スモークカラーの外観から一転。
色が何層にも織り重なる、光あふれる空間で、
家族との明るい暮らしを育み、クリエイティブに磨きをかける。
photograph_ Kai Nakamura
趣味人たちの部屋づくり
鉄作家 羽生繁利郎さん
名古屋市を拠点とし、鉄などの金属を用いた
店舗、住宅、エクステリア製品や作品を制作。
羽生邸
名古屋市守山区
〈設計〉林伸嘉建築設計事務所
・住人データ
繁利郎さん(40代) 鉄作家
康子さん(40代) 造園家
長男(8歳)
県営公園の緑地に寄り添うように佇む、大きな切妻屋根の建物。反対の住宅地側から見ると、四角い箱がにょっきり。鉄作家の羽生繁利郎さんが、造園家である奥さまの康子さん、8歳の息子さんと暮らすオフィス兼自宅である。
もっとも眺めのいい公園側が、家族3人で過ごす居住空間だ。1階のキッチン、ダイニングは切妻屋根の直角勾配をそのまま現した吹き抜けで、大きな窓から自然をたっぷりと室内に取り込んでいる。ヘリンボーンのフローリングにアンティークの木の家具が置かれ、まるで森の別荘のような雰囲気。いっぽう、人目につきやすい住宅地の道路に向かって突き出すようにオフィスを計画し、日々デスクワークや打ち合わせを行う場所としている。
「この家でいちばんやりたかったのが事務所のスチールサッシの製作。今はまだ手が付けられていませんが、妻がデザインした外構を事務所から眺める風景をイメージしてつくっています」(繁利郎さん)
ほかにも、各所に配されたオリジナルの建具や家具などの繁利郎さんらしいエッセンスが生活空間のアクセントとなり、目を楽しませる。
繁利郎さんの作品は、鉄を赤く熱し、ハンマーで叩いて成形する「鍛造」という製法からつくられる。
「鍛造は、ずっしりした力強さとしなやかさが出るのが特徴。その美しさをいちばん生かせるのが黒塗装仕上げです」
というのが、繁利郎さんの持論。実は、この家にある作品の数々は、一見すべて黒に見えるが、それぞれ色味が微妙に異なる。オフィスのサッシは黒に少し青と白を混ぜていて、階段の手すりはサッシと比べて少し青を抜いた色。ダイニングの照明を吊るしたトラスは純粋な黒。リビングのテレビボードとドアノブは、鉄を焼いたままの黒皮。
「少しの表情の差を味わうのがおもしろいんです」(繁利郎さん)
その色彩感覚は、空間づくりにも通じている。家のほとんどの壁は、家族みんなが好きな色だという紫系をベースに着色。場所ごとにトーンやテクスチャの強弱をつけ、また光の陰影によって現れるさまざまなニュアンスが奥深いインテリアをつくり出している。
愛すべき作品の数々と、その創作美学が生きた住まいが静かに一体をなしている様子が印象的だ。
熱す、叩く、曲げる。造形、色、質感をデザイン
〈物件名〉羽生邸 〈所在地〉名古屋市守山区 〈居住者構成〉夫婦+子供1人 〈用途地域〉第一種低層住居専用地域 〈建物規模〉地上2階建て 〈主要構造〉木造(在来軸組工法) 〈敷地面積〉168.74㎡ 〈建築面積〉81.22㎡ 〈床面積〉1階 76.61㎡ 2階 38.61㎡ 計115.22㎡ 〈建蔽率〉48.13%(許容50%) 〈容積率〉68.28%(許容150%) 〈設計〉林伸嘉建築設計事務所 〈内装協力〉MassimoGariani・GoodSteelFellows 〈竣工〉2013年 ※施工、設計期間、工事期間はすべて非公開。
Nobuyoshi Hayashi
林伸嘉
1981年 愛知県名古屋市生まれ。
2003年 名城大学理工学部建築学科卒業。
設計事務所勤務を経て、
2013年 林伸嘉建築設計事務所設立。
林伸嘉建築設計事務所
愛知県名古屋市千種区
田代町四観音道西5・7 B301
TEL 052・712・2711
FAX 052・739・5414
nob-hayashi@biscuit.ocn.ne.jp
hayashi-a.jp
※この記事はLiVES Vol.72に掲載されたものを転載しています。
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