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記事作成・更新日: 2015年 6月16日

倉庫群の再生プロジェクト シーンデザイン一級建築士事務所vol.05


地方都市に多く眠る古いアパートやビルを住まい手に合わせてカスタマイズ。そんなリノベーションの可能性を紹介している「リノベのススメ」(『コロカル』で連載中)より。


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個から地域へ

長野市善光寺門前界隈には、ここ5年あまりで
たくさんのリノベ物件が誕生しました。
これだけ狭いエリアに多くのリノベ物件が集積している地域は珍しいと思います。
もちろん個々のお店や住居は、各々個性的で独立した存在なのですが、
同一エリアに多く集まることで、その先に“まち”が見えてきました。
誤解を招くといけないので一応言っておくと、CAMP不動産は、
いわゆる従来的な“まちづくり“をしようとしているのではありません。
それでも“まち”が見えてきた、というのは、
あくまで、ひとつひとつ個別のリノベ案件について、
それがその場所で成立するための方策をあれこれ考えていると、
どうしても“まち”との関わりを無視できなくなるからなのです。
今回は、そんな個から地域への視点の広がりについてお話しできればと思います。

SHINKOJI(新小路)プロジェクトがスタート

不動産業を営む倉石さんと建築設計業を営む私が、
各事務所のスキルを横断的に生かしながら
リノベに関わる一連の事業について取り組んでみようと
「CAMP不動産」という活動を始めたのが2012年10月でした。
CAMP不動産として最初の物件は、vol.2で書いた藤田九衛門商店でしたが、
実はそれとほぼ時を同じくして構想を始めたプロジェクトがありました。

それが、SHINKOJI(新小路)プロジェクトです。

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リノベ前の新小路。小路を挟んで両サイドに大きな倉庫が建ち並んでいます。

善光寺門前にある東町は、かつてとても人通りの多い問屋街でした。
新小路(しんこうじ)とは、その東町にある細い小路の名前です。
昭和10年頃には、洋食屋さんや鰻屋さん、
中華料理屋さんに文房具屋さんなどが立ち並ぶ、
とても賑やかな小路だったそうです。

その後、昭和40年代に入り、新小路に建つお店は、
文房具卸し会社の本社や倉庫へと建替えられて一時代を築きました。
しかし、近年のインターネットなどによる流通構造の変化は、
まちなかの問屋街の様相を一変させました。新小路も例外ではありませんでした。
現在は、倉庫としてもほとんど機能していませんでした。

そんな状況下で、「SHINKOJIプロジェクト」は、
人通りの少なくなってしまった新小路に建つ、
計4棟の倉庫群をリノベーションするプロジェクトとして
構想がスタートしたのです。

きっかけは地元不動産会社の相談から

時は遡り、CAMP不動産がSHINKOJIプロジェクトの構想を始める約2か月前。

地元不動産会社のリファーレ総合計画が、
この倉庫群の利活用を前提にした事業に着手したことが、
SHINKOJIプロジェクトのそもそもの始まりでした。

2012年9月。リファーレ総合計画の取締役である寺久保尚哉さんは、
まちなかにあるこの倉庫群を自社の事務所として利用しようと考えていました。
しかし、自身の不動産事務所として利用するだけでは建物が広すぎるため、
全体をどのように利活用していけばよいのか、
いろいろな方に相談していたそうです。

その相談先のひとつに、CAMP不動産(株式会社マイルーム)があったのです。

この倉庫群には、古い建物にありがちな、完了検査を受けていなかったなど、
法的な問題点も数多くありましたが、
寺久保さんが、行政や建築士との協議を重ね、ひとつひとつ丁寧に解決し、
先ずは建物を“使える状態”にまでにしてくださったことが、
SHINKOJIプロジェクトがスタートを切る事ができた
最大のきっかけにもなりました。

リノベーションをサポートする「リノベ基地」

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リノベ前の新小路、北棟玄関。鉄骨造3階建ての事務所+倉庫でした。

2012年11月。以下、プロジェクトが始まった頃の、倉石さんのメールを
紹介します。

「寒くなってきましたが、お元気ですか?
さて突然ですが、近々おもしろいプロジェクトが始まりそうなので、
お誘いのメールを送ります。
詳細は未定で、あえて名前を付ければ「リノベ基地」プロジェクトです。

まちなかの大きなビル倉庫群が借りられそうなので、
エリアごとリノベ基地にしてしまおうというものです。
放っておけば、いつものごとく壊されて駐車場になってしまいます。
建物は天井が高く、トラックも入る倉庫で、
そこでみんなの作業場にして、シェアしようというものです。
広いスペースでは、材料や道具がゆったり置け、もちろん加工もできます。
廃材や古家具もストックでき、職人さんが集まればオリジナル品もつくれます。
お客さんとのリノベプランが、現場さながらに進められます。
また、若者や熟練のスタッフがワイワイと集まり、
手がほしい現場ではテコになってくれます。
2階には、関連する道具屋、本屋、雑貨屋、めし屋、などが
テナントとして入ります。
3階には、スタジオ、編集室を設け、
リノベやストックの物件情報とスタイルを発信していきます。
リノベに関連する事務所オフィスも入れます。
4階・屋上は、ゲストハウス的なものを設け、居住滞在も可能にします。
同じようなスペースを探している人たちを県内外から誘って、
シェアして使ってもらおうというものです。」

……CAMP不動産では、だいたい倉石さんのこんな妄想話から始まります(笑)。
補足説明すると、この時点で入居希望のテナントや入居者は
誰ひとりとして決まっていません。
それでもよいのです。
リノベプロジェクトにおいて、ここで、ひとつのビジョンが提示されたことに
大きな意味があるのだと思います。

次は、私の番です。

倉石さんのSHINKOJIプロジェクトに対する想いを、イメージとして絵にします。

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これを書いたときは、完全に妄想の段階です。当然、まだ図面もありませんでした。

妄想プロジェクトの本格化

妄想も本気で考えていれば、もっともらしく思えてきます。

このプロジェクトの発端となった倉庫群を含む物件は、
敷地が、道幅が狭い小路で分断されているため、
まとまったスペースの確保が難しいといった理由もあり、
大きな再開発やマンション建設には不向きなロケーションでした。
まちなかの、こうした不動産のほとんどは、駐車場になることが多いと思います。
しかし、逆にその立地が、リノベーションとしては好条件になることもあります。

SHINKOJIプロジェクトで扱おうとしている建物は新小路を挟んで計4棟。
この倉庫群は、ほぼ街区の中心に位置し、
近年リノベされた別のお店や貸しスペースなどが隣接しています。
また、同じ街区の中には、飲食店、画材屋、家具屋、イベント広場、
出版社、ギャラリー、貸スペースなどが存在しており、
SHINKOJIプロジェクトで整備しきれないリノベ基地として必要な機能は、
積極的にほかの建物と連携していけばいいと考えることもできます。
そうすれば、自分たちの負担が軽減するばかりでなく、
周辺既存施設を巻き込んだ、動きへと変えることができそうでした。

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2012年12月時点でのSHINKOJIプロジェクトの全体構想図。

大抵の人には、駐車場しか使い道がないと思われているこの場所が、
多くのリノベーション事業に取り組むことができ、
隣接する施設の空き状況などについても情報共有ができる。
私たちの目には、大変魅力的な不動産として映っていたのです。

幸いにも、リファーレ総合計画さんも、この倉庫群をリノベ基地として、
利活用していくというコンセプトを共有してくださり、
CAMP不動産とともにSHINKOJIプロジェクトが
具体的に動き出すこととなったのです。

最初にオープンした「新小路カフェ」

4つの倉庫群は、それぞれ、北棟、西棟、南棟、東棟と名付けられました。
北棟と西棟をリファーレ総合計画が、
南棟と東棟をCAMP不動産が運営管理していくこととなり、
まずは第1弾として北棟のリノベにリファーレ総合計画が着手。
企画、計画、デザイン、施工をCAMP不動産が担当することになりました。

北棟は3階建てのビル。
途中、計画の軌道修正や工事中のすったもんだはありましたが、
無事に2014年4月、工事が完了し、北棟の運営がスタートしました。

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完成したSHINKOJIプロジェクト北棟、エントランス。

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左:SHINKOJIサイン、右:階段室 サインはマンズデザインの太田伸幸さんのデザイン。

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1階の新小路カフェ。

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2階のシェアオフィスSHINKOJIオフィス「SPACE06」。

SHINKOJI北棟の1階は、新小路カフェ、SHINKOJIホール(貸しホール)、
2階はSHINKOJIオフィス「SPACE06」(シェアオフィス)、
リファーレ総合計画の事務所、
3階はSHINKOJIハウス(共同型賃貸住宅)という構成です。

新小路カフェは仲良し三人組の主婦がつくる、やさしい和食を中心としたカフェ。
今では、連日、たくさんの人が訪れるスポットになりました。
SHINKOJIホールでも、さまざまな催しが行われ、徐々に認知度もあがり、
近年は人通りがほとんどなかった路地に、また賑わいが戻ってきました。

まずは、「リノベ基地」になるべく、“集う”場所ができました。

僕らの“まち”のたのしみ方

SHINKOJIプロジェクトの、ここにしかない大きな特徴は、
対象とする建物が新小路という小路を挟んで複数あるということころです。
敷地を分断する小路をデメリットと捉えるか、面白いと感じるか。
リノベーションという“つくり方”を楽しむためには、
その辺りの感覚が共有できなければうまくいきません。
既存の用途に囚われず、素直にその建物や空間の特徴を認めてあげること。

それができれば、その建物たちの得意なことが見えてきます。
役に立たないと思われていた建物や空間が、
今の社会で十分役立つ方策が見えてきます。

どこまでが家で、どこからが家じゃないのか?
どこまでがプライベートで、どこからがプライベートじゃないのか?
どこまでが自分のもので、どこからが自分のものじゃないのか?

そんなふうにいろいろなボーダーをあいまいにしてみることができる人が、
リノベを楽しむことができる人なのかなと思います。

北東が完成しても、まだまだリノベ基地として発展途中のSHINKOJI PROJECT。
そこで、2014年9月。
まずは自らが、SHINKOJIやこのまちのたのしみ方を見せてしまおうと、
新小路カフェをベースに、
CAMP不動産メンバーのデザイナー、太田さんの結婚式の二次会が行われました。

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許可をいただいて、道の上にフラッグがかかりました。

オープンした北棟とリノベ工事途中の南棟の間の新小路にも
フラッグが掛けられて、
このエリアごと二次会の会場になったようです。

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ずっと人通りがなかった倉庫が建ち並ぶ新小路に、
この日は、たくさんの人が集いました。
知り合いはもちろん、ご近所さんも招かれ、
それはそれは盛大なパーティーでした。

パーティーの準備や段取りは、ほとんど主役である太田さんが行いました。
自らの結婚式の二次会という、超個人的なパーティーなのに、
まるで、まちぐるみでお祝いしているような、
終始そんな雰囲気に包まれていて、
たくさんの笑顔がそこにはありました。

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リノベーションというつくり方は、
ひとつひとつが小さく不完全なものであることが多い。
でも、だからといって、できないことが増えるわけではありません。
むしろ、不完全さを補完するために、まわりとの関わりを強めていくことで、
ずっと可能性が広がるのだと思います。

まずは個人のために。そして身近な人のために。そしてその結果として、
僕らがここで生きていることを実感できる“まち”がつくられていくのだと
考えています。


writer’s profile

KEI MIYAMOTO
宮本 圭

1970年長野県生まれ。工学院大学工学研究科建築学修了後、宮本忠長建築設計事務所勤務を経て、シーンデザイン一級建築士事務所を設立。ツリーハウスプロジェクト絵馬プロジェクトなど建築とその周辺にあるものを面白く結びつけていくためのプロジェクトに多数携わる。2009年に有限責任事業組合ボンクラを立ち上げ、善光寺門前にある古い建物で、建築家・編集者・デザイナーが集まり、単なる建築の再生だけでなく、地域やコミュニティの再生も視野に入れた「プロジェクトカネマツ」を実践中。2013年からは、リノベーションカンパニー「CAMP不動産」のメンバーとして活動中。


information

SHINKOJI CAFE 新小路カフェ
住所:長野県長野市東町142-2SHINKOJI 北棟1階【map】
TEL:026-217-0170 (10:00~17:00)
定休日:月曜日、第2、第4火曜日
http://rifare-web.com/cafe/


※この記事はcolocalに2015年1月28日に掲載されたものを転載しています。

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