「暮らしのものさし」では、ただ消費者として暮らしを営むのではなく、自分の暮らしをデザインする、“暮らしのつくり手”たちを紹介しています。※この特集は、SuMiKaとgreenz.jpが共につくっています。
最近では、「YADOKARI」がスモールハウスをクラウドファンディングで建てたり、軽トラモバイルハウスに乗っていることで話題となった手塚純子さんがタイニーハウス・ワークショップに参加していたりと、日本でも盛り上がりを見せつつある、タイニーハウス。
そんな「タイニーハウス・ムーブメント」と呼ばれる新しい文化がうまれる中で、日本で小屋暮らしをしている人は何を思い、そして何を感じながら暮らしているのでしょうか?今回は、千葉県長柄町で小屋を建て、千葉県八街市との二拠点で暮らす五十嵐和美さん・薫さん夫妻の暮らしぶりをご紹介します。
平日はトレーラーハウス、週末は別荘小屋
約8000人が暮らす千葉県長柄町。この街の湖のほとりに小屋を立てて暮らす五十嵐さん・夫妻は、平日は自身が運営するインテリアショップのある千葉県八街にあるトレーラーハウスで過ごし、週末にこの別荘小屋で過ごしているのだそう。
そんな別荘小屋を案内していただきました。中を覗くと、白を基調として統一感がある内装に、外からのひかりがこれでもかと入ってくる、開放感あふれるお部屋になっています。
そして、その隣の部屋にあるのは、
部屋をじんわりと暖めてくれる薪ストーブ。
ベランダは、自身の手で増築したというウッドデッキになっています。広々とした空間には、犬小屋や、ぼんやりと景色を眺めながらくつろげるハンギングチェアが置いてあり、家の外観とも調和がとれています。
「小屋暮らし」を選んだきっかけ
普段は千葉県八街のトレーラーハウスで過ごし、インテリアショップの経営をしている五十嵐さんご夫妻。おふたりが、長柄町でのタイニーハウス暮らしを始めた理由は何だったのでしょうか?
かれこれ12年前になるのですが、八街に土地があったので、そこにいくつか小屋を建てて、洋服や雑貨を販売するインテリアショップをつくったんです。そのショップに別荘小屋コミュニティに住むひとりが遊びに来たことが、別荘小屋購入のきっかけになりました。小屋を見て、即決で購入してしまいました(笑)(五十嵐薫さん)
12年前に購入した小屋は、一部屋しかない小さいものだったそうですが、五十嵐さんはコツコツとDIYをして増設を進めていたのだとか。
そして6年ほど前に建てましもしたそうですが、やがて仕事の忙しさに追われ、3ヶ月に1回ほどしか来れなくなるように。しかし、ある出来事がきっかけとなり、「もっと別荘小屋を活用しなければ」という思いに至ったといいます。
2008年ごろに体調を崩してしまったんです。その頃は仕事も忙しく、食生活も栄養のバランスを考える余裕もなかった。なので、もっとゆっくり暮らしたい。そう思って、週に1回はお店を休み、別荘小屋での暮らしを満喫することにしました。そうしたら15年いなかった子どももできて、いまは家族3人で暮らしています。(五十嵐薫さん)
そんな五十嵐さん夫妻が、八街市のインテリアショップの横につくり、平日に住んでいるトレーラーハウスと、長柄町にある別荘小屋を行ったり来たりしながら暮らすのはなぜなのでしょう。薫さんは、こう話します。
引っ越しをするのが、もともと好きだったんです。でもお店を持った以上、引っ越しができない。住み心地のいい八街市のトレーラーハウスと、景色や自然を満喫できるに長柄町の別荘小屋住むことによって、一回一回が新鮮に感じるんですね。渡り歩くのが楽しいんです。(五十嵐薫さん)
「不便さ」を手探りで楽しめるのが、
小屋暮らしの良いところ
12年も前から小屋暮らしを実践している五十嵐さん、その長い生活の中での子や暮らしの魅力についてどのように考えているのでしょうか?
小屋暮らしは、田舎暮らしを楽しむことにつながったり、家族が仲良くなったりするんです。立派な家に住んでいると、ご飯の時以外は別の部屋で生活することが多いですよね。けれども、小屋は整っていないから、嫌でも顔を合わせることになります。低所得なのに立派な家をローンで買うよりも、小屋で満足して楽しく暮らしてほしいです。生きていくために何が必要で、何がなくても困らないのか。それを手探りで見つけていくのが、小屋の楽しみ方だと思います。(五十嵐薫さん)
週末にみんなで集まる、
DIY小屋コミュニティの広がり
小屋ぐらしを満喫している五十嵐さん夫妻のまわりには、五十嵐和美さんが建築関係の仕事をしていることもあり、DIY小屋コミュニティができつつあるのだとか。
最初は別荘小屋の改修工事や修繕の手伝いからはじまり、今では一緒に飲んだり、BBQをするような仲になっていったと言います。そんなDIY小屋コミュニティを楽しむ、五十嵐さん夫妻。最近では、自分たちで「FioreFes」というちょっとした手づくりグッズの展示や、小屋の魅力を多くの人に知ってもらうイベントを開催しました。
今まで特に宣伝しなくとも、ありがたいことに仕事が途切れなかったのですが、4月から仕事がパッタリとこなくなってしまったんですね。なので良い勉強になるかと思って、この夏にSuMiKaが長野県茅野市で主催した「小屋フェス」でボランティアさせてもらったんです。そこでは「いずれ別荘がほしい」という声もいただけて、楽しく勉強させてもらいました。その流れで、自分たちでもイベントを開いてみようと思って、今回のイベントを企画しました。(五十嵐和美さん)
当日は、50人ぐらいの参加を見込んでいたそうですが、結果的には120人が集まり大盛況に! 五十嵐さん夫妻が営む八街のインテリアショップに来てくれるお客さんや、まわりの別荘の方も集まったのだとか。
もともと別荘小屋を持っている方で「自分の別荘は自分で直したい」という思いを持っている方がけっこう多くいて。「傾斜地なので、ここに別荘を持ち続けるのは大変。いつか手放したいから、五十嵐さんが顔の見える相手に譲ってくれたら」という、良い意味の下心を持って参加してくれた方が多かったです。(五十嵐和美さん)
そう語ってくれた五十嵐和美さんは、今後もイベントを定期的に開催することを考えているそう。都内近郊で別荘小屋を持っていて、自分でDIYリノベーションをしたい人や、「ガッツリ田舎に移住したい。その地で自給自足の生活をしたい!」と考えている方の応援をしつつ、本格的な建築ワークショップを開催できれば、と語ってくれました。
「暮らし」の広げ方のヒントを
イベントを開催した五十嵐さん夫妻は、今後このDIYコミュニティをどのようにしていきたいのでしょう? 和美さんは、こう話します。
今後は、このコミュニティがみんなが楽しめる場になればいいなと思っています。私たちは別荘ビジネスを展開したいと思っているので、売りたいひとと買いたいひとを巡りあわせて、末永く関わることができればと思っています。だって、「お金をもらって別荘を売って、それっきり」ではなく、家族ぐるみでずっと付き合っていけたほうが楽しいですもんね。(五十嵐和美さん)
別荘小屋コミュニティのリーダーとして、小屋で暮らす楽しさを存分に語りつつも、日本人特有の価値観や、それを変える難しさも考えなければいけないと話してくれた、五十嵐さん夫妻。
20代の僕にとって「小屋暮らし」や「タイニーハウス」という選択は、あまり身近に感じることができませんでしたが、いざ間近で五十嵐さんの丁寧な暮らし方をみると、僕の手が届くところにその暮らし方があるように感じられました。
いきなり小屋暮らしに完全シフトすることは難しいけれど、多様なはじめ方、暮らし方があっていいんだな、と。あなたも「暮らし」の広げかたを考えてみませんか?
(写真:荒川 慎一)
ライターのプロフィール
greenz ジュニアライター
1994年東京生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。大学ではデザイン思考を専攻。趣味は音楽鑑賞とDJ。好きな食べ物は、きしめんです。
※この記事はgreenzに2016年03月08日に掲載されたものを転載しています。