自分らしい暮らしかたを考えるとき、「どんな小屋を建てたいか」「小屋でどんなふうに過ごしたいか」と聞かれたら、小さくシンプルな建物だからこそ、いろいろなものをそぎ落とし、自分の本当の欲求に気づいたりする。
そんなふうに、“好きに暮らす”ひとつのアイデアとして “小屋”を提案する「SuMiKa」は、2015年9月に「 家の中の小屋 」を発売しました。12月には第2弾がお披露目。なぜ今、小屋なのか、企画開発プロデューサーの髙橋伸明にプロジェクトに込めた思いや制作の裏側を聞きました。
建築家のアイデアで間取り問題を解消する
家を持つ人々の中で最も多い悩みが間取りの問題。そうした悩みを建築家のアイデアで解消し、家の中を編集するツールとして活用できるのが「家の中の小屋」です。
企画の高橋いわく「部屋を区切ったり家具として使えたりする多機能でミニマムな空間をつくりたかった」のだそう。建築家とユーザーのマッチングサービスを行う同サイトで、たくさんの施工例を見てきた高橋。
そのうちに変形地や狭小住宅などイレギュラーな依頼ほど光る建築家のアイデアや空間アプローチの面白さに着目し、住宅問題で悩むユーザーに広く提供できないかと考えたのです。
このサービスが現在運営中の「 暮らしのカスタマイズマーケット 」であり、実はここでもっとも注目された商品が「家の中の小屋」を開発のきっかけとなりました。
ベースになったmihadesign(ミハデザイン)さんの StackS は、かなりの人気がありました。施工例では、ワンルームにベッドや机の機能を縦につんだ箱を置き、緩やかな空間割りと目隠し性と回遊性を一気に実現するという提案でした。周りをゾーニングするという考え方がとても建築家さんらしい。上部は机として空いているので照明もエアコンの風も通り、空気感も伝わります。これなら気軽に取り入れられるし、間取りに悩む方々にも喜んでいただけるのでは、とお声がけをしたんです。
「家具以上、部屋未満」の柔軟性を持つ第一弾
2015年3月、商品化プロジェクトをスタート。
部屋の軸になる寝室を想定し、半年かけて最小単位での再設計の依頼と細部の詰めを行いました。
特徴は、2人で1時間半ほどあれば組める簡易なネジ組構造です。また固定不要でどこでも置けて好きな間取りにできる『家具以上部屋未満』の柔軟性、リビングに置けるデザイン性、この3点にはこだわりました。
その結果、mihadesign(ミハデザイン)による「1.5畳のこども小屋」とアクセントウォール的にも利用できる「壁にもなる書斎小屋」、POINTによるウロコ屋根と本棚のデザインが楽しい「ウロコヤ」が提案され、第一弾を飾ることになりました。
2組ともに、どの空間にも成立するよう考え抜いて小屋の設計ができる建築家さんでした。ですから必須事項をお伝えして、あとはアイデアを存分に活かしていただきました。
ある家に向けるべきアイデアを、汎用性を持った商品にする。そのためには多くの労力や調整が必要です。例えばStacksでは、既存の照明や空調が使えるよう上部を空けていますが、裏返せば電気配線などの処理が不要だということ。この考え方も汎用商品には欠かせません。
簡易に組み立てと解体ができる構造の設計は本当に苦労しました。また世の中のニーズやユーザーの要望を掬い、どんな人たちに届けるかや利用シーンを想像しながら使い勝手のよい空間にすることも大変でした。またコストを抑える必要がありますから、まだまだ工夫の最中です。
開発中に収集した声にいろいろな発見もあったと言います。たとえば、開口部の設定もそのひとつ。
「部屋はつくってあげたいけど籠もらせたくない」
という意見の多さに驚かされ、その結果、特にStacksでは2方向の開口部と天井までつかない壁面で半開放性が保たれる構造になりました。
第2弾「ワークスペース」の発売で機能限定のモジュールを追加
12月には、第2弾となる「ワークスペース」の公開へ。ラインナップは、コワーキングスペースco-baの運営経験を活かしたtsukuruba設計の親子のためのワークスペース「co-ba HOME」と家で仕事をする人に向けた新たなSOHOスタイルを提案するPOINT設計の「S-POD」の2種類です。
機能を限定した分、カスタマイズメニューも豊富で、よりアレンジしやすい形になっています。デザインこそ対照的ですが、緩やかな空間や人との繋がりを持っている点では同じ。現在の住宅事情では確保が難しい空間を、手軽に設えられる存在として提案しています。
プランナーや設計士の手を借りずとも、ユーザーさん自らが小屋を組み合わせ、ライフスタイルに沿って部屋を編集できるようにするのが理想です。プロの建築家がつくったモジュールを組み合わせれば、使い勝手も可変性も確保したまま扱えますし、コストも抑えることができます。
ですから今後、収納や水まわりなど機能を限定したモジュールを販売していくことができればと思っています。ゆくゆくは、小屋を組み合わせてつくる家という感じでパッケージ化できればいいですね。
プロの技と住む人の楽しみ、「いいとこ取り」の家づくりを
かつて、日本の住宅は、大きな空間を襖や畳などで区切り、引っ越し先にも持ち運んでまた新しい環境に合わせて空間を組み直す。ある意味モジュール化された暮らしが普通でした。
しかし、今では結婚や出産の段階で間取りや仕様を決めてしまうことが大半です。家族の増加、成長や別れなど暮らしは変化するのに住宅だけが固定したまま。何か手を加えたくても、簡易的なDIYや意に沿わない家具を置くなど中途半端な対応になりがちです。SuMiKaはそんな状況を変え、住まいをもっと柔軟に考えてもらうための提案がしたいと考えています。
継続的な家づくりができる環境にしたいんです。家に合わせて暮らすなんて窮屈だしもったいない。でもこれは誰のせいでもなく、暮らしや家族の成長を考えれば仕方がないことなんですよね。この解決方法のひとつが継続的に手を入れることだと思うんですが、今はまだリフォームか家具を置くかの選択肢しかありません。その中間を僕らが提示すれば、暮らしに合わせて家の中を変えられるのでは、新しい住まい方を実現できるのではと。
また、「家の中の小屋」は基本的に合板仕上げのため、壁紙を貼ったり黒板塗料を塗ったり、また穴空けや釘打ちすらも自由。これは住宅に対するDIYのハードルを下げる役割も含めているそうです。
今の住宅では、壁紙ひとつ決めるのにも長い間飽きないものにしなければ、と考える必要があります。でも、合板なら挑戦してもいいかなって思えそうでしょう。アクセントウォール化して季節ごとに貼り替えたり、憧れの壁掛けテレビも実現できたりもします。心のハードルを下げる最初の練習台にしていただきたいんです。
大事な基礎は建築家というプロが手がけ、アレンジは住む人が暮らしやすさを考えながら行う…そんないいとこ取りこそが、今後の暮らしの新しいかたちになるのではないか、と。
私たちは『好きに暮らそう』というテーマを掲げていますが、暮らしに関わる単位を最小にして考える時に、見えるものは多い気がします。
今回の小屋についても同じように、この空間で誰が何をしたいか考えてみるといいのでは。そのためにもぜひ実物を体感してみていただきたいですね。ワクワク感や楽しさを感じる一方で、家づくりを考えるきっかけにもなってくれると思います。
渋谷と横浜市都筑区のリノベるショールーム、武蔵小杉と瀬田、2016年1月からは名古屋のタマホームモデルハウスにて実物が体験できるので、興味のある方はぜひ。
今までにない「家具以上、部屋未満。」というこの考え方、これからの暮らしや住宅を考える上で新しいキーワードになっていくかもしれませんね。
Text 木村早苗 Photo KEICO PHOTOGRAPHY