造り付け収納、建具、吟味された家具など、年月をかけて築いたこだわりのディテールを継承。床とバルコニーを撤去し、新生活に合わせた家に。
text_ Yasuko Murata photograph_ Takuya Furusue
高円寺リノベーション(東京都杉並区)
- 設計
- アトリエハコ建築設計事務所
- 住人データ
-
Hさん(60歳)
ミッドセンチュリーを思わせるモダンな造り付け収納は、年代もののルイスポールセンの照明にも劣らない存在感がある。昭和の日本のインテリアデザインの遍歴を伝えるこの家は、築42年の鉄骨造の3階建て。かつては1階が写真館で、2〜3階が家族5人で暮らす住居だった。現在の住人のHさんのご両親が建てたものだ。
母はインテリアが好きで、海外の家具をよく購入していました。家が出来てからも、空間をより良くしようと、何度もリフォームしていましたね。母が長い年月をかけて工夫してつくり上げた家なので、自然と残したいという思いが生まれたのだと思います。(Hさん)
一時は手放すことも考えたが、リノベーションにより、空間を一新できることが分かり、知人の紹介で出会ったアトリエハコ建築設計事務所の七島幸之さんと、佐野友美さんに設計を依頼した。
既存空間は、造作家具、建具、キッチンなど、随所にこだわりを感じさせるもので、撤去するのはもったいないと感じました。今では真似できない贅沢な造りのものばかりなので、できるだけ既存を残し、建具なども流用。既存の良さと新設部分をパッチワークのように混在させ、プラン変更でデメリットを軽減していきました。(佐野さん)
建物は商店街に位置し、既存の2階の和室は通りの喧騒が伝わり、落ち着けなかった。通りに面した3階のバルコニーもほとんど使われていなかったという。そこで、3階のバルコニーと床の一部を撤去し、2階のリビングに吹き抜けを設け、バルコニーだった部分にトップライトを新設。生活の中心となる2階のLDKを開放感のある空間とし、3階の奥をこもり感のある寝室へとつくり変えた。
床面積を少なくすることで、実際に使用する空間を増やし、Hさんの新しい暮らしに合ったプランを提案しました。活動と休息の場を明確に切り分け、吹き抜けで連続性をもたせながら、メリハリをつけることを意識しました。(七島さん)
新設した壁に使った珪藻土やシナ合板、ラワン合板などのラフな素材も、デザイン性の高い既存の建具や家具の良さを引き出している。時代と家族の痕跡を大切に継承し、新たな工夫を積み重ねた家は、一日では成しえない美しさに満ちている。
専門家プロフィール
1970年 福岡県生まれ。
96年 九州芸術工科大学大学院生活環境専攻修士課程修了。
古市徹雄都市建築研究所勤務。
2006年 アトリエハコ建築設計事務所設立。
1975年静岡県生まれ。
98年 日本大学生産工学部建築工学科卒業。
98年 古市徹雄都市建築研究所勤務。
2006年 アトリエハコ建築設計事務所設立。
アトリエハコ建築設計事務所
- 住所
- 東京都江東区富岡1・1・18 富岡ビル
- TEL
- 03・5942・6037
- FAX
- 03・5942・6038
- info@hako-arch.com
- URL
- www.hako-arch.com
〈物件名〉高円寺リノベーション〈所在地〉東京都杉並区〈居住者構成〉大人1 人〈建物規模〉地上3 階建て〈主要構造〉鉄骨造〈建物竣工年〉1972 年〈建築面積〉37.275㎡〈床面積〉2 階 37.275㎡、3 階 22.05㎡、合計 59.325㎡〈設計〉七島幸之+ 佐野友美/ アトリエハコ建築設計事務所〈施工〉サンヨー住宅〈設計期間〉6 ヶ月〈工事期間〉6 ヶ月〈竣工〉2014 年〈総工費〉1,150 万円
※この記事はLiVES Vol.76に掲載されたものを転載しています。
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