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【特集】ぼくらが小屋をつくる理由
記事作成・更新日: 2015年11月10日

小さいほど、豊か。豊かさの再編集を促す、ミニマルで洗練された小屋「INSPIRATION」(YADOKARIがつくる小屋)

僕らが小屋をつくる理由

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小屋を販売する人たちにお話を伺う連載
「僕らが小屋をつくった理由」第1回。
今回は「INSPIRATION」の販売元であり、
ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウス、
モバイルハウス…といった、
気になる暮らしかたのキーワードを詰め込んで、
これからの豊かさを考え実践するメディア
「未来住まい方会議」を運営するYADOKARIの
さわだいっせいさんとウエスギセイタさんにお話を伺いました。

「家に縛られた人生は本当に楽しいのか?」が出発点

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クリエイションを誘発する小屋
「INSPIRATION」を販売するYADOKARIは、
アートディレクターのさわだいっせいさんと
プランナーのウエスギセイタさんのユニットです。
彼らはライフスタイルWebメディア「未来住まい方会議」も運営しており、
国内外のスモールハウスやタイニーハウス、
小屋のほか先進的な暮らし方など
自分らしい住まい方の気づきとなる情報を発信しています。

4年前、震災をきっかけに
人間と住宅の関係性に疑問を持ち始めたというさわださん。
壊れてなくなるかもしれない存在に縛られた人生は正しいのか、
住宅コストが下がればもっと楽に生きられるのではないか、
と考えたのです。

そんな時にアメリカのタイニーハウスムーブメントを
知ったんです。
経済的にも物理的にも豊かな
先進国の若者が牽引する状況が面白いなと。
日本にはまだない暮らし方でしたから、
小屋が持つヒッピー風の印象を和らげつつキャッチーな形で
紹介できればとサイトを始めました。(さわだ)

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タイニーハウスムーブメントとは、アメリカ発祥の新たな暮らし方。
サブプライム住宅ローン危機ののち住宅ローンが払えなくなった層が
DIYで小屋を建てたり、小屋を中心にしたコミュニティを
つくり始めたりした動きを指します。
他方、ヨーロッパには古くから週末を別荘で過ごす文化があり、
北欧の「夏の家」やロシアの「ダーチャ」はその代表です。
日本では、この二つの流れがインターネットで可視化され、
震災の影響を経て独自に解釈されてきたと言えます。

そんな動きから生まれた「INSPIRATION」は、
新車を買う感覚で手に入る250万という低価格、
好きな土地にトレーラーで運べるモビリティ、
建築確認申請をきちんと取得できるという特徴を持つ小屋。
本来は本宅としての暮らしを提案する商品ですが、
実際には趣味部屋や別荘としての導入が大半だといいます。
海外のように安くて安全な住宅としての小屋が認識されるのは、
国内ではもう少し先になるだろうとの予測。
むしろ本宅という捉え方で反応したのは、
ターゲットにしていなかった高齢者層でした。

母屋を息子や孫世代に譲り、
庭先にスモールハウスを建てて住みたいという方が多いんです。
掃除も階段の上り下りも大変だから、
終の棲家はこのサイズで十分だと仰るんですよね。
意外でした。(ウエスギ)

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INSPIRATION内観写真

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苦労を重ねてつくりあげた、現時点での最適解

さて、この「INSPIRATION」の構想は
メディア立ち上げ以前からあったそう。

大量に余っているというコンテナを使えば住宅コストも下がり、
船や車に詰んで旅しながら暮らせて楽しそうだなと。
ただ僕は建築家ではないし費用もなかったので、
まずはメディアに着手したのです。
それをきっかけにサポートいただけるようになり、
ここ1年ほどでやっと形にすることができました。

さまざまな建築家やハウスメーカーに打診するも、
リスクが高いばかりで儲けにならないと断られ続けた日々。
プロジェクトが動き始めても、住宅の保証責任や
法律面と金額の壁に苦労することになりました。
250万という価格設定も実は赤字ですが、
それでも彼らは形にして提案したいと努力を続けたのです。

これは現時点の最適解という感じです。
たくさんの制約や法律をクリアした上で
できた移動式の小屋がこの形になったというか。(ウエスギ)

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同商品の特徴の1つ目は、シャワーやキッチン、
トイレと水周りがすべて揃っている点。
2つ目は、鉄骨フレームで強度をつけて
モビリティを確保した点。
3つ目は、本宅としての世界水準価格より抑えた
「ちょっといい車を買う気持ちで家が買える」価格。
最後は、長辺の80%を占める開口部のデザイン。
「庭をリビングに」を合い言葉に、
自然光を取り入れやすいサッシと国産のペアガラスを選び、
結露防止や保温性などの快適性も重視しました。

窓や断熱には採算度外視でこだわりました。
自然光がたっぷり入るけどエアコンをつければ快適。
そんな狭くてもきちんと暮らせる印象にしたかったんです。
一般の人に興味を持ってもらうためにも快適さは必須でした。

もうひとつ、気になるキーワードが
「クリエイティビティ」です。

物を持たないことで直感をかき立てる空間だということです。
実は、タイニーハウス流行の背景には禅の影響があるんですよ。
何もない空間に
クリエイティビティを感じるアーティストが多いので、
そんな空間にしたいと思いました。
家を小さくすると必然的に物を手放すことにもなります。
自分の直感や内面を意識しやすくなり、
創造性に繋がるという提案がしたいなと。

IT業に従事し、情報化社会の中で
取捨選択が上手にできなくなっていたウエスギさん。
実際に小さな暮らしを意識し、商品として形にしていくことで
自らもやりたいことが明確になったそうです。

現代版にアップデートされた「ミニマリズム」を実感する

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YADOKARIのさわだいっせいさんとウエスギセイタさんは、
スモールハウスの先駆けである
黒川紀章設計の中銀カプセルタワーに新オフィスを開設。
ミニマリズムやモバイルハウスを提唱した
偉大な先駆者の建物で、保全にも携わりつつ
現代のミニマリズム文化を編集し
発信できる場にしたいと考えています。
こうした小さな暮らしへの回帰は、
当時同様に大量消費や資本主義への
カウンターカルチャーである気がする、というさわださん。

当時との大きな違いは、
現代のミニマリストたちには社会性がある点です。
昔は一人で自給自足するヒッピーが大半でしたが、
今は街に出て地域のコミュニティと
きちんと繋がりを持とうと考える人が多い。
インターネットで世界と繋がっている意識があるのも
大きいですね。

小さな暮らしへの認識も
時代に合わせてアップデートされているのでしょう。
そんな動きの中で「INSPIRATION」も
人々の意識変革のきっかけとなるかもしれません。

ここから暮らしの自由度が上がっていくといいですよね。
住宅ローンのために疲弊するだけが人生じゃないですよ。
それぞれに適した場って絶対あるはずですから、
そういう拠点を僕らがネットワーク化して
各地域との接点をつくれたら。
小屋も含め、暮らしの自由度や選択肢を広げる提案や
活動を続けたいですね。

自分の暮らしを見つめ、豊かさの再編集をするきっかけに

今後は、進行中のハウスメーカーによる
スモールハウスのプロデュースのほか、
スモールハウスのオフグリッド化を進めたいそう。
「置けばすぐ住める」仕組みづくりのためにも、
新オフィスにはソニーのスマートロックや
家電管理などのホームオートメーションを導入。
IoTや省エネの実験も行っていく予定です。
テクノロジーを活かした
移動性を確保するためのオフグリッド化の研究は、
小屋を身近な存在にする上でも
重要な役割を担うものとなりそうです。

ここ1年ほどで新たな暮らし方に目を向ける
ハウスメーカーも増えてきました。
数年後には、暮らしを見直そうという動きが
日本にも定着しているかもしれません。

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お金や時間や場所に囚われない選択肢をつくり、
みんなの幸せをつくることが僕らのミッションです。
主張を面白がってくれる人を増やしつつ、
新たな市場を広げていければと思います。(さわだ)

今後も自分らしい暮らしを見直すきっかけを
提案していきたいです。
豊かさの再編集というか、居心地の良い場所や暮らし方、
幸せを探す手助けになれば嬉しいです。(ウエスギ)

今は不動産をやっているけれど、
元々は現状への疑問や問題意識を
シンプルに発信してきただけと笑う2人。
自分たちは何者でもないけれど、
思いを発信すれば繋がり大きな波にできる。
「INSPIRATION」は、
そんな彼らの活動とユーザーを繋げる鎹でもあるのです。

Text 木村 早苗 Photo 荒川 慎一

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