修行。そのうち趣味のバンド活動を介して出合った人々から修理や内装の依頼が入るようになり、「もう自分でやってしまおう」と手槌建築を立ち上げた。

「木工の基礎は学校で学んだので、技術的には3年間の修行でも大丈夫でした。だけど、独立後に現場で学ぶことのほうが圧倒的に多いですね」

 関西を中心に口コミで仕事も収入も増えた。順調かと思ったが、ある時自らの価値観を揺るがすほどの出来事に遭遇。意識と環境を変えるべく、心機一転、東京で新たなスタートを切ることに決めた。

「東京はマンションと賃貸物件が多く、地元の傾向とも違ったので、新たに勉強する上でもいいなと。徐々にセンスのいい業者さんとの関係もでき、ここ2年ほどで以前のような工務店の形を成せるようになってきました」

「予算が少ない依頼が大得意」
工夫とアイデアでつくり上げるよいものたち

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フェイクタイルとラージ合板でヘリンボーンの柄を再現したアクセントウォールが目を惹く空間。アイデアの実験がたくさん詰まっている。

現在は店舗内装が7割、住宅リノベ・リフォームが3割。真摯なものづくり、材料や制作工程の費用を抑えることでできる手頃さが特徴だ。

「予算が少ないほうが得意ですね。お金がなくても何かしたいって人を応援したい気持ちがあるんです。戸建てを僕が全工程を受け持つ形で提供するのは、一般的な見積もりの半分かそれ以下に抑えられるから。大きな物件だと難しいですけど、依頼くださった方の顔が見えるし、デザインした店を介して口コミで仕事が来るなんてすてきじゃないですか」

初回は、依頼者の話をとにかく聞く。その言葉じりなどから好みや趣味を想像して提案し、「これがしたかった」と言われるとこの上なく嬉しいと語る。

 これは一戸建ての場合だが、身近な設えでもスタンスは同じ。IKEAの家具パーツに木材やペイント処理を組み合わせる、安価な家具リメイクも得意分野だ。

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IKEAのガラス板を応用した棚(左)と3,000円ほどの天板を利用したローテーブル。どちらも最近マイブームだというパステルカラーで一部をペイントし、特にローテーブルはオリジナルの脚部を靴下風デザインに仕上げた。「最近黄色と斜めが気になるんです」とのこと。

 また最近のイチオシは、壁に木材で柄をつくるオリジナルの「アクセントウォール」。幅もサイズも壁面の数も自由自在だ。

「近々、このアクセントウォールのオーダーメイドサービスを立ち上げる予定なです。定番の柄、お客さんのデザインを起こした柄など選べる仕組みにしたいなと。この部屋の場合は、木とタイルを組み合わせたフェイクを活かしたデザインですが、安い端材でも素材が違えば木目も変わります。塗装すればまた印象を変えられるので楽しいですよ」

 扱いやすさもピカイチ。断熱材や下地はしっかりしているのに、表面はタイルを一つ外せば簡単にバラすことができる。賃貸物件にもバッチリの設えだ。ゆくゆくは一戸建ての仕事を増やしたいとの想いもあり、そのきっかけにもなればと語る。

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こちらはOSB合板を用いて茶室の違い棚を表現。タイルはこの詰まった状態では外れないが、実はピンで2箇所ほどしか止めていない。

デザインの定義とものづくりのモットー

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戸建て用のチラシ。デザイン、素材含めてすべての工程を、膝をつき合わせ、話しながら決めていく。

 かっこいい家をつくりたいと語る手槌さん。デザインの際には、男女の好みをかなり意識しているのだという。

「僕には、男性は固くて大きくて直線の物が好きで、女性は丸くて小さくて柔らかい物が好き。僕の中にはそんな定義があるんです。ですから依頼者の性別は重要視しますし、女性の依頼には意識して感覚を変えています」

 イメージに近い画像をまずは出してもらい、汲み取った要素と定義を絡めてデザインし、素材も含めて依頼者とすり合わせていく。安心感たっぷりのフルオーダーメイドなのに、費用は抑えめが嬉しい。そんな誠意を込めたものづくりは、心に留めたこの言葉が支えている。

「アインシュタインの『才能は継続できる情熱である』って言葉が好きなんです。好きでやるうちに才能になっているのが一番だと思うし、僕の仕事には『好き』がとにかく大切。好きから生まれる情熱や楽しさってお客さんにも伝わりますからね」

好きすぎてiPadにも刻印してしまった言葉。

 ヘリンボーン柄やタイル柄のアクセントウォール、イタリアの壁紙を市松に貼り付けた障子、パステルの欄間など、シェアハウスにある設えがその言葉を体現する。狭い賃貸の1Kでも、アクセントウォールなどを加えれば雰囲気が変わって楽しそう。そんなワクワク感を感じさせる手槌さんの仕事は、住処を飾る喜びを軽やかに実現してくれるはずだ。

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「サザエさん家のような」シェアハウス。すだちを始めさまざまな木が育つ庭で、十数人規模のパーティやイベントを行うことも多い。楽しい時間をつくる空間だ。

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縁側からも出入り自由な裏庭が作業場。

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ポルシェデザインの輸入壁紙を貼り直した障子と引き戸。柄の縦横を変えてリズムを出した。

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新たなアクセントウォールを制作中。パステルをポイントに、また印象が異なる幾何学的デザインになる予定だ。

text: 木村早苗 photo:伊原正浩


手槌さんの愛用品

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「名前が手槌だしね」ということで愛用の金槌を出してもらった。手前から、鉄用、傷つけられない場所用のプラスチック槌、釘の頭を絞められる普段用、フローリング用のゴム槌、黒いフローリング用のゴム槌。素材や場所によって使いわけている。


プロフィール

手槌真吾
手槌建築代表。ギタークラフトの道から大工に転身。23歳の時に兵庫県で手槌建築を立ち上げ、ローコスト店舗工事、リノベーションなど総合建築を手がける。2008年から東京に拠点を移し活動中。


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